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エピローグ

お待たせしてすみません。体調不良でした。


 結論から言えば、《怪盗》騒動は市井や魔国を除いた国外に漏れることなく、王宮内で収束を迎えることとなった。

 人知れず起きた事件解決の立役者であり、当面の危機を完全に取り除いたことで依頼を完了し、無事にお役御免となったシャーリィたちは一様に祭囃子の中へと溶け込む。

 夏至祭も滞ることなく無事に開催され、王国民や各国からの来賓者、そして魔国の王女グリムヒルダも平時の数十倍は活気溢れる王都の様子と、普段は目にすることのない祭りならではの催しを、異国の地で初めて出来た友人と共に堪能することが出来た。

 それはカイルやクード、レイアといったまだ少年少女と言える年若い冒険者たちも同じこと。パーティ三人の水入らずで故郷である辺境とは規模からして違う、潤沢な財力と圧倒的な人数によって成せる夏至祭は、大人も子供も関係なく見る者全てを圧倒し、たちまち虜にしてしまうだろう。

 一週間にわたる長期の祭りである王都夏至祭は、その内の三日間を満喫しても満喫しきれない、それほどの規模の祭典だ。それは祭りの中盤である四日目になって、最高潮の賑わいを見せることとなる。


「二人とも、はぐれては大変です。私の手を握っていてください」

「うん!」

「確かに、これだけ人が多いとすぐにはぐれるかもね」


 カイルたちは連日遊び倒し、ヒルダは《怪盗》の捕縛に伴って囮の必要がなくなった魔国から護衛を送られている。そんな狙いすましたタイミングで街に繰り出した母娘三人は、互いの白い手を繋ぎあいながら人の激流と化した大通りの端を歩いていく。


「うわぁ! 見て見てママ! 今日のパレードもすごい!!」

「ん……! 魔術でできてるみたいだけど、どうやって動いてるんだろ?」


 王都夏至祭名物である、日替わりのフロート車が彩るパレードは数万は下らない観客が目を輝かせながら見物に来ていた。

 炎を操り宙に文字を浮かべ、氷と水の巨大な舞台を築き上げる。可愛らしい動物のぬいぐるみのみで構成された楽師団が笛を鳴らし、翠緑に輝く半透明の妖精たちが舞い踊る。幻想的な魔術で彩られ、意匠を凝らした移動舞台が横切るさまは実に華々しく、中でも巨竜を模したフロート車は圧巻だ。


「普段は会敵必殺が常の魔物がこうして街中で踊るさまを見られるのも、祭りならではの光景ですね」

「うん! 昨日はおっきなトマトの魔物だったし、他のフロート車も全然違うし、毎日見ても飽きないどころか次が楽しみになってくるね」


 天に向かって火を噴き、咆哮を上げる竜の正体が幻影の魔術であるということは分かるが、それをあえて口にはしない。ただ見たものをそのまま受け入れ、楽しむのも祭りの醍醐味だと考えながら、シャーリィは楽しそうに身を乗り出すソフィーとティオを横眼で眺めながら、パレードに視線を送っていた。


「次はどこ行く? 私たちはまだあっちの区画に行ったことが無いんだけど」

「では、そちらに行きましょうか。私も王都の夏至祭を殆ど見たことがないので、少し気になります」

「ん。れっつごー」


 普通に巡れば、一週間あっても王都夏至祭の催し全てを見て回ることは出来ない。故に見える屋台や遊技場の全てが目新しく、母の手を引っ張って今にも走り出さんばかりの様子のソフィーとティオには、『今日も遊び疲れてすぐに寝そうだ』と苦笑を浮かべてしまう。


「えー!? こっちの方が良いよー! ほら、祭り用の貸衣装屋さんっていうのがあるんだよ!? 普段は着れない服を着るのなんて楽しそうじゃない?」

「……こっちのゴーレム砕きっていうののほうが面白そう。高得点出せば景品が出るらしいし」


 そして催し物が多いからこそ、行き先で揉めることもまた祭りならではというものだろう。ソフィーは王都でも大手の服飾店が催す、祭りの衣装を借りれる貸衣装屋に。ティオは冒険者や力自慢を対象としたアトラクションで、岩でできた動き回る人型ゴーレムを制限時間内に何体砕けるかを競う催しに興味があるようだ。

 お互いに冒険者になりたいと、将来に関しては似た者同士でも、私生活に係わる趣味嗜好は正反対の二人。このちょっとした対立は、ある意味必然であった。……両方行くという選択肢が浮かばないのは、その理由の根底に金銭の無駄遣いをしないという教育の賜物があると思うと、シャーリィは少し複雑な気分になったが。


「時間もある事です。両方行けばいいのではないですか?」

「むぅ……それもそうだけど」

「……大丈夫? 無理してない?」

「こういう時くらいは大丈夫ですよ」


 とは言えせっかくの遠出。せっかくの祭りだ。こんな時にまで財布に糸目をつけるほど、シャーリィも狭量ではないのだ。


「貸衣装の事を考えれば、汚さないためにも先にアトラクションに行った方が良いですね」

「それじゃあ、こっち」




 パレードが通る大通りから少し外れ、王都冒険者ギルド演習所。普段は一般人の立ち入りが禁止されるこの場所も、夏至祭期間中に限っては催し物の為に公開されるらしく、冒険者のみならず、大勢の少年たちの歓声で賑わっていた。


「さぁ始まりました、王都ギルド恒例のゴーレム砕き! 一般の方は一体倒せば夏至祭出店の引換券を一枚プレゼント! 冒険者の方は三体倒せば一枚です! 参加料金は銀貨一枚ですよー!」

「随分分かりやすい景品ですね。出店など、銅貨数枚ですし」

「商売上手」


 地属性の魔術を操り、ゴーレムを生み出す冒険者らしきローブの男と、その周りで受付嬢たちが大声で宣伝をしている。単純明快で実に分かりやすく、それでいて直接的な金銭に頼らない、夏至祭に参加する誰もが欲しがるような景品に、三人はどこか感心したような表情を浮かべる。自信のある冒険者や考え足らずの子供なら間違いなく釣れるだろう。

 対象となるゴーレムもなかなか繊細かつ精密だ。いずれも攻撃はしないが回避と防御に徹し、その動きは生身の人間と見紛うほど。更に参加者に合わせてゴーレムの強度や大きさも変えているようだ。一目で冒険者と分かる男には大きな岩のゴーレムを、小さな少年には同じくらいの背丈の土のゴーレムを生み出している。


「すごい賑わい! これってベリルを呼び出して戦ってもいいのかな?」

「……駄目っぽい。向こうが用意した武器だけで戦って、魔術の使用は禁止って書いてある」

「なーんだ」

「ま、わたしは参加するけどね」

「あ、ズルい!」

  

 性格や雰囲気とは裏腹に、この手の催しを好むティオは意気揚々に受付の方に向かい、その途中でシャーリィに声をかける。


「お母さんも一緒にやろ?」

「私もですか? ……まぁ、いいですけど」

  

 シャーリィからすれば、ゴーレムの行動や性質が制限されている以上、あまり興味がないのだが、他ならぬティオに言われれば応じざるを得ない。受付に向かい、自身が冒険者であることを認識票を提示して示すと、ギルド側が用意した武器を手に取る。

 いずれも数打ちの鈍ら、あるいは演習用であると理解できるくらいに刃毀れが目立つ古めかしい武器の数々。槍、斧、槌、爪と種類は様々だが、シャーリィが選ぶのは勿論剣だ。


「さぁ、新しい挑戦者――――おぉっと!? 美女です! 凄い美女の冒険者が参加してきました!」


 ゴーレムを生み出す男の前に立つと、周囲が爆発したような歓声が上がる。辺境では既に周りが慣れているが、ここは滅多に来ない王都。神秘的ともいえるシャーリィの容姿に色めき立つ男冒険者たちは挙って騒ぎ立て、それ以外の者も思わず見惚れてしまう。


「……?」


 そんな反応をする理由が分からずにシャーリィは首を傾げるが、とりあえず生み出された岩のゴーレムと対峙することにした。

 ……この場において、シャーリィはあまり結果を出すつもりはなかった。娘に格好の付く程度に、それでいて主催者側の不利益にならない程度にゴーレムを倒すつもりなのだ。倒し過ぎて景品を大量に奪い、店側を苛める趣味はない。

 周囲の観客も見るからの線の細く、とても強そうには見えないシャーリィが大戦果を挙げるなどとはとても思っていないのだろう、どこか侮った視線を向けている。


「ママ―! 頑張ってー!」


 しかし、いざ始まった瞬間、そんな声援を受けてシャーリィは手加減という枷を思わず外してしまった。一般人には手がブレたとすら認識できず、一切動いていないようにしか見えない剣速で、切れ味などほぼ無いに等しい剣で、ゴーレムは砂状になるまで切り刻まれてしまったのだ。ソフィーの声援を受けてから一秒にも満たない間にである。


『『『……え?』』』


 思わず唖然となる一同。それはゴーレムを生み出す魔術師も同じことで、そんな彼に対して手加減と大人気(おとなげ)を忘れ、娘の憧憬の視線を受けて無表情のまま舞い上がったシャーリィは静かに瞳を燃やしながら告げた。


「さぁ、早く次のゴーレムを」


 制限時間はゴーレムを生み出す時間を含めて一人につき三分。その間に百に迫るゴーレムを切り伏せたシャーリィは、この出店から出禁を食らう羽目になった。




「それじゃあ、次は貸衣装屋さんだね!」


 ゴーレム砕きを主催したギルド側から『もう二度と来ないでください、お願いします』と頭を下げられながら、手に入れた引換券の半分を温情で返却してその場を後にしたシャーリィたち。ティオも子供枠で参加した中では最高成績を出したらしく、引き攣った表情の受付嬢が何とか追い返そうとしていた様子が見られた。


「……ふーん、何か喫茶店と一緒にやってる出店なんだって」

「ふむ……あまり関連性があるように思えませんが、オーナーが一緒なのでしょうか?」

  

 夏至祭用に設置された大きな地図案内看板を見上げる。とりあえず移動して目的地に行ってみると、そこには既に幾人かの女性がショーウインドウに飾られた民族衣装を眺めていた。


「わぁ……」

「……見慣れないデザインですが、これは確かに良いですね」


 薄く、涼やかでありながらも品を残す程度の布面積のあるシャーリィ好みのデザイン。色も翠や蒼と涼やかで、この真夏日の中でも着て楽しむにはもってこいだ。


「これお揃いのがあるみたい! ティオ、一緒に着てみない?」

「ま、いいけど」


 必然、シャーリィは《勇者の道具箱》から映写機を取り出す姿勢に入る。この貴重な一日、その貴重な姿を写真として切り取り、後世に残すのは親の務めだと、微妙に大袈裟なことを考えながら店に入ると、視線を向けた店員たちが一斉に瞠目した。


「いらっしゃいませ……って、あぁああああああっ!? ほ、本当に来たぁぁぁあ!?」

「え? えぇ!? な、何事!?」

「……分かんない」

 

 詰め寄ってくる店員たちに目を白黒させるソフィーとティオ。今回ばかりはシャーリィも意味が分からず呆気に取られるが、店員たちはそれに意に介さず隣の喫茶店へとシャーリィたちを連れて行く。


「ずっと待ってたんですよー! 本当にいらしてくれるのか不安だったので!」

「え、あの……?」

「さぁさぁ、こちらへ!」


 いったい何の話なのか。そう尋ねる暇もなく、店員たちはシャーリィたちを引っ張って隣の喫茶店に入る。そこには大勢の男性客を相手にする、華々しく普段着ないであろう様々な衣装を身に纏うウェイトレスたちの姿。


『うおっ!? 本当に来た!? 幻の店員さんだ!!』

『うそっ!? 実在したの!? まさか本当に幻のウェイトレスが来るなんて!』

『すみません、あの子たちに接客させてもらえませんか!?』


 こちらを見て騒ぎ立てる人々に、シャーリィは思わず後退り、ソフィーとティオが若干怯えながら腰にしがみ付いてくる。何やらこっちのことを一方的に知っていそうな反応だが、男性客から伝わる熱視線が尋常ではない。


「……??? どういうこと?」

「幻のウェイトレスさんって……私たちのことを言ってるのかな? でもこんなお店で働きに出た覚えが無いんだけど……?」

「…………これはどういうことです? 事の詳細の説明を求めます」

「え? 説明も何も、今日は夏至祭限定のイベントの為に来てくれたのでしょう?」


 地を這うように低い声がシャーリィの口から洩れる。それでも何とか冷静さを保てているおかげか、店員は平然とした表情で壁を指さす。そこには大きな写真付きの広告が張られていた。

 その広告を見る限り、この喫茶店では夏至祭期間中に女性店員が普段とは違う様々な衣装を身に纏って接客することを売りとしているらしい。それ自体は問題はないだろう、見渡してみれば、確かに見目麗しい女性店員が集まり、男性客の眼を潤している。

 しかし、問題は広告に使われている写真。そこにはやけに見覚えのある衣装に身を包んだ白髪の美幼女二人と、露出過多な衣装に身を包んで真っ赤な顔で胸元や太腿を手で隠そうとする白髪の女の姿が映し出されていた。

 紛う事無きシャーリィたち母娘だ。春に起きた竜王戦役の際に、カナリアに恥ずかしいウェイトレス服を着せられた時の自分たちだ。


「いやぁ、このお店始めた時からオーナーがこの写真でお客を集めてたんですけど、夏至祭中に満を持して本人たちが店に来る〝かも〟って聞いて常連さんたち含めて大勢のお客さんが集まってきまして。またオーナーが適当なことを言って来なかったらどうしようかと悩んでたところなんですよー」


 店員の声が右から左へと通り抜ける。店員たちがどんな服を着せるかと姦しく騒ぎだし、男性客がリクエストを入れる様子にも気づかないほど、ポカンとした表情で広告を眺めていると、来店を告げるドアベルがチリンチリンと音を鳴らした。


「あ、オーナー。いらっしゃいませー。お昼休憩ですか?」

「うむ! 面倒事はあらかた済ませる手筈を整えたのでな! 脳で消費された糖分を補給する甘ぁいスゥイィィイーツを……む?」


 現れたこの店のオーナー……もとい、カナリアがこちらに気付く。シャーリィたちもカナリアに気付く。

 無言のまま見つめあうこと数秒、カナリアは手首だけで拳をくるくると回しながら首を軽く傾げ、実に愛らしく、それでいて苛立ちを掻き立てる渾身の笑顔と共に拳を頭にコツンと当てた。


「やっちゃった。てへ」


 


「くっ……魔女め……! 何処までも人を振り回して……! しかもあんな黒歴史中の黒歴史が、王都に出回っていただなんて……っ。……今度会ったら本気でコロス」


 時は過ぎて夜。貸し与えられた部屋のベランダで、シャーリィはカナリアから切り取った黒い角を握り潰した。幾度かその体に傷を付けたが、結局逃げられたのである。


「ま、まぁまぁ。ママもすっごく似合ってたから大丈夫だよ」

「全然変じゃなかったし、他の人からの受けもよかった」

「ですが私は既に三十路であって、あんな年頃の少女がするような恰好は……」


 己の恥ずかしい写真を公開されたことを知って怒りと羞恥で顔を真っ赤にする母を宥めるように、ソフィーとティオはシャーリィの背中をポンポンと叩くが、今回ばかりはシャーリィも精神的なダメージが大きい。


「そもそもあんなはしたない恰好をしている写真がこんな大都会の一部界隈で広まっていたなんて知りませんでしたし、それに気付かなかった自分の迂闊さもそうですが、改めてあの時の姿を客観的に見て見ると、年甲斐もない恰好をしている自分が情けなくて恥ずかしくて…………あぁ、穴があったら入りたい。もう王都を大手を振って出歩けません。……ソフィー、ティオ……こんな母を失望しませんでしたか?」

「もー、しないってば」

「お母さんは気にしすぎ」


 昼の事を思い出して、真っ赤な顔で縮こまってしまったシャーリィに二人は苦笑を浮かべる。肉体的には年若い母が着ても特に変には思えない服装なのだが、本人的にはかなりのトラウマのようだ。

 

「でも私は楽しかったかなぁ。パレードも素敵だったし、ご飯も美味しかったし、服も可愛いし」

「そだね。……まさか祭りの最中に店の手伝いをする羽目になるとは思わなかったけど」

「でもお礼に服も貰えたし、良かったと思わない?」


 あの後、あの店の空気を壊すことは憚られた三人は、民族衣装を身に纏って少しの間接客業に勤しむことになった。その礼として接客の間に身につけた衣装を貰えることとなり、ソフィーとティオも涼やかで動きやすく、見栄えも良い衣装が気に入ったのか、今でもずっと身に纏っている。

 それはシャーリィも同じことだ。彼女の場合着替えるタイミングが無かっただけだが、それでも服に罪はない。露出も多くはないし、個人的にも少し気に入っている。


(……もっとも、それを素直に口にしたくはありませんが)


 王都の夏至祭に来れた、その切っ掛けを作ってくれた一点のみは感謝してもいい。まだ夏至祭を半分残した段階で、娘たちが満足げなのもただただ良かった。

 しかし、ラクーンの件と言い、今回の喫茶店の件と言い、幾らなんでも堪忍袋の緒が切れるというものだ。どうも昼の様子を見る限り、責任問題などはあっさり片づけたようなので、次にカナリアと相まみえれば、その時こそ本気で首を落とそうとシャーリィは固く心に誓った。


「辺境に戻ればまた夏至祭があるし、去年の倍以上楽しめるね。今年はこれ着て参加しようかな」

「踊りの? 良いと思う。去年のは流石に小さくなってるしね」


 両腕を広げてクルリと回るソフィーとティオ。その姿を《サイレンス》の魔術で音を消した映写機のシャッターを十連続押した。

 物質的な収穫もあった。こうして新鮮な衣服に身を纏う二人を神速で写真に収めるが、満足するだけの量を撮るよりもフィルムが切れるのが先かもしれない。喫茶店を少し手伝っている間も数百枚近く撮ったにも拘らず、まだ撮り足りないくらいなのだ。


(……今月も大変でしたけど、終わり良ければ総て良し……なのでしょうか?)


 此度もまた、悪漢の魔の手から娘たちを守れた。ひとまずそれに満足すると、遠く離れた地面から夜空に向かって火の玉が独特の音を鳴らしながら打ち上げられる。


「お母さん、もしかしてあれが?」

「え? もう始まっちゃうの!?」

「二人とも、柵から身を乗り出すのは危ないですよ」


 パァン……! と、夜空に大輪の花が咲いた。柵から身を乗り出そうとしていた二人の動きが止まり、その顔を明るく染める。打ち上げられる花火は最初の一発を皮きりに、次から次へと絶え間なく打ち上げられ、夜の王都を照らし続けた。


「……あぁ、なるほど。これは確かに……」


 良いものですね。……そんな当たり前の言葉は、夜空の花を掴もうと手を伸ばす二人を見て、邪魔にならないように飲み込まれた。

 赤、青、緑、黄色……色鮮やかな花火が夜天に弾け、王都のいたるところから歓声とざわめきが上がり続ける。その輝きは秋の実りを願うように、あるいは決して語られることのない戦いの功労者たちを慰撫するように、王都の空で花開き続けた。


少々書籍作業あるので少し投稿が開くかもです。

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