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剥がれ始めるメッキ

投稿遅れて申し訳ありません。

ここ最近、疲れと眠気が酷くて寝落ちしてばっかりでして。

そんな作者の作品でもよろしければ、評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。


 幾本もの鉄矢が飛来し、大地は盛り上がり風は荒ぶ。まるで宙を跳ねるような奇怪な動きで三人を翻弄する《怪盗》との闘いは、しかし堅実に膠着状態を維持していた。


「まったく! こうも邪魔をされると面倒極まりない! 端役は端役らしく、早々に舞台から降りていればいいものを」

「誰が端役だ、誰が! ……《岩槍・隆起》!」


 一本の巨大な岩槍を地面から突き出す魔術、《アースランス》がクロウリーの胴体を目掛けて隆起するが、宙を舞う怪人の前にはあまりに無力。魔術の届かない高所へと逃れて反撃に無数の光弾が連続で撃ち出された。

 当然のように無詠唱発動だ。息つく暇もない遠距離からの連続攻撃による反撃に、クードは斥候として鍛えられた敏捷性を活かして逃げ回るが、それでも光弾の数はあまりに多い。徐々に追い詰められる仲間を救わんと、今度はカイルが岩槍を駆け上がってクロウリーが座す高みへと跳躍する。


「やあああああっ!!」

「蛮勇は買うが……あまりに未熟というものだっ」


 現状、クードを優先的に狙う必要のないクロウリーはカイルに照準を定めた。無数の光弾が逃げる術を持たないカイルへと殺到する。   


「あんまり、無茶しないでよねっ!!」


 ルーン文字が刻まれた鉄矢が一発、二発と光弾を撃ち貫き、込められた爆発の魔術が解き放たれる。しかし、それでも手数はクロウリーの方が圧倒的に上だ。盾やメイスで凌げる量を遥かに超えている。 

 

「《自傷・突風》! ……ぐぅうっ!!」

「なんと!?」


 上下左右から襲い掛かる光弾が直撃しようとする直前、カイルは自分の背中に向けて空圧の壁を発生させる魔術、《エアフォース》を発動させた。

 本来ならば攻撃に対して強い向かい風を発生させることで攻撃を押し返す風の属性の中でも基本的な防御用の魔術。それを自ら受けることで推進力と変えたのだ。


「あだぁっ!? つ、捕まえた!!」

「くっ……! は、離したまえっ」

「ぜ、絶対に嫌だっ! クード!」


 急激な加速による回避。二、三発の光弾が直撃するが、それを歯を食いしばって耐えたカイルは《怪盗》に迫る。

 メイスを振り下ろすタイミングを掴めず、そのまま体当たりをくらわせるが、カイルはクロウリーの服を握りしめ、空中に浮かぶ彼にぶら下がった。

 人一人分の暴れる荷物を付けられたことでフラフラと高度を落とす中、交わされるのは名前のみで行われる以心伝心。


「《捕縛・土流》!!」

「ぬ……ぐぅううっ! 致し方ないっ」

「あぁっ!? しまった!」


 巨大な蛇のような動きで敵に襲い掛かり、そのまま質量で捕縛する土の濁流、《クレイパイソン》の魔術がカイル毎クロウリーを封じようとしたが、それよりも先に転移の魔術が発動される。

 カイルを置き去りにし、上空という地上を這うことしか基本的に出来ない三人に対して有利な位置を維持するが、それはあくまで三人に対してのみ。


「「ピーッ!」」

「ぐあっ!?」


 天空に控えるのはベリルとルベウス、青と赤の霊鳥だ。二条の極大光線でクロウリーの体を抉り飛ばす。

 それでもなお空中浮遊を維持するのは流石といったところだが……即座に復元される度に尋常ではない魔力と体力を消耗しているのを肌で感じることが出来た。


「くっ……! まさか、二十も生きていない子供らにここまで追い詰められるとは……!」


 カイルたちと《怪盗》の戦いは、前者の優勢だった。元々クロウリーは凄まじく消耗しており、強力な魔術の発動をことごとく封じられているのも同然なのだが、それでもカイルたち三人相手ならばまだ余力があった。矢も魔術も悠々と躱せる上空から一方的に魔術を放ち続ければ勝てる戦いだったのだ。

 しかし、そんな戦力差を二羽の霊鳥が覆す。自由自在に天空を飛び回る超火力を誇る完全移動砲台……それも大気中の魔力で充填するおまけ付きだ。

 転移の魔術も二メートルほどの短距離を移動する程度……それも数回しか使えないだろう。弱弱しい魔力の燐光と、荒く吐き出される息がカイルたちに勝利の予感をもたらしていた。

 

「これ勝てちゃうんじゃない……!? ここで仕留めれば、昇進間違いなしだよ!!」

 

 レイアの鼓舞に否応が無しに戦意が駆り立てられる。無論油断することはないが、逸る気持ちが心臓の鼓動を早めていた。

 そんな、いい気になっている(・・・・・・・・・)三人を見て、クロウリーは歯を軋ませる。


「……いい気になるなっ……んんっ! 見せかけだけの幼女め……! 見た目が幼いだけの年増など、ましてや胸に巨大で邪悪な物をぶら下げている者如きが……!」

「おい待てコラ。誰が年増だ。そして誰が見た目幼女だ。ていうか、何でそんな事まで知ってんの!? まさか調べた!?」

「……私とて、見たくて見たかったわけでは……!」

「見たのか!? 見たってのかこんちくしょー!」


 激怒と共に速度と数を増して飛来する鉄矢の雨。それを躱すクロウリーの隙を伺いながらも、カイルはどうにも先ほどからの《怪盗》の様子が気になっていた。


(何だろう……? この、見せかけだけっていうか……紳士的なキャラを作っているっていうか……)


 確かな実力に紳士然とした口調と態度。それらは相手を威圧し、筆舌に尽くし難い恐怖を与えるには十分だろう。

 しかし、実力に関してはともかく、口調と態度……いわゆる性格を表すそれらが、どうにも薄っぺらく感じるのだ。こうして追い詰められただけでもメッキが剥がれ、ボロが出そうになっているのが良い証拠。

 

(それに……さっきなんか無理矢理言い直したように聞こえたんだけど……?)


 口調も最初に比べれば何だか軽くなっているようにも聞こえる。そう考えていた矢先、クロウリーは現状に痺れを切らしたのか、地を這うような低い声と共に苛立ちと怒気をまき散らす。


「もういい……なんか疲れた」

「……え?」

「……んんっ! ……中々楽しませてもらったが、何時までも君たちに構っていられるほど暇でもないのでね。余興もここまでとさせてもらおう」


 今までとは明らかに違う……それでいて先ほどとは違い、自然な口調で喋ったかと思えば、咳払いをして両手を横に広げたクロウリーの背後に、五つの巨大な魔法陣が展開される。

 焦っている時に喋れば喋るほど際立つ口調の不自然さ……その事を意識する暇もない。この肌を焼くような尋常ではない魔力に、複雑怪奇な五つの魔法陣。その内容を見聞きしたことだけはあるカイルは思わず悲鳴を上げた。


「あの術式って……もしかして《ブリューナク》っ!?」


《ブリューナク》……別名、五連光速照射式と呼ばれる魔術がある。ひとたび放たれれば、シャーリィのような未来視でもなければ回避不能とされる光速にして鉄壁すら容易に貫く閃光を五つ同時に発射する、極めて強力な魔術だ。

 その消費魔力もさることながら、術式の複雑さに高度な魔力操作を要求されるため、扱える者は殆どいない。カイルとて、興味本位で目を通した文献との類似点が多かったからそう推察しただけだ。本人もその全容を理解しているわけではない。

 しかし、その絶望は間違いではない。個人用にアレンジされているが、これより放たれるのは光速必殺である五条の光……丁度クロウリーの敵対者と同じ数の砲撃だ。

       

「僕らみたいな駆け出しに使う魔術じゃないよ!?」

「あいつ……どこにそんな力を隠し持ってたんだ!?」

「ここまで私を追い詰めたことは褒めておこう。だが、切り札というのは常に取っておくものなのさ」


 悟らせないように魔力をため込んでいたのだろう。しかし、それに気づいた時には既に遅い。先ほど砲撃を放ったベリルとルベウスは魔力切れの状態で、カイルたちの結界術では電光を迸る魔法陣から放たれる砲撃を防げない事を、大気を揺るがす魔力が厳然と告げている。  


「これで終幕だ。君たちを排除し、私は悠々と三つの青く麗しい少女たちを迎えに行くとしよう」


 五つの魔法陣が急激に光を増していく。もはやここまでかと、三人は覚悟を決めかけた。


『――――居たぞ!! 奴が《怪盗》だ!』


 その時、城内に凄まじい警音が響き、無数の軍靴が地面を蹴る音が近づいてきた。


   


「良い……実に良い。これほどの接戦、これほどの高揚、一体何年ぶりの事か」


 白と黒の武神による激闘は、遂に夏至祭前日の夕刻にまで及んだ。

 何十時間も激しく火花散る音が途絶えぬ戦いの中、僅かに挟まれる互いの隙を伺う時間。無数に出来上がった倒木の陰に隠れながら相手の気配から隙を伺う両者の間には、チリチリと電流が走るような緊張感が流れていた。

 

(しかし、時折妙な腕の痺れを見せる。恐らく身体的な欠陥があるのだろうが……それでもなお、これ以上に無いほど手強い)


 マリオンは理由を知る由もないが、禁断症状によるシャーリィの腕の震えは時間を重ねるごとに頻繁に、より顕著なものとなっている。

 常人ならば戦うことすらままならないだろう……そんな状態になってもなお、シャーリィは生理的な震えに対応しながら太刀筋を変え、一合、二合と刃金を交えるごとに疾く、鋭くなっていく。 


(自らの不調すらものともしないその武技に敬意を示そう)


 そも殺し合いで自らの不都合を言い訳にするなど三流のすることだ。マリオンとてこれまで戦いに費やしてきた日々を送っており、幾度となく不利な状況下での戦いを強いられてきた。肉体的にも、精神的にもだ。

 それでもなお、言い訳を盾にし、眼に諦めを宿らせて勝利も生存も捨てる輩を何人見てきたことか。昨今の魔術や魔道具の発展、利便性の向上に伴い、真の戦士とも言える強者の減少にも不満を抱いていた《黒の聖槍》は、いうなれば昨今の戦士たちに失望していたのだ。

 

(魔道を主力に置くことに不満があるのではないがな)


 マリオンにとって戦とは、どのような手段を用いてでも、煮え滾るような本能をむき出しにして勝利を奪い取るもの。その事に至上の喜びを感じているのだ。

 しかしそれはやる気を失っていない強者を敵にして初めて成立する。相手を不利な状況下、圧倒的な戦力差、絶望的な相性差、そう言ったものを言い訳にして勝利を捨てた者を貫いても、何の価値も見い出せない。

 死に物狂いで敵の喉笛を噛み千切り、勝利を奪おうとする者であるからこそ、貫く価値がある。敵の強弱も重要だが、マリオンが一番に敵に求めるのは、そう言った根性論だ。


(貴様と我の勝利条件は違うのだろう。我は貴様を貫き、貴様は娘の元へ戻る……それでもなお、《白の剣鬼》の首は最上の誉れに値する!)


 剣と槍の性能差も、体力の差も、自らの不調もを捻じ伏せて氷のように冷たく、刃のように鋭い殺意を倒木の陰から向けてくる女の首は、まさに命を捨ててでも獲るに値する。 

 マリオンは黒槍の穂先を倒木が積み重ねられた壁の向こうへと向けた。一定の領域に到達した戦士ならば、何らかの手段で見えない位置に潜む敵の位置を推察することは容易だ。

 シャーリィが気配で個人を特定するように、マリオンは気配で相手の挙動すらも把握することが出来る。そんな武人の探知能力が、好敵手が刃を脇に構え、倒木越しの自分の腰を両断しようとしていると告げていた。


「さぁ……いざ、勝負!」


 待つことはしない。魔術も操ることが出来るシャーリィに、準備する時間を与えるのは愚策だ。

《黒の聖槍》は常に全霊の力を振り絞り、敵を討つ。瞬時に間合いを詰める踏み込みと刺突の衝撃波が、倒木の壁を周囲一帯を吹き飛ばした。


書籍化作品、「最強の魔物になる道を辿る俺、異世界中でざまぁを執行する」もよろしければどうぞ。

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