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四日前、《怪盗》推参

読者様の予想を裏切ってみたい。あと、先週車との正面衝突で手首痛めて投稿がおざなりになりそうです。

更に報告を上げれば、二巻発売に関する報告やイラストが活動報告にあるので、良ければ見ていってください。


「それでは、今日は王女殿下と共にこのまま部屋で過ごしてください。私が帰ってくるまでは、極力部屋から出ないように」

「ん。わかった」

「ママも見回り、気を付けてね」

「ソフィー! ティオ! 何をしていますの!? 早く始めますわよ!」


 夏至祭四日前……これまで通り夜半には交代制で見回りに行くシャーリィをソフィーとティオは見送る。

 本来ならばシャーリィは付きっきりでヒルダの近くにいたほうがいいのだが、クロウリーが何らかの魔術的な仕掛けを設置する可能性がある以上、シャーリィは異能の力でそれらがないか、城内を点検する必要があるのだ。

 

「今日という今日はわたくしが勝利しますわ! 昨日はほんのちょっと運が悪かっただけですから!」

「わたしもまさかババ抜きで百連勝できるとは思わなかったけど」

「あはは……ヒルダはプライベートになると顔に出るからねぇ。もう運以前の問題というか」

「んなっ!? そ、それではわたくしが単純に弱いみたいではありませんの!?」


 庶民の賭け事に良く用いられるトランプゲームにハマった王女はここ数日、夜になるとソフィーとティオを誘っては惨敗し、懲りずにリベンジを繰り返している。

 普通なら飽きそうだとシャーリィは思うが、やはりそこは友人補正というべきか、どんな遊びをするかではなく、誰と遊ぶかが重要なのだろう。

楽しそうに過ごしていて何よりだと、シャーリィは淡く微笑みながら部屋を後にする。


「あ、シャーリィさん。……もしかして、これから見回りですか?」

「俺らが帰ってくるまで待ってればいいのによ」

「気配が近づいてくるのは分かってましたし、何より交代の時間でしたから」


 それと同時に、見回りを終えて廊下の奥から部屋に戻ってきたカイルたち。異能の力で不審な点を探るが、特に異常はないようだ。


「何か、異常は見られましたか?」

「ううん、特に何も」

「元々、王城には防犯用の魔道具が多く設置されてるからな。警備兵も大勢いるし、正直潜り込めること自体が甚だ疑問だな」

「そうですか」


 罠が仕掛けられているにせよ、いないにせよ、何も見つけられないというのは、大方予想通りではある。

 クロウリーはこれまでの犯行でも、予告日まで一切の異常を見せず、予告日に必ず少女を誘拐しているのだ。その中には王城並みの警備に守られた有力者の娘もいる。


(ジークフリートが魔国に戻って、城の警備をしていることから、殿下が国を出ていないと勘違いしてくれればいいのですが)


 当初はヒルダの警護に組み込まれていた竜王だが、いくら高い知性を持つとはいえ魔物の身。盟友である魔王の城ならばともかく、縄張りから国を跨いだ先にある王国の城にまで入り込むのは流石に憚られた。

 

「それではくれぐれも……くれぐれも、私の娘たちのことをお願いします」

「お、おう」

「ま、任されました」


 やけに力強く念押しされて、戸惑いながら頷く三人。その事に一旦満足したシャーリィは、広い城内を駆け抜けた。

 独自の走法による疾走。その速度は神速でありながら、横切る侍女や兵士がシャーリィの存在に気づけぬほど鮮やかに死角の内側に入り込みながら通り過ぎていく。


(できる限り早く戻らなければ)


 見回りのためとはいえ、警備をいつまでも空けるわけにはいかない。透視に加えて、素早く横切りながらも眼に宿る異能で不審な点を見分けられる動体視力を以て、瞬く間に広大な城内の大半を検分したシャーリィが正門から謁見の間まで通じる廊下に辿り着くと、鎧を着たグロリアスが同じように城内を見て回っていた。


「む。これはシャーリィ殿。見回りかね?」

「はい。……と言っても、それはそちらも同じようですが」

「うむ。元帥という立場とはいえ、私もまた王家に忠誠を誓う兵士だ。事務仕事を終えて手が空いたのでな…………ところで、何か見つかったかね?」


 小声で囁きかけるグロリアスに、シャーリィは首を横に振る。


「そうか……この警備を前にして下準備をする気配も無しとは。存外、《怪盗》めは夏至祭前日まで何も行動を起こさない可能性があるな」

「…………」


 それはどうだろうか。シャーリィはその可能性はないと心の中で断じる。

 罠といった犯行を補助する仕掛けは仕掛けていない可能性はあるにしても、これから誘拐しようとしている相手がいる建物の構造を把握しないというのは明らかにおかしい。慢心を通り越して、盗人としてはあり得ないだろう。


「カナリアからの報告も届いていません。いずれにせよ、油断しないほうがいいでしょう」

「そうだな。君も十分に気を付けたまえ」


 そう言って立ち去っていくグロリアス。その後ろ姿を何気なく眺めていたシャーリィだったが、その目を次第に見開いていく。


「……元帥閣下。以前お会いした時、足を痛めていたりはしていませんでしたか?」

「? いや、そのような事はないが……一体なぜ?」

「……いえ、少し気になっただけです。それでは私はこれで失礼します」


 シャーリィは踵を返して廊下の曲がり角を曲がると、そのまま滑るような速さで廊下を駆け抜けた。




「《厳正・現実》」


 自身の両目と脳を起点に、シャーリィは幻覚魔術を打ち破る魔術、《アンチミラージュ》を発動させる。そして城全体を透視し、王城で最も高い屋根を目掛けて壁を駆け上がり始めると同時に、両手に空想錬金術で生み出した剣を握りしめた。


(迂闊……! 相手の異能の力の強さを考慮しておくべきでした……!)


 城で警護を始めてからというものの、シャーリィの異能を以てしても、クロウリーの痕跡を見つけることは出来なかった。

 しかしその理由はクロウリーが居なかったからではない……クロウリーがシャーリィの異能を掻い潜る方法を持っていたからに他ならないと、シャーリィは先ほど会ったグロリアスの歩き方を見て確信し、つい先ほど確証を得たのだ。

 

(初日に会った時の元帥閣下と、先ほど会った元帥閣下……二人の何気ない体捌きが明らかに違っていた……!)


 どちらも背筋を伸ばしていた、軍人らしい歩き姿であることには変わりはない。しかし、この数日で初めて知ったのだが、軍用剣術に心得のある者は共通して重心を利き手の反対側に向ける傾向があるのだ。

 それは一兵から叩き上げ、今でも鍛え抜かれた肉体を持つグロリアスも同じなのだろうが……前者のグロリアスにはそれがなく、後者のグロリアスにはそれがあった。


(最初に会った元帥閣下は、私の異能を掻い潜った別人……つまり、変装した《怪盗》その人!)


 異能に魔術を重ね掛けし、ようやく城内で見つけた尋常ならざる魔力の渦。これほどの魔力を誰にも悟らせずに居たこと自体が、《怪盗》の隠蔽力を物語っている。


(いいえ、違う……私はこの魔力が確かに見えていた。……しかし、私の脳が視覚の情報を認識することが出来なかった。つまり、《怪盗》の異能の正体は――――)


 城の最も上の部分に立ち、夜風に晒されながらシャーリィはこれまで姿を隠し続けた不審者を見据える。


「これはこれは……よくぞ私の姿を捉えることが出来たね。この数百年、私の姿を捉えることが出来たものは一人もいなかったのだが」


 白いスーツにシルクハット、片眼鏡(モノクル)という、いかにもな姿恰好をした若い男だった。

 おそらく外見上の年齢はシャーリィよりも下……二十代半ばほどだろう。しかし、外見からは想像もできない老獪な雰囲気を発している。


「流石は《白の剣鬼》殿といったところか……先日までは完全に気付いていなかったはずだが、一体何がきっかけで気付いたのか、今後の参考に聞いても?」

「……今後などありませんよ。そういう貴方は、《怪盗》に相違ありませんね?」  

「ふふふ……如何にも。お初にお目にかかる、私が夏至祭前夜の招待状を送らせてもらった、クロウリー・アルセーヌだ」


 目の前の半不死者(イモータル)は台詞回しも含め、演技がかったわざとらしい仕草で頭を下げる。どうやら隠す気はないようだ。

 ……それは言外に、シャーリィを前にしても逃げ切れる自信があると言っているのだろう。


「正直、貴方を牢獄に入れる以外の事などどうでもいいです。神妙にお縄につけとは言いませんが……このまま逃げられるとは考えないことです」


 剣の切っ先を突き付けながら睨むと、クロウリーはおどけたように両肩を竦める。


「やれやれ……随分と物騒なレディだ。もう少し会話を楽しむことも、人生には必要だと思うのだがね?」

「ふざけたことを……物騒な誘拐犯と会話を楽しむ理由など、どこにもありはしないでしょう」

「しかも辛辣ときた、か。個人的には、私は本心から君と仲良くしたいと考えているよ」


 訝し気に眉を顰めるシャーリィ。


「……どういうことです?」

「どうもこうも……これから共に過ごす少女たちの母君の心証が悪いというのもよろしくないだろう」


 見覚えのあるカードを手元に出現させ、それを指二本で挟んでシャーリィに見せびらかす。そこにはこう記されていた。


『思わぬ出会いに祝福と乾杯を。姫君を頂くのと同時に、剣の美鬼(びき)が守りし蒼と紅の瞳を持つ二人の少女を頂く。怪盗クロウリー』


 必然、シャーリィから大津波のような殺気が噴き出す。それに一瞬瞠目したクロウリーだったが、その表情はすぐに楽しげなものへと変わる。


「この物理的圧力すら伴う威圧……! 冷淡な性格かと思ったが、なかなかどうして情熱的でもあるようだ」

「……私の頭に完全に血が上る前に答えなさい。一体なぜ少女たちを攫い続け、今度は私の娘にまで手を出すのです? 魔術的な実験か……あるいは裏に通じるどこぞの有力者に売り飛ばすつもりですか?」


 冒険者としての冷静な部分が問いかける。結局のところ、クロウリーが誘拐に及ぶ理由はいまだ見当がついていない。動機さえ分かれば犯行の予測も少しは立てやすくなるというものなのだ。

 

「実験に売買だと……!? ふざけないでいただこう! 少女たちへそのような非人道的な真似をしていると思われるのは、この《怪盗》に対する最大の侮辱だ!」


 しかし一番ありきたりだと思っていた予想を告げると、クロウリーは今までの薄ら笑いを潜めて列火のように怒りだす。それに対して逆に面を食らったシャーリィは、剣の切っ先は逸らさずに続けて問いかける。


「ではなぜ誘拐など企てるのですか? 実験でも金銭の為でもないというのなら、なぜ……?」

「愛の為さ」


 クロウリーは即答する。


「幼く青い、麗しい果実に対する愛が、私を駆り立てるからさ」

「…………はい?」


 本気で訳が分からない。そんな言葉を表情だけで雄弁と語るシャーリィに、クロウリーはどこか恥ずかしそうにカミングアウトした。


「端的かつ俗っぽく、分かりやすく言えば、私がロリコンだからさ」



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