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双子×双子

今回少し短いです。皆さんの評価や感想がそのままモチベーションに繋がるので、評価感想などをしてくださると幸いです。


 これは一体どういうことなのか……冒険者ギルドに珍しく現れた子供五人を無頼たちが遠巻きで眺める中、普段は鉄面皮を崩さないシャーリィにしては非常に珍しい事に、ポカンとした表情を浮かべながら半目で愛娘二人の頭で呑気に鳴く雛鳥を見る。

 思考が停止すること三秒、彼女からすれば長すぎる隙を露呈し、空間収納魔道具である《勇者の道具箱》から蒼い直刀イガリマと、紅い直刀シュルシャガナを取り出した。


「動かないでください二人とも。今日の夕飯は鳥の出汁(ブイヨン)で何か作りますから」

「わーっ!? ちょっと待ってママ!」


 頭上で生物を殺められることもそうだが、流石にこんな幼気な雛鳥がみすみす殺されることを良しとは出来ないソフィーが待ったをかける。


「何故止めるのです? 頭に乗っているのは魔物ですよ? 早くしないとどんな害があるか分からないではないですか」

「いや、流石にこんな小さいヒヨコに……ティ、ティオも何とか言って――――」

「今日は鳥肉のミートパイが良い!」

「誰も仕留めた後の使い道を言えとは言ってないんだけど!?」

「こんな小さな鳥だと肉も少ないですし、シチューでもしようと思ったのですが」

「あぁ、もう! ツッコミが追い付かない!」


 明らかに食う事を前提に話を進めるシャーリィとティオに対して頭を抱えるソフィー。ティオは素だろうが、シャーリィは娘に降りかかった珍事に、内面でかなり動揺しているらしい。


(あ、あわわわわわ……!? 一体どうして私の娘に鳥が……!? やっぱり通学には同行するべきだった……!)


 その証拠に鉄面皮は崩さないが瞳はグルグルと渦を巻いている。ちなみに、入学当初は学校への行き帰りまで同行しようとしてソフィーとティオに「仕事に行け」と言われたことがあるのだが、それはまた別の話。


「皆さん落ち着いてください!」


 そんな混沌とした場を一喝したのはユミナだ。荒くれの冒険者たちを相手に、毎日理路整然と対応する受付嬢の冷静さが子供五人、親バカ一人を鎮める。


「まったく、原因も探らずいきなり斬り捨てようなんて短慮ですよ、シャーリィさん。いつもは冷静なのに、娘さんが絡むとすぐにコレなんですから」

「ご、ごめんなさい」

「それで皆、一体何があったのか説明できるかな?」


 膝を曲げて十歳女子たちと視線を合わせて問いかけるユミナ。


「いや、何があったかと言われても、私たちもいきなりだったからさ」

「うん、いきなり青い光と赤い光が二人の頭にぶつかったと思ったらこうなってたし」

「そうそう、気が付いたらもう二人の頭の上でピーピー鳴いてたしね」


 曰く、上空から二人の頭目掛けて落ちてきた光体が何故か鳥になり、柔らかい白髪を自分の巣よろしくふんぞり返っていたという。

 咄嗟に起こった珍事を年端もいかぬ少女たちが全容を理解できるはずも無く、その様子を傍から見ていたリーシャ、チェルシー、ミラの三人は一様に首を横に振る。

 

「二人とも、それから何か体調の変化はありませんか?」

「特には無いよ」

「ん。ぶつかった時にちょっとだけ痛かったくらいかな」


 やはり殺すべきか。シャーリィの胸中に殺意が芽生えるが、ソフィーが二羽を気遣っているようなので保留に留める。


「しかし、何故頭の上に乗せているのです? 普通に手に乗せれば良いのでは?」

「いや、それがですね」


 リーシャが何処か言い難そうに言葉を詰まらせる。ユミナと揃って疑問符を浮かべていると、百聞は一見に如かずとソフィーとティオが深く頭を下げるが、赤と青の二羽の雛鳥は微動だにしない。


「この通り、頭から離れなくて」

「これは……!」


 シャーリィの二色の瞳が微かに光を放つ。半不死者として覚醒した彼女が持つ、〝全て〟を視通す異能は、ソフィーと青い雛、ティオと赤い雛の間にあるものを捉えた。


「互いの魔力路(まりょくろ)が同化し、循環している……!」


 血と同じで、魔力は殆どの生物に大なり小なり宿っている。そして魔力が血管のように全身に流れ循環している、魔力路という実体のない霊的な通り道があるのだが、双子と二羽に張り巡らされた魔力路が一体化しているのだ。

 今の彼女たちはまさに一体の生物のようなもの。霊的な繋がりを吸着力に変えて頭から離れないようにしている。


「そ、それって大丈夫なんですか?」

「……今のところ、それ以外の問題は見られません。魔力の流れも正常ですし。……ただ、雛にしては随分と魔力が強い」


 シャーリィが雛鳥たちを魔物と称した理由はそこにある。魔を冠する生物に相応しく、流れる魔力は普通の動物とは比較にならない量だからだ。


「しかし見た事のない魔物ですね……雛なので成長すれば姿が変わるのでしょうが、この段階でここまでの力を持つ魔物など……」


 膨大な経験の下、娘たちに同化した雛鳥の正体を突き止めようとするが、種類が人よりも遥かに多い上に子供の内は巣から出ない時もある魔物の全てを知っているほど、彼女は博識ではない。

 何せ未確認な種類も多い。確認されている内でも数千から数万と言われる魔物の全てを知る者など、この世には居ないのだ。


「でもどうしよ? これじゃあ寝る時も頭洗う時も邪魔なんだけど」

「アハハハ! 結構深刻な問題だよねぇ」

「もー、チェルシーったら、他人事だと思って……」


 しかし、チェルシーの言う通り割と深刻ではある。生活する以上、頭の上に乗られたままでは支障をきたすのは目に見えているからだ。


「同化している魔力路を斬ってしまうのが一番手っ取り早いのですが……」

「ピーッ!!」

「ピーッ! ピーッ!」


 そうポツリと呟いたシャーリィの言葉に反応するように、雛鳥たちが抗議するように小さな翼を広げ、甲高い鳴き声を上げ始めた。その事に妙な疑問と親近感を覚えたシャーリィは首を傾げながら続ける。


「それだとこの子たちの魔力路にまで異変を起こしてしまう可能性があるので、それ以外の方法で体から離した方が良いですね」


 すると、途端に大人しくなる二羽の雛鳥。そこに高い知識を見出したシャーリィは、その小さな頭を指先で撫でながら問いかける。


「もしや、私の言葉が理解できるのですか?」

「ピー!」

「ピィ―!」

 

 大正解! そう言いたげに翼を広げ、二~三回頷く雛鳥たち。そんなどこか人間臭い仕草を見て、ユミナは瞠目する。


「高い魔力に言語を解する能力……それって高位の魔物の条件揃えてませんか?」

「えぇ、ドラゴンを筆頭とする、強大な魔物の条件ですね」

「えぇっ!? 私たちの頭にそんな物騒なのが!?」


 一斉に雛鳥に視線が集まる。当の張本人(鳥?)である彼らは、呑気に欠伸をし、眠たげな糸目で何を考えているのか分からない、間抜けな表情を浮かべていた。


「……これが?」

「ドラゴン並みの魔物?」

「ないわぁ~」

「あ、あははは」 


 とてもそうは見えない。確かに魔力は強いが、それはあくまで魔物の雛鳥としてはだ。この見ているだけで毒気が抜かれそうな、間抜けな顔からはとても高位の魔物には見えない。

 成長すれば大成するかもしれないが、そうなるとますます分からない。何故そんな飛べもしない魔物の雛が、人の街のど真ん中に居るソフィーとティオの頭の上に落ちて来たのか。


(……帝国の仕業? いや、魔術のような人為的な魔力の流れは視えない)


 皇位継承者として双子を狙う隣国の中枢ならばそういった介入があり得るが、この二羽は魔術師の使い魔である様子が全く無い上に、そもそも雛である必要性が欠片も無い。


「あのー、結局難しい事は分からないんですけど、頭の上から退かす事って出来るんですか?」

「ふむ……ソフィー、ティオ、どうですか?」

「ん」

「ピッ!?」

「えい」


 むんずと赤い雛を鷲掴みにするティオ。そのまま勢い良く頭から引き抜いた。


「意外と簡単に取れた」

「そんな無理矢理!?」


 頭を振っても離れる気配の無かった雛鳥だが、今度はそっとテーブルの上に置こうとしたティオの手の平に引っ付いて離れなくなる。五本の指を開いてブンブンと腕を振っても微動だにしない。


「今度は手から離れなくなった」

「磁石かよ!?」

「吸着力の変わらないただ一羽の鳥だね」


 逆さにしても落ちない雛鳥とティオの手の平の境目にシャーリィは視線を向ける。

 先程ティオが雛鳥を鷲掴みにした瞬間、頭の魔力路の同化が解けて、今度は手の魔力路と同化していたのを彼女は見逃さない。……まるでティオの意思を尊重しつつも離れないようにするかのように。


「頭から離れないのではなく、体から離れないみたいですね。魔力路さえ同化できればそれで良いと」


 魔力路に寄生する魔物は多く存在するが、それらは全て魔力を吸う事が目的だ。しかしこの雛鳥の場合は魔力が循環するだけで実害がない。

 

(しかしできる限り早く引き剥がしたいところですね……何かが起こってからでは遅いですし)


 今は焦る必要はないかも知れないが、体に張り付かれていては生活に支障が出る。貼り付く位置を変えられるだけまだマシだが。


「ユミナさん、カナリアは何処に?」

「ギルドマスターでしたら三日ほど前にゴミ袋に封印して商国に郵送しました」


 さも当然のように先祖をゴミ袋に詰めたと言うユミナを見て、シャーリィは問いかける。


「今度は何をしたんですか、彼女は?」

「あ、誤解してるかもしれませんけど今回は私じゃないですよ? 従姉妹が大事にしているワイン瓶を並べて『新球技の開発じゃー』ってボールぶつけて遊んでたのを見つかって辺境まで逃げたところを、追いかけてきた従姉妹に捕縛された結果がそうだったというだけですから。私はただ、ゴミ袋を郵送してくれと頼まれただけですから」


 となると、しばらく帰って来ないだろう。結局解決策を一から探すことになったシャーリィ。カナリアならば何か知っているかと思っていたので落胆したが、そんな大人たちを尻目に楽しそうな声を上げる少女たちに視線を向ける。


「この子何食べるかな? しばらくこのままならお腹空いた時とかご飯用意しないと」

「やっぱり虫とかじゃね? ミミズとか」

「虫はないけど、代わりに給食の残りのベーコンがある」

「なんでそんなの持ってるの!? ていうか、こんなヒヨコにお肉を上げるのは流石に――――」

「ん、信じられないくらいの勢いで食べてる」

「そんな啄木鳥みたいに!?」


 呑気な雰囲気は何処へやら、食事するときだけ猛烈な勢いでベーコンを嘴で突きまくる二羽の雛鳥にすっかり夢中な五人。

 可愛くはないが妙な愛嬌があるその姿は子供心をくすぐるものがあるのだろうか、シャーリィの不安もなんのその、小動物と戯れるその姿は実に楽しそうだ。

 

「……何故でしょう。世の母が通るという出来事が、すぐそこまで迫っている予感がします」

「? 何ですかそれ?」


 それは、子と母に訪れる最初の対立。避けては通れぬ戦いがあるという。いずれ訪れるというその瞬間に、《白の剣鬼》はただ立ち尽くすのだった。

   

小動物を巡り、親と子供の間に怒る戦い……そう言われれば、察しの付く読者様もいらっしゃるのでは?

まぁシリアスにはならないのでご安心を。

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