表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/135

進展にして閑話・双子の成長

土日に合わせて投稿すればたくさん見てくれるのではないかと思い始めた今日この頃。

起きに頂ければ評価してくださると幸いです。


 それはシャーリィが帝国の影に気付いて警戒を始めてから三日経ち、渡したい物があるからと冒険者ギルドに呼び出された時の事。


「シャーリィさん、ギルドマスターからお手紙を預かってますよ」

「…………」

「な、何もそんなに嫌そうな顔をしなくても」


 ギルドの象徴である剣と杖が交差したエンブレムを象った印の隣に、《黄金の魔女》が使う暁を眺める少女を象った印が押された封筒を渡され、シャーリィは思わず形の良い眉を歪めた。


「……以前も似たようなことがあったと思いまして。どうせロクでもない面倒事を押し付けるか、また私を騙して嘲笑うかのどちらかのような気がしてなりません」

「う、う~ん……否定しきれないところが、冒険者ギルドとして面目ないですね」


 以前カナリアが娘まで騙して巻き込んだ二重契約を行ったことをシャーリィは忘れてはいない。その上非常に恥ずかしい恰好までさせられたのだから尚更だ。


「で、でもギルドマスターがわざわざ手紙を出すという事はそれなりに重要な案件なのでは?」

「どうでしょう? あの妖怪女は悪戯に無駄な妥協を挟みませんから。非常に傍迷惑な事に」


 とは言ってもだ。カナリアが自身の印と冒険者の印の両方を押した書類や封筒は重要な意味を持つ場合が多いのも確かだ。

 度合こそ分からないものの、また竜王襲来のような大事になっている可能性も十分あり得る。


「とりあえず中を見てみましょうか」

「あ、それならペーパーナイフを……」

「いえ、結構です。開けた瞬間に呪いや魔術が発動する恐れがありますし」

「……今更だけど、お婆ちゃんに対する冒険者の信用って……」


 蒼と紅、二色の眼で封筒を睨む。シャーリィに備わっている異能、〝全て〟を視る目の一端で透視された封筒、折り畳まれた手紙にはこう記されていた。


『今月の末、午後二時にとある貴人がお主に会いたいと、(わらわ)に仲介を頼んできた。重要な機密故に直接口でしか説明できないと言ってきたが、来るかどうかはお主の判断に任せるとのこと。もしも会うつもりがあるのならユミナに言って妾に伝えよ。面会場所は辺境の冒険者ギルド、応接間じゃ』


 そんな内容にシャーリィは疑惑によって眉間に皺を寄せた。

 貴族などの身分の高い人物が個人名を隠して来訪予定を伝えることはよくある。しかしそれは移動すること自体が命の危機を伴っていることを自覚している……もっと言えば、命を狙われていることを自覚している一部の者だけだ。

 それに貴人でありながら平民の自分に遜ったかのような内容も気がかりだ。相手が貴族か豪商かは知らないが、いずれにせよ貴人というのは時間に追われる生き物で、苦労して開けた時間が無為に終わる事を最も嫌う。


(以前、護衛の依頼を引き受けた時に用心棒にならないかと引き抜きの打診を受けたことはありますが)


 シャーリィの武技を心酔し、用心棒にならないかという成金は多かったが、護衛対象に合わせて頻繁に遠出する必要があるので彼女は全て断ってきたが、今回はそういった類の要件でないことは確信できた。

 唯我独尊、傍若無人でいくカナリアがたかが成金の為に手紙を寄こすことなど考えられない。そもそもシャーリィに手紙を渡すだけならカナリアを通さなくても問題は無いのだから。


(となると……あのカナリアですら手紙を渡すくらいには気を遣う相手という事ですか……?)


 そのような相手となると極端に限られる。シャーリィが知るだけでもたった三人だけだ。

 一人はカナリアの故郷、魔国を統べる魔王。二人目は東の海を跨いだ商国を統括する天子。そして最後の一人、距離的にも一番あり得そうな人物がいる。


(まさか王族?)


 この王国の君主、カナリアの盟友でもあるペンドラゴ王家……ひいては、かつて帝国で開かれたパーティで相見えた、名高き《黒獅子王》の姿が脳裏を過る。


(カナリアが居るのなら私が王国に居ることが伝わっていても不思議には思いませんが、それにしてもなぜ十年以上も経った今? ……それにこのタイミングは余りにも……)


 カナリアの仲介の先に待つのが王族かどうかは分からない。しかし皇帝の影が見え隠れする今、貴人からの接触は余りにも都合が良過ぎた。

 思い返せば、娘たちに暗示の魔術を掛けていた魔術師の所在を共に突き止めたグラニアはカナリアの直弟子。可能性は低いが話が通っていても不思議とは思わない。


(一体何が出てくるのかは分かりませんが、ここは飛び込むべきですね)


 今月末は二日後。証拠不足で確信に至れなかった帝国の影、その実態を捉える可能性が見えたのなら、シャーリィの答えは決まっていた。




「よし、こんなものでしょうか」


 その日の夕飯は随分と張り切ったと、シャーリィは珍しく自画自賛する。鮮やかなキツネ色に焼き上がったミートパイと、具材が柔らかくなるまで煮込んだ鶏肉のシチューが机に並べられているのを見て、ティオとソフィーは目を輝かせた。


「ママ、今日はどうしたの? ずいぶん豪華だけど」


 タオレ荘の厨房、金欠の冒険者の為に貸し出される一角で作られた夕飯は、何時になく豪勢だった。

 普段なら単品にパンとサラダを付ける程度の慎ましい夕食を摂っているのだが、今夜は娘たちがそれぞれ好物としている料理が並んでいる。


「何か良いことでもあった?」

「……いいえ、単なる気分の問題です。特に理由はありません」


 本当に、単なる気分だった。いずれも調理に手間がかかる料理だが、こうして愛娘たちの為に手間暇かけるのはシャーリィの至福とするところ。


(もしかしたら、こうして上げる機会が減ってしまうかもしれません)


 今はまだ杞憂……しかしトップクラスの権力者までもが絡んできては、ソフィーとティオの為に動けることが少なくなる可能性は否めない。

 無論、シャーリィとてただ流される気は毛頭ない。幼い彼女たちの自由な未来の為ならば、相手が国だろうが世界だろうが抗う所存だ。

 だから、これはその際の埋め合わせ。共に過ごす時間を、嫌な方向へと向かいつつある未来を修正する為の時間に変える事への埋め合わせなのだ。


「さぁ、冷めては作った甲斐もありません。いただきましょう」

「「いただきます!」」


 真っ先にミートパイにフォークを突き刺すティオと、スプーンでシチューを掬って吐息で冷ますソフィーは、本当に美味しそうに食べてくれるものだから見ているこっちが幸せな気持ちになってくる。

 未だ全体が見えないほどの敵だが、この光景を守れるのなら恐れるものは何もない。権力相手に無傷の勝算がある訳ではないが、報酬さえあればこっちも一人ではない。

 人を頼る事によって生まれる力は、この辺境の街が教えてくれた。


「あー、美味しかった! ご馳走様!」

「えぇ、お粗末様です。ちゃんと歯を磨いてくださいね」

「ん」


 食器を片付け、部屋に戻る双子。廊下ですれ違う冒険者にとっては見慣れた姿である。


「今日は一杯食べたからなんか眠いし、先に休もうかなぁ」

「ん。それは太る前触れだと思う」


 無表情に呟いたティオの言葉に、ソフィーは体をビシリと硬直させる。


「な、何を言うのかなぁ……? 私はまだ眠くない、眠くないよ?」

「そう?」


 成長期の真っ盛りでその程度で太る心配が無い、むしろ平均よりも痩せ気味のソフィーだが、そこはお年頃。太るなどと言われれば眠気も吹き飛ぶというもの。


「そ、それにティオだって人のこと言えないんじゃない? いつもご飯食べたら眠そうにしてるし、幾ら運動してても油断できないでしょ?」

「大丈夫。最近は栄養貯めておく袋が出来たっぽいし」

「何を言って――――」


 言いかけて、絶句する。ラフな格好が多いティオの体格は傍目から見ても分かりやすいのだが、それゆえにソフィーは違和感に気付いてしまった。


「テ、ティオ……? それ、どうしたの?」

「ん。何か今年の初め位から大きくなってきた」


 毎日共に過ごしているが故に、少しずつの変化に気付けなかったが、その未だに小さい胸が僅かだが……しかし確実にソフィーのそれよりも膨らみを持っている事に。


「棒振りするのにも違和感あるし、今度お母さんが下着買ってくれるって」

「な、何それ!? 私まだ必要ないってお店の人に言われたのに!?」


 今年の身体測定で、ティオよりも1センチ身長が高く、手足も心なしかスラリと長くなってきたように感じて、ますます「私最近体もお姉さんっぽくなってきたかも」なんて考えていたソフィー。

 しかし現実はただ甘美なだけではなかった。まさか妹が気付かぬ内に姉を追い越している部分を増やしていたなど想像だにしていなかったのだ。


「ど、どうして……! 同じママの血を引いているはずなのに、どうしてスタートダッシュに違いが……!?」


 何気に自分の身長の事を棚に上げるソフィーだが、それはショックを隠しきれていない証拠でもあった。

 胸の大きさに対する拘りなど人によるが、それでもやっぱり大きい方がより大人っぽく感じるのは子供故か。

 以前の成長記録の一件以降、姉の威厳というものが揺らいでいるように思っていたところでこの事実は衝撃的すぎた。


「ん、大丈夫」

「ティオ……?」


 ガックリと項垂れる姉の肩に、ティオはポンッと手を乗せる。


「私たちまだ子供だし、焦らずゆっくり成長すればいいと思う。それに身長や胸だけで価値が決まる訳じゃないし」

「フォローしてるのは分かるけど、全然フォロー出来てないんだけどぉ!?」


 またしても何やら大物感がある妹の台詞に姉の威厳が罅だらけにされるソフィーと、自分の発言で姉を余計に追い詰めてしまって慌てふためくティオ。


「あ、あの子たちは……!」


 廊下でなんて話題を繰り広げているのか。そんな会話が聞こえてきたシャーリィは、こっちが恥ずかしくなるとばかりに顔を手で覆う。

 活気ある街と学校、宿で暮らしているためか、日を重ねる毎にオープンな発言が目立っていて少し慎みが足りていないのではないかという悩みを抱えていたシャーリィにもダメージが入った。  


(これは、余計に頑張らないといけませんね)


 後顧の憂いを早々に断ち、もう少し女性としての慎みを知ってもらわなければ余計に変質者に目を付けられてしまう。

 とりあえずジロジロとティオの胸に眼を向けていた冒険者を殺気で黙らせ、淑女とはかくあるべしと伝えるために早足で娘の元へ向かうのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ