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シャーリィ、○○化


 修学旅行当日。今日から四日間、民間学校の二学年の生徒たちは親元を離れ、遠い異国の地を巡ることとなったその日。

 

「うぉー! すっげー!」


 グラウンドの上空から大きな羽ばたきの音を響かせながら、緩やかに舞い降りてくる四頭の大型飛竜に繋がれた巨大な空挺に、興奮する男子生徒たちを中心に大勢の子供たちが歓声を上げる。

 僅かな地鳴りと共に地面に着陸したその空挺は、所々に金色の装飾が施された豪華絢爛極まる大船のような外見であり、船首には自己顕示欲全開の《黄金の魔女》を象った金の像がこれ見よがしに備え付けられていた。


「理事長先生の船だよね……? あぁいうのが付けられてるってことは」

「ん。それ以外ないと思う。見た目も凄い豪華だし」


 動かすだけでも相応の出費が嵩みそうな空挺だ。それを生徒たちの保護者が出す僅かな学費を除き、ほぼ自腹で建造し、動かす辺りがカナリアらしい。

 傲岸不遜な魔女は、基本的には子供……特に自分の子孫には甘いのだ。……当の本人は決して認めないだろうが。別のクラスにいるカナリアの子孫である少女を横目で見ながら、ソフィーとティオは好待遇に納得した。


「それじゃあ班ごとに順番に乗っていってもらうが、その前に色々と注意事項を――――」


 この空挺は、移動時の風圧を防ぐために結界を張り巡らせているため、基本的には転落の危険のない乗り物だが、結界を維持する魔道具に悪戯をすればその限りではないので、機材をむやみに触らないこと。

 乗組員などの関係者以外立ち入り禁止の区画へは入らないことなど、担任教師から注意喚起が行われたのち、生徒たちは我先にと空挺へと乗り込み始める。


「…………?」

「ティオちゃん? どうしたの?」

「ん……なんでもない。気のせいっぽい」


 空挺から降ろされた階段状の舷梯(タラップ)を登る間に、ティオは妙な視線を感じた。

 まるでこちらの様子を執拗なまでに窺うような視線……だがそれはあくまで漠然としたもので、ティオはすぐに気のせいだと断じる。


「にしても、うちの親も外国に行って子供だけで行動するのは大丈夫なのかって心配されたけど、シャーリィさんは結局どうだったんだ?」

「そりゃあ、ママも色々心配してたよ? 公共機関はちゃんと利用できるのかとか、道に迷ったりしないのかとか……でも今朝宿を出る時、あっさり送り出してくれたんだよね」

「そうなの? なんか意外」

「うぅん…………ただ」


 ティオとソフィーは悩まし気に頭を捻った。


「何か妙に忙しそうにしてたんだよね。仕事じゃない時とかなのに」

「……家の宝箱に頻繁に出入りしたりね。何してたのかは知らないけど」




 民間学校の生徒たちが階段状の舷梯(タラップ)を登り、空挺へと乗り込んでいく。

 その中に混じる、白い髪が特徴的な一際美しい容姿をした双子の娘を、同じく雪のように白い髪を軽く結い上げて帽子に隠し、蒼と紅の二色の瞳を伊達メガネで覆った、十歳ほどの(・・・・・)少女が映写機を構えて激写していた。


「修学旅行初日……二人は友人たちと空挺に乗り込みましたね。このまま何事もなく、楽しく過ごしてくれるといいのですが」


 視認できない程の速さでシャッターを切り続けて即座にフィルムを交換した少女は、外見に似つかわしくない落ち着いた口調で呟き、その二色の瞳には強い母性が輝いている。


「貴女も相変わらずねぇ……というか、少し悪化してないかしらぁ?」


 そんな少女の背後に呆れた様子で立っているのは妙齢の美女。長い菫色の髪と、鍔の広い三角帽子が特徴的な魔術師……Sランク冒険者、《幻想蝶》グラニアだ。


半不死者(イモータル)は特定の対象への依存度が日を追うごとに増していくケースがあると聞くけど、貴女はまさに典型的よねぇ……シャーリィ」

「放っておいてください」


 幼い外見をした少女……シャーリィは少し憮然とした様子で振り返る。

 魔術なり、魔道具なり……この空挺には既に幾人ものSランク冒険者が子供たちに気付かれないように身を隠して潜伏していた。

 大半の面々が「またギルドマスターの我が儘か」と呆れながらも報奨金目当てに仕事にあたっており、その中でお互いに面識のあるシャーリィとグラニアは成り行きで行動を共にしていたのだが――――


「何時如何なる時でも娘の成長を見逃さない……それが母としての責務ですから」

「四六時中張り付いて盗撮しろというわけではないと思うけれどねぇ」

「盗撮とは失礼な」

  

 成長記録の保存といってほしいと、シャーリィは幼い顔立ちを不機嫌に歪ませる。

 今日この日の為に、映写機には遠くのものも綺麗に写し出す望遠機能まで取り付けたのだ。これで娘たちに気づかれることのない距離から二人の様子を撮影できるというもの。シャーリィは《勇者の宝箱》の中に引き籠っていた日々を思い出す。


「それにしても……グラニアさん、貴女は寒くないのですか? ま、またそんなふしだらな服を着て……」


 夏に出会った時のように背中や肩こそ露にしていないが、放漫な胸の谷間を露出し、しなやかでありながら肉感的な太腿をさらけ出す、起伏に富んだ体の線を強調する衣装。季節は移ろい肌寒くなってきたので、その上に毛皮のコートを羽織ってはいるが、前部分を露出しているために、シャーリィ的には隠さなくてはならないところを隠せていない大胆極まりない格好をしている。


「そのような格好で子供たちの前に出るのは、教育的にもよろしくないのでは?」

「隠形の魔術で姿を隠してるから大丈夫だけど……そんなに大胆な服かしらぁ? これでも私の服の中ではかなり大人しめのデザインなのだけど」


 シャーリィは思わずギョッとした。そんな胸元が大胆に開いた服で地味な部類なら、他の服は一体どうなっているのかと。


「それに体を冷やすのも良くありません。えぇ、良くありませんとも」

「まるでおばさまのようなお小言ねぇ」


 事実、自分はおばさんであるとシャーリィはグラニアの辟易とした言葉を素直に受け止める。……今の姿からは、なおさらそうは見えないのだが。


「そういう貴女こそ、その姿はどうしたの? しばらく見ない間に随分と可愛らしくなっちゃってぇ」


 グラニアは自身の胸ほどの身長にまで縮んだシャーリィを微笑ましく眺める。体躯のみならず、グラニアと遜色の無いほどに豊かな胸も平らになり、顔立ちも子供の様に幼い。元の姿との共通点があるとすれば、髪や瞳の色、そして目つきの鋭さくらいだろう。


「どうやら魔術によるもののようだけどぉ……隠形と帽子と眼鏡(変装)で十分じゃなぁい? 体を縮めるのはやり過ぎよぉ」

「私もそうは思ったのですが……」


 依頼の特性上、子供たちに護衛の存在を感づかせないようにする必要がある。だからこそシャーリィは透明化や認識阻害の魔術に加え、変装という手段を用いてソフィーとティオに自分の存在を隠そうとしたのだが――――


「ここ最近色々とあってあの子たちの訓練に時間を費やしているのですが……どうも二人の異能()が日増しに強くなってきているようなのです」


 元々、眼に異能を宿す者は動体視力が強化されるほかにも、視覚阻害に対して耐性がある。ソフィーたちもその例に漏れず、異能に目覚めてから日が浅いことも相まって徐々に隠形の魔術や幻術を見抜く力が強まっているようなのだ。


「そういう事もあって、魔術だけでは心許ないのです。他の冒険者たちならともかく、私の場合誤魔化しが効きにくいですから」


 生まれてからずっと共に暮らしてきた間柄だ。素人の変装だけでは誤魔化し難いし、もし気付かれれば「修学旅行にまで付いてきた」と怒られてしまいそうである。


「そういうわけで、今は魔術でこのような姿に……身長まで変えてしまえば、万一こちらの存在に気付かれても誤魔化せそうですし……その時はグラニアさんの知り合いの子供とでも名乗ります」

(ばば)様の配慮で私たちは二人組で動くことになるから問題はないからいいけどぉ……そういう事情があったのねぇ。それじゃあ、シャーリィは聖都にいる私の知り合いの子供で、忙しい両親に代わって観光案内をしてもらっている……という設定でいきましょうか」


 白髪にオッドアイという特徴的な容姿だが、似た特徴の人間が他にいないわけでもないし、眼に関しては帽子の鍔と眼鏡で隠せるだろう。

 シャーリィとグラニアが作戦内容を詰め終えると、子供たちの動きに変化があった。


『それじゃあ空挺内限定だが、それぞれ自由行動。十二時になれば昼食なので、食堂に集まるように』


 階段状の舷梯(タラップ)が引き上げられ、緋龍の嘶きと羽ばたきによって空挺は遂に地面を離れ、ゆっくりと上昇し続けていく。

 空から見下ろせるようになった辺境の街の様子に子供たちが興奮した様子で眺めていると、シャーリィはその中の一班……ソフィーとティオが目を輝かせている姿に映写機を向けて連続でシャッターを切り始める。


「さぁ、仕事にしましょうか。相手は行動が予測し難い子供……常に余裕を持って落ち着いて対処しましょう」


 そんな大人びた事を言いながら、生徒たちと同じように目を輝かせながらたった二点を凝視するシャーリィを、グラニアは心底おかしそうに笑いながら見守り続けた。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] ロリ版のシャーリィですと!? な、何ということ! ついにシャーリィの成年時代(現段階)、青年時代(公爵令嬢時代)、少女時代(本章初登場)の全スチルが達成されるとは!
[一言] オレは子供シャーリィを「リーシャ」と名付けた
[気になる点] 4巻まだですかー?コロナ騒動がなかったら今年の4月頃に発売予定だったのですから、本の内容は恐らく既に完成しているはずですよね?
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