エピローグ
元むすコミック版第1巻に関する情報はもうじき活動報告にてお知らせできそうです。
第四巻は現在発売日調整中です。
その後、アルグレイ家による秘密裏の襲撃計画は失敗という形で終わりを迎え、帝国で最も旧き名家は断絶することとなった。
高位貴族による国家間の約定を無視した暴挙のみならず、皇族の殺害。これらが明るみにされては最早誰にも庇いようがなく、アルグレイ家当主であるジェナン、その妻エレナは死刑に処されることがほぼほぼ確定していた。
公爵位という身分もあって形だけの裁判を長く続けることになるだろうが、それでも結果は変わらない。首から下を地面に埋めた体を掘り出されて、読み上げられた書状を聞いた時、二人は魂が抜けたような生気のない表情をしており、そのまま罪人を運ぶ竜車に乗せられた。
「これは悪い夢だ……そうに違いない……」
「いや……嫌よ……どうしてシャーリィなんかに……シャーリィのせいで……あんな疫病神が生まれてきたから……」
ジェナンは現実逃避するように俯きながら都合のいいことを呟き続け、実母であるエレナは最後までシャーリィに対する呪詛を吐き続ける。
その姿を見て何も思わないところがない訳ではない。決して情に絆されたという訳ではないが、これは一つの母娘が行き着く結末だ。今でこそ良好な関係を築けていると自負しているソフィーとティオの二人との仲だが、未来は余りに不確かで、この先にどう変化するのかが分からないと思わざるを得ない。
今回の事を戒めとし、シャーリィは胸の奥、記憶の奥へと刻み込む。たとえ過ちを犯したのだとしても、エレナのようにだけはなるまいと固く誓う。
「あの二人はただでは死ねないと思います」
警察構成員に様々な指示を出していたフィリアはシャーリィの隣に立ち、彼女に聞こえる程度の小さな声で呟く。
「兄はお父様とお母様の死に一切関与していません。アルグレイ公爵によって二人は突然病死したと説明され、それを信じ切っていました。単純で盲目的な人ですから、自分を支援していた貴族が実の父母を殺したなど思いもしなかったでしょう」
傀儡の皇帝に相応しい愚鈍ぶりだ。それを利用して今まで帝国の闇にのさばっていたジェナンたちだが、ここまでことを大きくし、数多くの証拠があればアルベルトも二人を裁かずにはいられないだろう。
むしろ直情的なアルベルトは十年以上にも渡る裏切りに誰よりも怒り狂い、より屈辱的な晒し刑にでも処そうとするはず。貴族としての最後の尊厳を守る服毒刑などしてもらえなさそうなのが、フィリアの目にはありありと浮かんだ。
「二人のご子息は既に逮捕済み。刑は決まっていませんが、終身刑が妥当なので跡取りはいなくなり、アルグレイ公爵家は断絶します」
幼い頃、あれほど誇らしげに自らの身分を強調しながら自分を虐げていた彼らの末路を見てもシャーリィの心は凪いでいた。冷たい牢獄から抜け出した当初は、あれほど復讐に燃えて、彼らをこの手で地獄に叩き落すことを楽しみにしていたというのに。
(今更ながら……あの子たちに人生を変えられたと自覚させられますね)
冷たい復讐の道ではなく、もっと温かな道を指し示した存在があったからこそ、シャーリィは今ようやく過去の因縁から解き放たれたのだ。そう思うと、昔受けた仕打ちの印象が薄れていく感覚が記憶を巡る。
「最後にあの女……もとい、義姉のアリス様ですが、こちらは扱いに困るので現状維持……としか出来ませんけれど」
「まぁ……そうでしょうね」
例外的にアリスだけは非は免れている状況だ。調査では我が儘放題しているだけでこれといった罪は見つからず、何より皇族に輿入れし、公爵家から籍が抜けている。
過去の例に則れば、アリスは離縁されて生家に返されても良いのだが、その生家もなくなった。犯罪を犯していない皇妃を、生家が罪を犯したからといって一方的に離縁して市井に放り出すわけにはいかないだろう。
「好きにすればいいです。私は口出しできる立場ではありませんから」
それだけ言い残し、辺境の街に帰るため、カナリアを促そうとしたその時、シャーリィは生まれ育った実家で唯一無事に残った離れの別邸から飛び出し、茫然とこちらを見てくるアリスと目が合った。
「あ、あんたは……!」
「…………」
まだ夏の暑さが残っているこの季節にも拘らず、肌の露出を完全に防いだ服装。聞いたところによると、元帝国騎士団長のグランが起こした一連の事件の際、体の至るところに火傷に似た傷跡が残ってしまったことから別邸に引き籠っていたらしい。
かつてのシャーリィから全てを奪った元凶。誰よりもシャーリィを虐げてきた実妹。幼き頃、シャーリィが最も欲しかった家族からの愛を一身に受けていた羨望の対象。そんなアリスの今の姿を見ても、シャーリィは無感情でいられた。
「……皇妃殿下。皇帝陛下にお伝えください」
「な、何をよ……!? あ、あんたなんかが私に口をきこうだなんて、無礼にもほどが……!」
「また私たちに関われば、相応の報いを受けることになると」
舌が縺れながらも居丈高に言い募ろうとしたアリスは、真っすぐに向かってくる威圧感に腰を抜かして尻もちをつき、声が上げられなくなる。ただ睨まれただけでああも醜態を晒す皇妃に周囲が落胆する中、シャーリィは二度目となる血を分けた家族との別離を終わらせた。
それから数日後。辺境の街では襲撃者が来たことなど一切広まらず、祭りの後の日常が通り過ぎていった。
新米の冒険者たちは慌ただしく依頼に出向き、熟練の冒険者は余裕のある財に胡坐をかきながら穏やかに休日を満喫する。大通りを通り過ぎる商人や活気ある店や市場も全てが何時も通り。ただ、この街を騒がすことになり得た事件が、密かに終わったというだけ。
『お母さん、早く』
『待ってください、二人とも。そんなに慌てなくても』
『えー。だって今日は、せっかくママが魔術を教えてくれるって言ってずっと楽しみにしてたんだもん! 時間はいくらあっても足りないよ!』
『わたしも、今日はずっと教えてってお願いしてた剣をちょっとだけだけど教えてくれるって約束した。……でもどうしたの? 今まで渋ってたのに、急に教えてくれるなんて』
『……まぁ、自衛手段はあるに越したことはありませんし、技術が無駄になることもないですからね』
そして白い三人母娘も相変わらず。今の今まで教えるのを渋っていた剣技や魔術だが、遂に強請る娘たちに根負けして教えることになったらしい。その様子を冒険者ギルドの屋上から見下ろしつつ、クツクツと笑うカナリア。
「お婆ちゃん? こんなところで何してるの?」
自らが開拓した街を見下ろすカナリアの背後から、ユミナが声を掛ける。すると《黄金の魔女》はすぐさま嘲りと悪戯心に満ちた笑みを浮かべた。
「なぁに、先の運動会ではシャーリィなんぞが与する紅組にしてやられたからのぅ。今度はどんな嫌がらせをしてやろうかと思っておるところじゃ」
「またそんなこと言って……悪戯するたびに毎度毎度お仕置きされてるんだから、少しは懲りてよ」
「あー、聞こえなーい。聞こえないのじゃー」
お道化たように立ち去ろうとするカナリア。その姿に呆れて嘆息しながらも、ユミナの表情は穏やかだ。
「お婆ちゃん……ありがとね」
「……は? 何じゃいきなり。妾は別に礼を言われることをした覚えはないんじゃが? まぁ? この妾の偉大さに気付いて、存在していること自体にありがたみを感じているのなら――――」
「運動会に両親が来れなくて落ち込んでた親戚の子のこと。それに……これまでの九百年間、子孫である私たちを見守ってくれてたこと」
「…………本当になんじゃ、いきなり。普段は鬼婆のように怒るくせに」
「偶にはこういう事はちゃんと口にしておこうと思ってね。……あと、鬼婆は余計」
カナリアの頭の両側に拳を当ててグリグリと抉るユミナ。痛みに悶絶しながら悲鳴を上げるカナリア。ようやく解放されると、悪名高い《黄金の魔女》は荒い息を吐きながら小さな声で呟いた。
「別に……全ては妾の気紛れじゃし。お主らの面倒を一々見てやってる理由なんて、とうに忘れたし」
そう言いながらも、カナリアは今なお昨日の事のように思い出せる。不肖と嘆いた千年前……最凶の魔王として君臨していた時の事を。
かつて魔族の王である魔王は世界征服を目論む悪の首魁というプロバガンダが流布したが、カナリアが魔王の座に就いていた時に限っては真実だったのだ。
魔力の量が多いからこそ魔族と呼ばれる種族。そんな一族を統べる魔王の第一子として生まれたにも関わらず、カナリアは先天的に魔力のない欠陥を持って生まれた。
当時は倫理観が今と比べて欠如していた時代で、魔力のない障害のある魔族は差別の対象。王女であったカナリアも例外ではない。生まれた時から粗雑に扱われ、齢十歳にして野山に放り出されたカナリア。
優れた魔力という、自分にないものを当然のように持っている魔族たち。王女でありながら何も与えられず、残飯を漁る日々。そんな自分を差し置いて血の繋がった者たちは幸福な日々を送るのを見て、彼女は思う。
――――幸せそうで羨ましい。
――――着ている服が綺麗だから欲しい。食べてるものが美味しそうだから欲しい。
――――私が持っていないモノ、その全てが欲しい。
それらをまざまざと見せつけられた上で死ねとばかりに捨てられたカナリアの胸中を支配したのは、怒りも憎しみもなく羨望だけ。カナリアは生まれながらに人らしい感情が欠落した、天性の異常者でもあったのだ。
その結果何が起こったのか……異常をきたした精神によって密接に繋がる魂と肉体をも変質し、誕生する化け物……無尽蔵の魔力という規格外の異能を持つ半不死者へと覚醒を遂げることとなった。
そこから先はあっという間の出来事だ。無限の魔力を欲望の赴くままに振るい、僅か十二歳で自らの血縁者を皆殺しにして魔王の座に君臨したカナリアは魔国に恐怖政治を敷き、己の欲望を満たすためだけに暴虐の限りを尽くした。
カナリアの最初の不幸は親に見捨てられたことでは無いと、後の彼女は振り返る。カナリアには導く者も、諭す者も、愛する者もいなかった。天性の強欲さと、それを押し通せる異能によって生まれた傲慢が、肉体のみならず精神年齢まで固定される半不死者の性質が合わさり、幼かった彼女の心に悪逆不遜の四文字が深く刻み込まれ、カナリアの暴走は最早自制が出来るものではなくなってしまったのだ。
――――あらゆる贅は極めつくした。にも拘らず、妾はまるで満たされぬ。
そう感じたのは十六歳の頃。どれだけ奪っても、どれだけ殺しても満たされずに空虚さを覚えたカナリアだったが、ある時彼女が心の底から望むモノが久方ぶりに現れたのだ。
それは今は歴史に消えた亡国が他国にまで被害を与え始めた魔王カナリアを止めるべく、高位次元から召喚したという勇者。後の夫となる男。名をタナカ・タロウという。
姓が先で、名前が後。大陸では馴染みの無い名に少し興味を持ったのが始まりだ。自分を倒すべく召喚されたという勇者に会いに行ったカナリアは、彼の目の前で悪事を働こうとしたのだが、勇者は剣を抜くことはせずにカナリアの腕を掴み、真っすぐに視線を合わせてきた。
『それは悪いことだからしてはいけない。君だって同じことをされたら嫌だろう?』
後に分かったのだが、このタロウという男は底抜けのお人好しだった。悪いことは悪い、いけない事はいけないと、当時の乱世では綺麗ごとだと何度も一蹴された当たり前の道徳を、当然のように命を懸けて実践に移す大馬鹿者。
そんな大馬鹿者だけが、誰もが恐れて諭すことをしないカナリアと真っすぐ向き合える男だった。カナリア自身は自らの欲を妨げるタロウに苛立ちを感じながら……どこか満たされるという不思議な感覚を味わった。
それからというもの、カナリアは幾度もタロウの前に姿を現しては大なり小なり悪事を働き、その反応を確かめる。タロウは一貫して、誰もが諦めたカナリアの暴挙を止め、彼女を諭そうとした。
――――なんじゃこの男は? 無礼な奴じゃが……不思議と嫌な気にならぬな。
そんなことを繰り返していく内に遠慮なく道徳を説こうとするタロウに対してだけ寛容さを示すようになったカナリア。使い魔のラクーンや周囲は彼女の変化に戸惑ったが、今までのような暴虐は鳴りを潜め、贅の限りを尽くすよりもタロウと接することに夢中になり、彼の事を多く知ることとなった。
チキュウと呼ばれる異世界の二ホンという国で生まれ育ち、学生をしていた時に召喚されたこと。その国には数々の便利で生活が豊かになる道具があること。タロウには父母がおらず、お坊さんと呼ばれる異教の僧侶を務める、頑固で正義感の強い祖父に育てられたが、その祖父も最近亡くなったこと。
そしてカナリアはタロウに問いかけたことがある。カナリアを討つ為に召喚された勇者なのに、何故カナリアを正道に戻そうとするのかと。
『君がただ殺されなくてはならないほど、根っからの悪人には見えなかったんだ。例えるなら迷子の子供みたいで……とにかく放っておけなくてね』
想われている。それを知ったカナリアはますますタロウを自分のモノだけにしたくなった。当時はその欲求の名を理解できなかったが、愛し方も愛され方も知らなかったカナリアは、生まれて初めて誰かに想われ、誰かを愛することを知ったのだ。
後に千年前に最大の栄華を誇っていた帝国が魔国以外の大陸諸国を巻き込み、豊かな資源の確保のために魔族を滅ぼす為の大戦を巻き起こした。その際にタロウはカナリアと共に戦い、その最中に不器用ながらに彼との絆と愛を育み、力を合わせて大戦を終結。今までの悪行も吹き飛ぶほどの名声を手に入れ、タロウと結ばれることとなる。
プロポーズはカナリアから。妾のモノになれという、実にカナリアらしい告白にタロウは苦笑しながら、ある約束を持ち掛けた。
『じゃあ君のモノになる代わりに、もう悪事は働かないこと。悪戯くらいなら眼を瞑るけど、その時は叱られる覚悟はしておいてね』
やがて胎に双子を宿して、隣に寄り添う夫を見て、カナリアはこれ以上は要らないと思えるほど満たされ、そして気付いた。自分が本当に欲しかったのは極大の富ではなく、自分を愛し、自分が愛する誰かと共に在り続けることなのだと。カナリアが一番最初に羨ましいと思ったのが、まさにそれであったのだと。
幸せの末にカナリアは魔族の長女と人間の次女を産み落とし、これからという時、残酷な現実は襲い掛かる。タロウが病死したのだ。僅か一月という、別れを済ませるにはあまりにも短い闘病生活の末に、カナリアを置いて逝ってしまった。
『お主は妾のモノだと言ったではないか……なぜ妾の許可なく天に召されたのじゃ……この大馬鹿者が』
己の変質した精神の根幹を支える存在を失った時の半不死者は暴走する。そんな生物としての生態にカナリアも逆らうことが出来ず、彼女はタロウ以外の存在がどうでもよくなる喪失感という形で暴走することとなった。タロウがいない世界など滅ぼしてやろう、と。
しかし彼女には大きな悪事を働かないという、タロウとの約束があった。それが影響したのか、カナリアは生まれたばかりの娘たちを放置して技術の発展のみに没頭することとなる。いつか愛する夫が語っていた彼の故郷……それにこの世界を近づけることによって、タロウを喪った虚しさを埋めようとしたのだ。
この世界をタロウの故郷であるチキュウに近づければ、愛する夫が戻ってくる。そんな根拠のない妄想に憑りつかれて一年、十年、二十年と月日を重ね続け、何時しかカナリアは技術革命の母とまで呼ばれるようになっても尚、更に数十年という月日を重ねた頃、カナリアの頬を魔族の長女が打擲し、振り向かせる。
『父という光を失えば、もう何も見えないのですか? 娘である私たちでは貴女の光になれないのですか? ちゃんと私たちを見てくださいっ!!』
涙を流しながら訴える長女の顔を真っすぐ見たのは、八十年以上ぶりだった。カナリアは八十年以上も実の娘たちに見向きもせず、タロウとの思い出ばかりを追いかけ続けたのだと気づいた時、人間である次女は今どうしているのかふと気になった。長命種である自分や長女と違い、短命の人間である次女は。
長女に連れられて出向いた屋敷の寝室。そこに居たのは、今にも天寿を終えようとしている老婆となった次女の姿があった。茫然と次女が横たわるベッドの横に膝をつき、産まれた当初以来触れることのなかった娘の手を握った時、次女は皺だらけの顔に笑みを浮かべて――――。
『あぁ……やっと、私たちを見てくれたのですね……お母さん』
それは、次女が母に向けて放った最初で最後の言葉。残した悔いを晴らしたような穏やかな表情で眠りについた次女を抱きしめ、カナリアは生まれて初めて泣いた。自分はなんて愚かな過ちを犯したのだと、泣き叫んだ。
これは裏切りだ。悪逆の暴君と恐れられた自分に初めて愛も恋も教えてくれたタロウに対する裏切りだ。彼が最後の最後まで案じていた娘たちの片割れに、両親からの愛を注ぐこともせずに逝かせてしまった。
カナリアはこの時ほど我が身を恨んだことはない。半不死者などではなく、真っ当な精神であれば夫の死を乗り越え、娘たちと過ごした未来だってあったはずなのに、自制の効かない精神は娘たちから母娘の時間を奪った。
ただただ悔やみ続けて、泣き続けたカナリアは永劫の贖罪を誓った。娘たちが産み、育んだ子供の子供を守り続けると。
カナリアの性格の悪さは半不死者としての生態であり、シャーリィの親バカと同じで治しようのないものだが、それでも精一杯やろう。カナリアが産んだ娘たちの血が途絶えるか、この身この魂が燃え尽きるその時まで。
そして次女が死んだ九百年以上経った現在、カナリアは今も贖罪を続けている。彼女ほど性格が悪く、彼女ほど強大な魔術師が働く悪事を悪戯程度で済ませ、ユミナを始めとする子孫たちの折檻を素直に受けているのは罪悪感からなのか、それは彼女自身も理解しきれないことだ。
(だからお婆ちゃんは、シャーリィさんたち母娘の事を)
竜王戦役の後、カナリアはシャーリィに告げた。シャーリィの意に沿う形で手助けするのは感傷だと。シャーリィならば自身が見られなかった光景を見ることができるのではないかと。
カナリア自身は認めようとはしないかもしれないが、カナリアはシャーリィにかつての自分の面影を見ている。自分と同じように双子の娘を産んだ半不死者で、自分が双子の娘にできなかったことをしているシャーリィを通じて、あり得た未来に想いを馳せる……そんな感傷を。
「聖国の親戚が有力者にお金を騙し取られた時に仕返しした時の事。公国の親戚がモラハラ夫とその家族に酷い目に遭わされているって知ったら大事な仕事を放り出して助けに行ったこと。私が学生の頃、元カレに二股かけられた時は、悪びれもしない元カレに無理矢理土下座させたりしてたよね。お婆ちゃんが私たちの為にしてくれたこと、全部覚えてるよ」
「あー……そんな事あったかのぅ。もう忘れた。忘れたのじゃー」
そっぽを向くカナリアの耳が真っ赤になっているのが余計に可笑しくて、気付かれないように笑うユミナ。
「それよりお婆ちゃん、私の家のテーブルにいつの間にか、前にお婆ちゃんが食べたがってた聖国の新作お菓子らしきブラウニーが置いてあったんだけど、あれ置いたのお婆ちゃんでしょ。『食べ飽きたからやる』なんて、下手な嘘が書かれた名無しの置手紙付きで」
「……べっつにー。単に食べ飽きただけじゃし。試食でめっちゃ食べたし」
「秘書のフランシス姉さんからも聞いてるよ? 試食しようとしたら追い返されたって。あれって、前にお婆ちゃんが勝手に食べた私の限定お菓子のお返しだったりする?」
「はぁー!? なーに訳の分からん事を言っておるんじゃ!? そんな訳あるまい! 勝手な勘違いをするでないわ! バーカ! バーカ!!」
「はいはい。いいから落ち着いて。……それよりさ、貰ったのは良いけど結構な量で私じゃ食べ切れそうにないんだよね。だからお婆ちゃんも一緒にどう?」
「……一人で食えば良かろう。冷蔵魔道具に入れておけば腐る心配も――――」
「何言ってるの」
ユミナは遠し先祖であるタロウとそっくりな笑みを浮かべ――――。
「美味しいものは、誰かと一緒に食べた方がもっと美味しくなるの」
タロウと同じ事を言った。
第五章はカナリア回という意味合いが強かったですね。いずれにせよ、ソフィーとティオの出番が控えめになってしまったので、五章が書籍化すれば書籍限定の追加ストーリーという形で加筆していきたいと思います。




