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03 邂逅《かいこう》

知り合いが亡くなったからといって心から悲しめる人ばかりではないと思うのです。

主人公はそんな子。

 どれ位逃げただろうか。

 森から出た私達は倒れこむように座り込んだ。

 

 皆、息が荒い。制服のあちこちが破れ、泥や森の植物で汚れている。女生徒は足元に傷を負ってる者が少なからずいたし、何人かは顔に赤黒い汚れが付いていた。

 私も何度か転んだので身体の節々に痛みがある。幸い緑のジャージだったので、制服程汚れは目立たないようだ。

 ……暫くは誰も口を聞かなかった。

 

 「野田は……」

 前田君が口を開く。野田君と同じ部活だったかもしれない。

 誰も応えなかった。

 嗚咽おえつが聞こえる。前田君だけではないようだった。

 ……私は泣けなかった。クラスメイトが亡くなったのが悲しくなかった訳ではない。ただそんな(・・・)些細・・()事以上に、木村さんを見捨てて逃げたという気持ちが大きかったからだ。

 

 「何人助かった?」

 嗚咽が減った頃、委員長の金子君が声を上げた。一人立ち上がって誰がいるか確認している。

 「奥山、二宮、野田、木村がいない」

 「……奥山と二宮は違う方向に逃げた」

 「……木村さんは……多分無理だと思う」

 ぽつぽつ応えが返ってくる。


 慣れない凸凹道で走り疲れた足を引きりながら、私達は町へ向かった。森から伸びる道が人のいる方向を教えてくれた。

 まだ日は出ていたものの、ジャージでは肌寒く、春先か晩秋の候のようだ。

 身体が少し冷えている。温かい食事と安心して眠れる場所が欲しい。


 がらごろと音が聞こえた。

 「何っ?」

 軽くパニックになった女生徒達がいたようだが、

 「人だ」

 と嬉しそうな男子生徒の声で、皆が一様に安堵の息をついた。


 百メートル程先の丘から下ってくる荷車が見える。

 荷台には鍬や野菜が見える。農夫なのだろう。

 手を振る大人数の人間が見えたからか、速度を早めてこちらに向かってきてくれているようだ。

 町の人達は私達を受け入れてくれるだろうか、そんな事を思いながら私達は彼の方向に進路を変えた。

苛めを見ていただけの人を無罪だなんて苛められた子はきっと思っていない。

恨む程ではないから見捨てた罪悪感はあるけれど悲しめない。

そして、見捨てられた木村さんに自分を重ねて、白々しく泣くクラスメイトを苦々しく思っている。

そんな複雑な心境です。

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