02 転移
流血表現がありますので、ご注意下さい。
気づいた時には森の中だった。
クラスメイトが近くに転がって呻いている。膝の高さ程もある草の茂みの間や上からクラスメイト達が見えた。
その背後にも私の周りにも圧倒される量の植物が存在した。かつて登ったどの山よりもずっと緑が濃いかった。
「大丈夫かー?」
少し遠くからクラスメイトの男子の声がする。
私は転がった状態のまま少し呆然としながら、口も聞けず、黙ってもう一度周囲を見回した。
森、だった。
ここが地球か異世界かなんて考える事すらできなかった。今まで入った事もないような森の奥の匂いが、見た事があるか分からない森の植物が、只管恐怖を掻き立てていた。
「金子ー?」
「大丈夫」
「こっちも全員無事だ」
クラスメイト達の怯えを持ちつつも、一抹の安堵が滲んだ声が行き交う。
手はまだ僅かに震えていたものの、力を入れて身を起こす。
三々五々に集まるクラスメイト達の中から少し弾んだ声がする。
「これって異世界転移かなー?」
「地球よりは異世界の可能性が高いな」
「チートもらった奴か勇者か聖女は誰だー」
「魔法使えるかな」
「川と食べ物を探そうぜ」
軽く笑い合いながら、会話が続く。メディア展開も多いせいか、異世界転移に思い至る人もかなりな数がいるようだ。
「とりあえず町に移動しながら考えようぜ」
黒い物が視界を横切った、としか思えなかった。
甲高い悲鳴が響く。
そこには一頭の獣がいた。
振り返った目に飛び込んできたのは、熊に似た四つ足の獣と、獣に首を嚙み切られた野田君の姿だった。
獣の口には噴き出した血が降りかかり、喰い千切られた頭がぶらんと垂れ下がるのがやけにゆっくり見えた。
恐怖から意図せず漏れた悲鳴が皆の悲鳴に混ざる。
自分も逃げなくては。足を動かす。左、右、左、右……。足が縺れる。
獣が咆哮した。
転んだ姿のまま振り返ってしまった。そして見てしまった。
獣が仕留めた獲物を投げ置いて、次の獲物を見定めるのを。
その先に動けない木村さんがいるのを。
彼女が這って逃げようとこちらを向いたのを。
彼女の瞳が私を捉えたのも。
私は逃げた。
何度も転びながら少しでも遠くに行けるように。
次は私かもしれないと分かっていたから。
……私は木村さんが獣に喰われるのを見捨てた。
八時に間に合えば次話投稿予定。
間に合わなければ、昼か明日になるかも。