その方がきっと
『トールの山』というのは無論、地図にも載っていない地名だった。
探し出すのはけっこう、いやかなり、困難を極めた。
「一体どこだ・・・?」
その謎を解いてもまた新たな謎が現れるかも知れなかったが、そんな事を気にして悠長に謎解きが出来る程、時間もないようだった。
「あの・・・?」
桜海が声をかけてくる。
どうした、と訊くと、桜海はこれを、と一枚の地図を渡してきた。
それはおおよそ、三百年前の羊皮紙の地図。
《アスガルド世界地図》と記されている。
その頃はどうやら各地の地形を神々の特徴になぞらえ、あてはめて地名として呼んでいた風習があったらしい。
『オーディンの滝』『フレイアの谷』『ニョルズの森』などが名を連ねる中、それらの中央を独占するが如く佇む山脈の最高峰に、その名はあった。
「これが、『トールの山』・・・」
現在の地図に照らし合わせて見たところ、その山は《アスガルド》の水門財閥の跡からさほど遠くなかった。
とはいっても、徒歩で行けば三日かかる。
あの旅ですっかり、俺の距離感覚は狂ってしまったようだった。
・・・そして。
「刷井布先生、実はですね・・・」
高校で、担任の刷井布 爾鏤に談判したのだ。
桜海は爾鏤に、例の手紙を見せる。
「・・・これを、亡き睛堂校長が・・・ねぇ。
私は貴女たちを信じるわ。問題は校則ね」
そう。もう一度旅に出るとなれば、俺達はもう即単位を落とし、留年の洞穴へまっ逆さまである。
「・・・よし、今回は《校外活動》っていう名目にしときましょう」
担任よ、勉学放棄を勧めていいのか。
「勉強はどうすれば・・・?」
「アッハッハッ、大丈夫、心配はないわ。
私だってその気になれば、学年主任だろうと教頭だろうと、黙らせるなんて楽勝なのよ?」
力任せに暴力に頼る事を、多感な時期の少年少女に教えていいのか?
本当にそれで、いいのだろうか・・・?
「まあまあ、心配はしなさんな。
その辺は、貴女たちよりも賢いのよ?」
それじゃ、決定!
と、爾鏤先生は日時を勝手に決め、この日の明朝に、校門の前に集合ね、なんていう風に一方的に約束したのだった。
だがこれで、高校を無断欠席なんていうこともないわけだ、存分に旅が出来るというものである。
「それじゃあ、準備しようか?」
俺と桜海は、明後日に控えた新たな旅に、胸を躍らせるのだった。