行くだけ行ってみようか。(今話は未来の話です)
あんな楽しかった日々でさえも、思い出す度に頭が痛くなるこの体質は最早、辛い以外の何物でもない。
このような罪深い老人を、このゲルマニアの神々は赦して下さるだろうか・・・?
何があったのか、読者は追々知ることになるだろうが、そこは老いぼれの筆だ、勘弁して頂きたいが、なかなか、そうもいかないだろう。
そろそろ、儂の日記は書き終わる。
追憶に捧げた人生の後半戦とも、これでお別れになると思うと、何だか寂しく感じるものだ。
この日記を付け終わった時、儂は筆を絶つことにしよう。
そうでないと、記憶を記録するというのは、老いた身には辛い。
『・・・、fin.』
と、最後の締め括り文句の定番を記した老人は、早々とそれを畳み、重苦しい色のソファから腰を持ち上げ、悠々と、はたまたユックリと歩き出す。
何処へ向かうかは、宛てを決めていなかった為に、老人でさえ解らなかった。
「おい、爺よ」
恐らく二年目くらいの若い兵士に、声を掛けられる。
「何だね、若いの」
「貴様が気に食わん。何故今の今まで、何年も何年も、あの家から出て来なかったのだ?
答えねば、貴様の身柄を議会に連行する。
下手をすれば、貴様は斬首だぞ」
兵士の問いかけに、老人はクフフ、と笑う。
何が可笑しいか、と怒りながら問うと、老人はこう答えた。
「いや、申し訳ないな。
何分、世間知らずな老いぼれな者で。
・・・儂があの家に籠っておったのは、儂の若い頃、そう、お主と同じくらいに見聞きしたことを、記しておったのじゃ」
興味が出たのか、自然と若者の身体から、警戒の色が薄れているようだった。
「もっと知りたいかの?」
「無論だ」
「お主、名は何と申す?」
「私はバルダー。バルダー・アインツマンだ。
貴様は?」
「私はロキ。路木ハルトじゃ」