あるいはジャメヴュか?
「炙り出し?」
予想よりかなり早い段階で、俺は答えに辿り着くこととなった。
「ええ。・・・もしかしてご存知でない?」
若干、いや見えて来ないだけで大量の嫌味と、見え見えの侮蔑とを孕んだ言葉は、結構な勢いと共に俺の正気度はごっそりと抉れた。
これがクトゥルフ系統のゲームであれば即終了である。
しかし、その侮蔑や嫌味に顔色で反応してしまったからは、俺がその炙り出しとやらを知らないことを白日のもとに晒したも同じだった。
「・・・ああ。知らないんだ」
そもそも、知らないのであれば彼女のもとへと、俺が白紙を一枚だけ持って訪れるなんていう、恐らくは自他共に認める変人の俺から見ても変で、奇妙であるそんな行為を、するはずもない。
「ですよね・・・♪」
なんで楽しそうにしているんだよ。
水門 桜海は、かなり頭が切れる。旅で出来た勉強の遅れを、一週間程で取り戻すばかりでなく、普通に授業を受けていた他の生徒さえ暗記し得なかった階乗の計算(例えば、3!=3×2×1=6のように、数字の大きさを一つずつ下げてかけ算すること)を『暇だったから』という理由で覚えた程である。
ここまで来ると、他の人が羨むどころか、恨む人が募るのだった。
「でだ。その炙りカルビってい・・・」
「炙り出しです」
流石の反応速度。
「そうそれ。それってどうやるんだ?」
「火を熾こして、その紙を火に翳すんです」
「・・・それだけ?」
「それだけです」
え、これ、答えを聞いてみればかなり簡単じゃないか。
「世の中そんなものですよ。そもそも、ハルトが考え過ぎなだけです」
と、桜海は微笑んだ。
綺麗な黒髪が、なおのこと綺麗に輝く。
やっぱりこの美しい女子高生は魔女だ。
何度も思っている事を反芻するように、改めてそんなことを思うのだった。
《ミドガルド》の神殿。
ここの巫女である、イドゥン=ラグ・ヴィルハイトは《終末の預言》を聞いた後、心を病んでいた。
「どうすれば・・・どうすれば・・・っ?」
息は浅く間隔はばらついて、脚はガクガクと震え、瞳孔は開き、青ざめ、ひきつった顔、今まさに彼女の全てから、『怯え』が噴き出ていたのである。
誰にでも突然に、出逢いは訪れるものだ。
『私の《声》が聴こえるかな・・・?』
「ッ!?」
『聴こえているみたいだね。
私は君にとっていずれ必要になるモノであり、
今まさに必要であり、かつて必要としたモノだ』
それが偶然か必然かは、神のみぞ知るのだが。
「貴方は一体・・・っ!?」
『ハハハッ、言わせないでおくれよ。
・・・君に、頼みたい事があるんだ・・・!!』
大抵、出逢いは人を善にも悪にも、弄び狂わせるものだと、この時イドゥンは感じたのだった。