デジャビュ
俺、路木ハルトは長い旅をしていた為に、それらしい高校生活を何一つ経験することのないまま、一年生の三学期を迎えることとなった。
しかしながら、進級に関しては単位が足りないとか、出席日数が足りないとか、そういった面では全くと言っていいほど、心配がなかった。
というのも、今は亡き高校の前校長・睛堂の計らいで、俺、桜海、絵茉、そして亡き璃瑠の四人は《校長の御使い》という名目の下に、欠席する分の(とはいうものの、二年半程も猶予があるところを見ると、俺たちが高校生のうちに御使いが終わらない前提だったのだろうが、その分の)単位を無償で保証するという風に、正式に高校から許可されていたからだった。
しかし。
校長、そして璃瑠が亡くなり、俺は裁判にかけられ、桜海は実家が事実上没落、絵茉は借金を負うなんていう、かなりアブノーマルかつイレギュラーな事態に陥り、その保証は効力を失った。
その時点で、全員が否応なしに留年決定である。
その点、ヘヴィーでもライトでも、そのウェイトが一番軽かったのは絵茉である。
金が彼女を追い詰めはしたが、その名誉までは奪う事は出来なかった。
桜海の背負ったものは、恐らく一番ヘヴィーな類のそれである。
今まで築き上げられた地位も名誉も、彼女は失ってしまったのだから。
だが、その一因を生んでしまったのが俺であるということも、事実として否定できない。
それ故に俺を最も追い詰めたのは《声》でも犯罪者グループの輩でもなく、そんな桜海の悲しげな顔を見ることなのだった。
そんな重い日々に舞い込んだ、一通の手紙。
校長が書き、俺宛てに送られたそれは、何ヵ月も前、旅に出た日にも感じた、何とも知れない、謎の感情を呼び起こした。
デジャビュが起こったのである。
『路木ハルト君へ。
君のことだ、さぞ驚いているに違いない。
かつての君なら腹を立てて直談判をしようと牙を剥いたことだろう。
私がこの手紙を、こんな時期に出したのか。
答えは簡単だ。
一つは、これが君の手元に届くときというのは既に、私は天に召されているだろうからだ。
だから、私が直接これをポストに入れ、届くまでの時間をウキウキと待っている事もない。
一つは、これを読んでいる君は路木ハルト君だが、それは私が見ていた君ではなく、たぶんもっと、大人びた路木ハルト君だ。
そんな君に免じて、私の遺言というわけでもないが、同封したものに、《御使い》が書いてある。必ずというわけではないが、果たせばそれは、君にとって大きな力となることだろう。
健闘を祈る。 鱈水沢高等学校長 睛堂』
封筒の中を覗く。
紙が一枚入っていた。
少し硬めの紙だ。
しかし、何一つペンの類で何かを記した様子はない。
・・・何が言いたいんだ?
校長の老人染みた趣味に、ハルトはもれなくまもなく、頭を悩ませるのだった。