それも、戀には違いない
昔々ある所に、1人の男がおりました。
男は隣の国の女とふとしたキッカケで知り合い恋をしました。
毎日毎日空を電波で飛ぶ手紙のやり取りをし、思いを育んでおりました。
お互いに忙しく一ヶ月に一度の逢瀬を重ねるのが精一杯でしたが、僅かなひと時をあらん限りの心を込めて過ごしました。
季節が一つ変わる頃に、仕事が忙しくなった事や休みが中々合わない事を理由に数ヶ月も逢えなくなりました。
男は尚一層電波の手紙をしたため、溢れる思いを空高く飛ばしていました。
しかし女は、体調が悪い事や、家族の用事を理由にあまり返事をしなくなりました。
女は、二股をかけていたのです。
男がいつもの様に電波の手紙で会話をしていた時、女は体調が悪いから寝ますと返事をし、他の男と隠れて会うための宿に篭っていたのです。
それでも男は女の言葉を信じ優しく労わりの言葉を掛け続けていました。
ある日女からの返事が二日程こない事がありました。
男は体調が悪いのだからそっとしておこうと、挨拶だけで我慢していました。
その時女は泊りがけで他の男と旅に出ていました。
旅先の隠れて逢うための宿で、男が電波の手紙で愛を語るのを、裸で抱き合いながら、それを読みあげて笑っていたのです。
ある時男の元に女から別れの手紙が電波に乗って空を飛んで来ました。
実は女が二股をかけていた男は、すでに妻がおり二人の子供さえ居たのです。
しかし、それを女の為に全部捨てたので、女も身辺整理をするのだと言いました。
男はあまりの衝撃に言葉も出ませんでしたが、事の成り行きに何かが不自然である事が心に引っかかっていました。
そこで、暫く傷心のリハビリ期間が欲しいと申し入れ、女も快く承知しました。
それから一年の間、今週は男、来週は違う男という生活が続きました。
しかし、ある日とうとう別の男がこれ以上は無理と根を上げたのです。
一番の理由は女を囲って置けるだけの蓄えが底を突いてしまったのです。
更に親戚の猛反対で離婚訴訟が頓挫し、結局別れられない事が決定的になった為でした。
元々その男には、家族を棄てるという、事の重大さが全く分かっていなかったのでした。
男はショック状態の女に三日三晩付き添い、黙って慰さめました。
女の傷が癒えるのにそれからまた一年かかりましたが、男はただそばにいる事だけに徹したのです。
女のした事は極悪非道の犬畜生がやる事でしたが、男は全てを飲み込み消化したのです。
我慢と忍耐だけが、男の唯一の対処法だったのです。
二人が知り合った頃の仲に戻るまで、さらに10年の月日が流れました。
男は老いて老人になり女も歳老いて皺や白髪が目立つ様になりました。
更に20年の月日が流れ、男は年老いてとうとう臨終の床に伏せっていました。
傍らで同じく年老いた女が尋ねました。
「貴方は何故ずっと私と居るのですか?」と。
男は黙って女を見上げ答えました。
「貴女に看取られて死ぬ為さ」
間も無く、男は息を引き取りました。
(おわり)