『サイシン』 2
「ここでいいかな?」
謎のロボットとの戦い、というか逃走の後。街から少し距離のある森の中にハウンドを座らせた、あんあのが居るのではステルスは外せそうになかった。
「ハウンド、状態を教えて」
『左肩部損傷、可動に一時的な影響あり』
「修復までの時間は?」
『自動修復機能利用で、60時間必要』
ハウンドは自己修復機能があるのだけど、どうしても時間が必要になると理解出来てる。
「それにしても、60時間か」
手元に置いた袋の中を確認する、中にはサンドイッチが入っているのだけど。
「さすがに、足りないかもな」
※
「やっぱりか」
水はたくさんあるからどうにかなったのだけど、食料はもうなくなってしまっていた。
「ハウンド、あとどの位の時間が必要?」
『残り、20時間と13分です』
20時間、一食ならば食べないって選択も出来ない事はないけど、さすがに長い。
(仕方ない、街に行ってみるか)
そんな事を考えていると、ピピピという音と通信を知らせる表示がモニターに表示された。
「こちらシグナルだ。ショウゴ君、今大丈夫か?」
「シグナルさん」
聞き覚えのある声とモニターに表示された仮面に、少し安堵した。
「今は、大丈夫です」
「すまないが、現状の報告をしてくれないか? ニュースでサイシンの情報を多少は得られたのだが、もう少し詳しく知りたい」
「今はサイシンの近くにハウンドソーサリーを隠してます」
「隠す? 何かあったのか?」
「そこはニュースになってないんですか?」
「どうしたんだ?」
「ハウンドを目的の場所で待機させていたら、よく分からないロボが出てきたんです」
「ロボ?」
「はい。濃い紫色をしていて、ナイフみたいなのを持っていました。そのナイフでハウンドのバリアを破られて、肩を損傷しました」
ハウンドのバリアは衝撃をうける物、砲弾や爆発風などには強く、ほとんど緩和出来るのだけど、先の鋭利な物、ナイフ等の刃物や狙撃銃のような細長い物には、ほとんど効果がない。
ハウンドのバリアが破られた理由もそれだった。
「ふむ。新型のWFか」
「ダブリューエフ?」
聞いた事のない言葉だ、何かの略称なのだろうか?
「WF(ダブリュ-エフ)。Within-standard Frameの略称をそう言うんだ」
「じゃあ、ハウンドソーサリーもWFなんですか?」
シグナルは首を横に振った。
「いや、ソーサリーはOF、Out-of-place Frame」 に分類されている」
「その違いって、一体なんですか?」
「簡単に言ってしまうと、人が作ったかどうかだよ」
「えっ?」
「OFを元にして作られた人型の大型ロボット、それがWFだ」
「待って下さい。それならあなたは襲われる可能性があったのに、なんで僕にその事を教えてくれなかったんですか!?」
僕は、ハウンド以外にこんなモノがあるだなんて知らなかった。それにハウンドも、それを教えてくれなかった。
「君に教えなかったのは悪かったと思う。しかし、これはこちらも予想外の事だったんだ。まさかサイシンにWFがあるだなんて、我々の情報網では掴みきれなかったんだ」
すまない、とモニターの向こうでシグナルが頭を下げていた。
「今後は、君が町に入る時にそこに関する情報を渡す事にする。それに何か必要だと言うなら、それも準備させてもらう」
そして、再度頭を下げた。
「本当にすまなかった」
彼の声と肩が震えている、大人が泣くところなんて初めて見た。
「……分かりました。」
僕は彼のその姿に、しぶしぶ了承した。
「なら、早速なんですがこれからどうすればいいですか?」
シグナルさんは、ゆっくりと頭を上げ、
「……あの場所に行った時に、君はなにかを見なかったか?」
「なにか……そうだ、杖!」
「杖?」
「そうです、杖みたいなものが見えたんですよ」
彼は口に手を当てて、
「もしかしたら、それはソーサリーの武器なのかもしれないな」
「武器? 杖がですか?」
「まあ、あくまで私の予想だがね。なにせハウンドソーサリーには、武器のような物ってないだろう?」
確かにそうだ、今のハウンドは素手で殴るか蹴るぐらいしか攻撃できない。
「なんにせよ、それは次に目的地に行ったら分かる事だろう」
シグナルはそう言った。
「さて、ショウゴ君。今、困っている事は何かあるかい?」
「困っている事……」
と、それを合図にしたかのように僕の腹の虫が鳴いた。
「フフ、お腹が空いているのか。もしかして、もう渡した食料はなくなってしまったのかな?」
「はい」
お腹が鳴った事が少し恥ずかしかったが、正直に答えた。
「そうか、なら近くのおいしい店をスタッフに調べてもらおう」
「お願いします」