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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
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『サイシン』 1




 メセクテトと別れた僕は、近くの木々の中でどうするかを決めかねていた。


「ここは……街の中だ。そんな所に出て行ったら、すぐに大事おおごとになるんじゃないか……?」


 ハウンドの示す目的地はサイシンの街のど真ん中。それに「目的の場所」 ではステルスを使わずに、その場に留まらなければいけないというよく分からないルールがあるのを理解している。

 だけれども、僕の中に流れてきた操縦法はあくまで一部のようで、最終的な事やハウンドの作られた理由など、そういう事を探ろうとすると意識がぼんやりとして分からないのもある。

 そんなモノに乗っての旅だなんて……けど。


「僕にはもう、ハウンドソーサリーと進む以外の選択肢はないんだ」


 独り言をつぶやき、操縦球そうじゅうきゅうを操って機体をゆっくりと起き上がらせた。


「ステルスOFF」


 目前のモニターの中央辺りから透明な波のような物が外側へと伝わっていく、これでステルスの機能は解除された。


「ボイスチェンジ・マイクON」


 ハウンドの外部スピーカーを起動させる。


『どけー! どかないと潰れるぞ!』


 あえて、その場に留まったままで大声を上げる。

 メセクテトが接岸した港、そこに居た漁師などがハウンドソーサリーを見た途端に驚いた顔で走り出した。


(よし、それでいい)


 出来るだけ大事になれば、その分だけハウンドソーサリーに近づこうと考える人は減るはずだと思って、移動はしなかった。

 人は少なくなったけど用心の為に出来るだけゆっくりとハウンドを前に進ませる、慎重に行動しないと。

 

「なんだ、あれ!?」


「怪物よ!!」


 ギャーギャーと騒ぎ、散り散りなりながら去っていく人々。


『早く街から離れろ!!』


 ハウンズの足元に人が居なくなる。


(よし、これなら進める)


 学校の時とは違って、彼等は無害の人だ。そんな人を踏んでは行けなかった。


「助けてくれー!!」


「早く逃げるんだ! このバケモノめ!」


 バラララと、迷彩服を着た軍人が市民を誘導しながらも小銃でハウンドを撃って来た。ただ、そんなチャチな物でハウンドは傷つきもしない。

 彼らを横目に、僕は目的の場所に向かう。


「よし、これで半分くらいか。もう少しで……ウッ!」


 ドーン、と大きな音と衝撃がハウンドを揺らした。衝撃の来た先を見ると、映画に出てくるような戦車の砲塔がこちらに狙いを定めている。


「バリアON!」


 ステルスの時のような波が、再度モニターに表示される。しかし今度のは、ステルスの時とは違い、青い波だ。

 再度戦車の砲塔が火を噴く、しかしその攻撃はハウンドに届かなかいで、ハウンドの周りを球状に覆う薄い膜に阻まれた。


『そちらの攻撃はもう効かないぞ! 無駄な抵抗をしてないで、逃げろ!』


 そう大声で告げて、ハウンドを進ませる。戦車程度の火力ならば、ハウンドのバリアに阻まれて致命傷にはなり得ないので無視をする事に決めた。


「よし、ここだな」


 モニターに表示されてる赤い丸と、ハウンドを示す三角が重なる場所まで移動させた。そこはビル街の中にある公園のような場所だった。


『ハウンドソーサリー、オンライン。チャージカウント、スタート』


 コクピット内に機械のような音声が流れた、これが合図なのだろう。


「いける……!」


 先程の戦車にはいつの間にか応援が来ていたらしく、その数が二台に増えている、しかしその砲弾はハウンドに届く事はなく、振動すらも伝わらない。

 コクピット内で、ピーピーと甲高い音が鳴っている。


「早くしてくれ!」


 ドカンドカンとうるさい音がする中でただ立ち尽くしているのは、いくら効かないと分かっていても気持ちを焦らせるには十分で、それはいつまでここに留まればいいのか分からない事もさらに拍車をかける。

 その時、手に違和感を感じた。いや、操縦球そうじゅうきゅうが熱くなっていた。


「頭が……!?」


 ビリビリとしびれる感覚があった、これはハウンドに初めて乗って時に操縦法が入ってきた時と同じ感覚。


「杖……?」


 それは一般的な長さの半分ほどしかない杖。その杖を、ハウンドが右手に構えているのが頭の中に流れてくる。


「なんだ……あれは……」


 その事に意識が向いていた僕は、いつの間にか戦車の砲撃が止んでいる事に気づけなかった。


「死ねェ! この悪魔がァ!」


 スピーカーでいつの間にか拾っていた外部音声がコクピットの中に流れ、その声で僕の意識は現実に引き戻される。声の方向は僕の後ろからだ。

 あわててハウンドを振り向かせる。モニターに濃い紫色の巨大なロボットが、ビルの看板の上から飛びかかってくる所が目一杯に写っていた。そいつは、右手に持った刀身の短いナイフのようなモノをハウンドに向かって突き立てようと迫る。

 しかし、

 

「チッ! 外したか!」


 ナイフはハウンドの左肩に刺さっていた、僕は突然おとずれた事態を飲み込めていない。

 なんなんだ、これは!? ハウンド以外にも巨大ロボットが居るだなんて聞いていないぞ!?


「ふん! ただ棒立ちか、それなら望み通りにしてやるさ!」


 左肩からナイフを引き抜くと、今度はコクピットを目指してくる。


「クソッ!」


 いまは余計な事を考えている暇はない。ハウンドを後ろに下がらせる。しかし濃紫こむらさきのロボは、こちらを狙うのを止めるつもりはなさそうで再度ナイフを構える。


「そんなよちよち歩きでかわしていても、私のナイフからは逃げられないよ!」


 一瞬にして、相手が体を沈める。なんだか嫌な予感がして、本能的に操縦球を思いっきり後ろに引く!


「ぐぅ……!」


 振動をほとんど感じないはずのコクピットに強烈な揺れが起こる。しかし、そのおかげで先程よりも高速での後退が来た。そこにナイフが飛んでくるが、当たりはしなかった。

 だけど……

 

(さっきよりもナイフが伸びてきた?)


 こちらが早く動いたのにさっきとナイフの距離に差がないという事は、腕が倍くらいに伸びたのではなかと想像する。


「このままだと、やられる……!」


 操縦球を思いっきり引く、衝撃で肺が圧迫されるが構ってはいられない!


「……ステルスON!」


 モニターに波が伝う、このまま逃げるしかここを生き残る方法はない。相手にハウンドと同等のセンサー能力がない事を祈るばかりだ。


(ほんの数日前まで死ぬ事しか考えてなかったのに、今は生きたいなんて皮肉だな)


「待て! 逃げる気か! この卑怯者の悪魔め!」


 まだ向こうの目視で見える範囲だというのに、相手のパイロットはスピーカーでそう叫んでいた、ステルスは気づかれていないようだ。


(このまま、一回逃げて体制を整えよう)


 そのまま音を立てないように、ゆっくりと街から遠ざかる。


「逃げるな!」


 執拗にそう叫び散らす女性の声が、スピーカーを通してずっと聞こえていた。

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