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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
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悪夢


「ごちそうさまでした」


 僕は手を合わせた。


「終わった? なら、後の始末はビリーに任せて行こうか」


 視界の端でビリーさんが肩をすくめているのが見えた。


「行くって、どこにですか?」


 ソーマはカードのような物をポケットから出してみせ、


「慣れない操縦で疲れているだろうから、君の部屋を用意してもらったんだよ。そこで休んでくれていいよ、先は長いからね」


 僕は彼の差し出したカードを受け取った。


「ありがとうございます」


 先は長い、か。



「目的地に着いたら呼びに来るから、それまではここで休んでてよ」


 ソーマが案内してくれた部屋は、さっきまで食事をとっていた食堂の反対側の通路にあった。


「分かりました」


「じゃあ、また後でね」


 はい、と答えるとソーマは部屋の扉を閉めた。室内を眺めると部屋の中には簡素なベットと洗面台、それと時計、それ以外には何もなかった。


「休む、か」


 ベッドに腰をかけて、倒れるように横になった。


「……出来るかな?」


 なんだか気持ちが落ち着かず、いまだに心ここにあらずな感じで落ち着かなかった。けど、気持ちとは裏腹に、疲れた体は休息を求めていたのか、視界は暗くなりまどろみに落ちていった。



「ショウゴく~ん……ショウゴく~ん……?」


 誰かが僕を呼んでいる……?


「おい! カミハラ! カミハラ・ショウゴ!」


 誰かが、呼んでいる。


「こら! 起きないか!」


 頭を誰かに殴られた、その痛みで僕は目を覚ました。


「ウゥ……ン? あ、すみません」


 まったく、と言って担任の教師が教壇に戻る。


「おいおい、ショウゴく~ん。居眠りしちゃ、駄目だろ?」


 教室の中でムードメーカの主犯格がそんな事を言うと、教師を含めたクラス全体が笑いだした。


「ショウゴ君、気をつけないと」


 隣に座る女子が優しく喋る。


「ほら、今はここだぞ」


 前に座る主犯格と仲の良いAが、教科書の場所を教えてくれた。

 

 けど。


「さあ。ショウゴも起きたし、授業を進めるぞ」


 けど、僕は知っているんだ。


「はーい」


 これが夢でしかなく、本当の学校生活はこんなんじゃなかった事を。

 入学した時はこうだったかもしれないが、僕の覚えている学校は僕が寝てようが誰も気にしないし、僕がどんな事をしてようと、どんな事をされてようと誰も気にする事はなかった。

 主犯格が僕をいじめるためだけに勝手に席を変えたり、僕の机がなくなっていたり、何をしようと学校の教師やクラスメイトは何も言わなかった。


(僕は……!)


 手に力を込める。


「友達じゃないか!」


 ブチッ!

 主犯格の潰れた頭から目が飛び出し、地面に転がる。

 その眼は、僕をずっと見ている。

 それが、何度も何度も何度も繰り返される。


「なんで! 友達! じゃないか!」


 そして、


「ソーサリーに乗っちゃダメ!!」

 

 いつの間にか僕は、ハウンドソーサリーに捕まれていた。


「ハ、ウンド……?」


 メリメリ、メリメリ、そんな音が体中から鳴る。


「ハウンド……なんで……?」


 メリメリ、メリメリ。


 ボト。


 遠くに見えたハウンドの腕の中には、変形して人の形をなしていない、僕の体の残骸だけが残っていた。



「ハア……ハア……ハア……」


 起きもしなかった事。まさに夢のような出来事の後で、アイツを潰す夢。そして、潰される夢。


(……なんでこんな夢を見るんだ)

 

「アイツは、死んで当然なんだ……!」


 もう忘れてもいいはずの事なのに、なんでアイツは死んでも僕の事を縛り付けるんだ……!

 そんな思いに、僕はいつの間にか歯をかみしめていた、口の中に鉄の味が広がり不快だった。



 コンコンとノック音が聞こえ、


「ショウゴ君、起きてるかい? そろそろ着くよ」


 扉の向こうからソーマの声が聞こえる。


「分かりました」


 そう伝えると、


「なら、良かった。5分後に格納庫、ハウンドソーサリーの所まで来てくれる? 食料や水なんかも少しだけ渡すからさ」


 そう告げると、部屋の前から離れていく足音が聞こえた。部屋の洗面台を使い顔を洗う、ひどい顔だった。

 僕はその表情を無理矢理変えるように、強めに顔を拭く。


「さて、行こう」


 僕は部屋を出て、ハウンドの待つ格納庫に歩き始めた。



「はい、これが水ね」


 ハウンドに架かる橋の前で、台車をに置かれた袋をソーマが手渡してくれる。それは重く、何が入っているんだろう? と、中身を覗くと、大きなペットボトルが数本入っていた。


「それと、こっちが食料ね」


 ソーマは一緒にいるビリーから受け取った袋を差し出す。


「こっちにはおにぎりとサンドイッチが入っているから。全部ビリーが作ったんだよ」


 そう言われ、僕は彼にお礼を言ったのだが、


「仕事だから」


 と、そっけなく返された。


「あとは、これも」


 そう言ってソーマが差し出してきたのは、手のひらに収まるサイズのPDAだった。


「通信自体はハウンドソーサリーで出来るけど、データの送信は出来ないからね。こういう物があった方が、何かと便利だろう?」


 シグナルとソーマの番号はすでに入っていると、説明を受けた。


「さて、これで渡す物は渡したし、そろそろ着陸準備に入ろうか。ショウゴ君、そろそろハウンドの中に入ってくれる?」


「はい。色々とありがとうございました」


「うん。じゃあ、次に会うのはしばらく先かな? 君の旅が、最後まで無事に終える事を祈っているよ」


 彼は笑顔で言った。



 ハウンドソーサリーに乗り込んだ僕に、複数の通信が入る。

 艦長室の会話とソーマの声だった。


「艦長、目的地が見えました!」


「あまり人の居ない所に停めるんだ」


「えっと、この辺りなんてどうでしょうか?」


 ハウンドの地図にある印がつく、そこが目的地なのだろう。


「よし。出来る限り静かに、そして素早くな」


「了解」


 ブチッ、とコクピットとの回線が切れる。


「分かったね、ショウゴ君。今の地点が目的地だから、そこから先はハウンドに教えてもらうんだよ」


「はい」


「うん。それじゃあ、気をつけてね」


 ソーマとの回線が切れた。ハウンドの後部モニターを見ると、大きな窓の向こうで、ソーマがこちらを見ているのが分かる。

 ハウンドの前に架かっていた橋が外され、徐々にハウンドが寝かされ始める。格納庫内に光が差し込まれ始めると同時に、ハウンドと格納庫内の透明化が始まる。

 無音で外に出されるハウンド、外の景色が見え始めた。ハウンドの次の目的地を見ると、そんなに遠い所じゃなかった。


「目の前の街が、目的地なのか」


 そこは異国の地、『サイシン』だった。

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