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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
36/37

『ガイアル』 3


「は?」


 その声と共に、口の更に奥の方から何かが噴き出そうとする。


「な、にガァ……!」


 視界が狭まる、口から血が噴き出したみたいだった。


「すまないな、ショウゴ君。ようやく私達の準備が整ったのでね、ハウンドソーサリーは返してもらおう」


 何も存在しなかった空中に白く輝くロボットが姿を現した、ハウンドと同じくステルスなのだろう。それは、前に博物館で見たサムライというこの国で伝わる戦士に似た姿をしていた。


「ハウンドソーサリーを恨んでおきながらも、その力に頼ろうとは我ながら滑稽な事ではあるが仕方がない」


 モニターの一部が欠損しているのと、目がかすんではっきりとは見えないがシグナルがマスクをつけ直す様子が分かった。


「ハウンドソーサリーと出会った君はいとも簡単に人を殺せた。君ならば、私の思想に共感してくれると思ったのだが……今の君は、変わってしまったんだな。彼女のように」


「か、のじょ……?」


「君の前のパイロットだ、会っているだろ?」


 ああ……


「彼女は君と違い人を殺す事はなかったが、なによりもガイアルを憎んでいた。私は彼女だったら賛同してくれると、全てをすぐに打ち明けたのだがな。まさか、なにも理解せずにそのままハウンドソーサリーと逃げ出すとは思わなかった」


 役には立ってくれたがな、そう言いながらシグナルはニヤっと笑った。


「シグナル様、彼は説得に応じましたか?」


 モニターに新たな画面が拍子される、そこにはこれまで何度も連絡を取り合った見知った顔が写っている。


「ソーマか。いや、彼は説得を受けないだろうと判断し、いまその最後を見ている所だ」


 ソーマの顔が伏せられる。


「そう…ですか……」


 再度こちらに向けられた顔は、異質な程の笑みを浮かべていた。


「やっぱり、そうですよね! 彼はハウンドソーサリーのパイロットにはふさわしくない! ハウンドソーサリーの本当のパイロットは……」


「落ち着きなさい、ソーマ。君はハウンドソーサリーの話になると、すぐに血がのぼってしまう」


 シグナルが諭すと、ソーマは軽く咳払いをしていつもの表情に戻る。いや、この表情が偽物なのだろう。


「それで、準備の方はもう出来ましたか?」


「ええ、大丈夫です」


「なら、やってくれ」


 そのシグナルの指示に応じるように、ハウンドの警戒音が響く。


「ア、アァ……」


 音は鳴り続けている。当然だ、メセクテトのような空を飛ぶ船が何台も目の前に現れたのだから。


「WFとOFのパイロット達はどうだ?」


「ええ、回収してきましたよ。みんな、シグナル様の呼びかけに快く答えてくれました」


 シグナルの表情は変わらない。


「シグナル様、これからの作戦をあらためてみんなにお願いします」


 ソーマも、いつものように柔和な笑みのままだった。


「ああ……聞け、ガイアルに恨みを抱く者達よ! その気持ちの出所は、みなそれぞれに差異がある。だが、その最終地点は同じはずだ! 我々の目的は、ただひとつ。ガイアルの存在しない世界の構築だ!」


 通信が繋がったままのソーマの画面から歓声が聞こえてくる。


「ガイアルはこの世界で不当な手段を使い、のうのうとそのトップの座についている! その下には、多数のむくろが転がっているというのにだ! 私は、そんなガイアルにないがしろにされた全ての人々の怒りをぶつける事を決意し、いま、ここにこうして存在している!」


 シグナルの乗る機体は腰に下げたカタナを抜くと、それを空に掲げた。


「私はここに宣言する! ガイアルと、それを感じる物の全てをこの世界から消滅させることを!」


 歓声が一層大きくなる。


「このカタナと私のOF、『ツクヨミ』に誓おう!」


 ツクヨミの背後にある帯のようになった板が動き出し、その形状をしだいに変えていく。それは大きな円のように変形して、ツクヨミの背後に形成される。


「この『ツキアカリ』に続け!」


 円の中に光が生まれた、ワァ! と、大きな声が画面から聞こえてくる。


「では、あとはお任せします。シグナル様」


 プツリとソーマの通院が切れる。


「さて、ショウゴ君。まだ生きているかな?」


 朦朧とする意識の中で無意識に何かを言ったような気がするが、判然としない。


「ふふ、そうか。君自身の事を恨んでいる訳ではないのだよ。だけど、君はそのハウンドソーサリーに選ばれてしまった、そして乗る事を選んだ。それは、ガイアルに与する事と同じだとここにいる同士の共通認識だ」


 もう、寒さすら感じられない。


「ハウンドソーサリーはガイアルの一番の戦力で、一番の憎悪の対象だ。そんなモノ、誰も許しはしない」


 視界が、狭まる。


「すまないな、ショウゴ君」


 ツクヨミの刀がこちらに向けられた、その周囲に光の刃が複数本現れた。


「フォトン・シードよ」


「……」


 僕の口は動いたが、言葉が出る事はなかった。


「ハウンドソーサリーを貫け」


 彼の言葉にはたいして感情が込められてはいなかった。フォトン・ソードはハウンドの四肢を貫く。両腕、両足が損傷した事をハウンドが告げる。


「さらばだ、ハウンドソーサリー」


 一本だけ残ったそれは、真っ直ぐにハウンドの頭部を貫いた。ぐらっと機体が傾き後ろに倒れていく、コクピットから見える景色がゆっくりと動き、空の青だけに変わったのと同じくして背中に強い衝撃を受けた。

 コクピット内の僕の体が宙に浮く、胴体を貫かれたせいで中空コクピットの構造が壊れているのだろう。


 ドスン!


 ハウンドソーサリーが倒れる音がする。その中で落下していく僕の体を、僕は動かす事が出来ない。


 ドン!


 僕の体がなにかに打ちつけられると同時に……僕は……



「お疲れさまでした、シグナル様」


 通信中のソーマの顔に笑みが浮かんでいた、あまり他人に見せられないような笑み。


「ソーマ、気を引き締めるんだ。私達の戦いはここからが本番だ」


 ソーマは一度咳払いをすると、真剣そうな表情を見せる。


「申し訳ありません、ようやく復讐が出来ると思うとどうしても……」


「フ……分からないでもないがな、あまり他の者に見せぬようにな。あまりに歪すぎる」


「ハッ!」


 ソーマは敬礼のポーズをとる。


「それもいらないぞ。我々はもうガイアルの一部隊ではなく、あくまで単なる集団だ。上も下もない」


 私自身、そうである事が煩わしいというのもあった。


「はい、分かりました」


 ツクヨミの展開した背面プレートを解除し、『カゲン』を鞘に戻す。


「これからの事ですが……」


「先程のブリーフィングで言った通り、部隊を複数に分けて行動しよう。その方が、簡単でいい」


「ここみたいに、ですね」


「ああ、そうだ」


 この街、フエガミはその企業の九割がガイアルの傘下だったのは下調べがついている。この街の資金の一部は、当然のようにガイアルの本社に入っていく。そんな街は、残してはいけない。

 ただ、この街はまだいい方だ。

 他の場所では街全体が兵器開発の土地として利用され、その兵器は国同士の戦闘に使われる。両方の国のだ。そうして資金を増やしては、また戦争をさせてを繰り返す。

 つくづく救いのない世界だ。


「ところで、シグナル様?」


「なんだ?」


「ハウンドソーサリーは、どう……するのですか?」


「ブリーフィング通り、回収だ」


「……けど、あんなモノに頼る必要があるのですか?」


 ソーマの目は軽蔑のソレだった、彼がそういう反応するのは仕方ない事だろう。


「先程も言ったが、手段は多い方がいい。その為には利用できるものは利用するんだ、修理を頼む」


 そういってソーマとの通信を切る。


「……ようやく始まるな、全てが」


 マスクに手を当てて、独り言は呟いた。


「ここまで何年もかかった、ようやくだ……」


 息を吐き、熱くなる頭を冷やす。

 ツクヨミノモニターの隅で、ハウンドソーサリーとの通信画面が残っていたが黒くノイズが出ているだけだった。

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