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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
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『ガイアル』 2


「えっ?」


 僕はハウンドを通して見えたその風景に、場所を間違えたのではないかと思い、再度地図を確認したのだけれど、そこは間違いなくフエガミだ。


「なんで……」


 昔からキョウゴクに伝わる話を思い出す。

 漁師が助けた動物に連れられて楽園のような場所にたどり着いた。しかし、漁師は故郷が恋しくなり戻ったのだが彼の目の前にあったのは生まれ育った村の未来の姿だった。

 物語の中の彼にはある箱が渡されていたが、僕はそんなものを持ち合わせてはいない。


「街が、無くなっている……」


 そう、全てがない。

 人が住むための家やマンション、人が暮らすためのお店、人を癒すための施設、そこへ向うための道、コンビニ、図書館、服屋、警察署。

 僕のいた家、それにあの学校。

 その全てがかけら一つ残さずに消滅している、まるで元々そこには何もなかったというかのように更地になってしまっていた。


「う、嘘だ……」


 操縦球を倒し、街に向かってハウンドを向かわせる。

 ここは来たことのある本屋、ここは公園、そして住んでいた家。

 なにもない。


「なんで……」


 心臓が痛い、息が苦しい、なんだか眩暈がする。

 あんなに嫌だった街なのに、僕の心は失いたくなかったなにかを探し続けている。


「ここが、学校……」


 無駄な行動だとは分かっていた、更地なんだから全てが見えている。わざわざ移動して確認するなんて必要のない事なのに、そうする以外に僕がいまここで出来ることがなにもなかった。


「こんな事って……」


 頭の中の混乱は止まる事がない、一体何が起こって? どうやって建物が? 誰が? そして、ここに住んでいた人達は……?

 ハウンドに通信が入る。


「やあ、ショウゴ君」


 ハウンドのモニターにある見知った顔が写っている。


「……シグナルさん?」


「やあ、ひさしぶりだね」


 今の僕の表情がどんな風に彼に見えているだろうとなんとなしに思った、けど相当に酷いだろうと見えなくても分かる。


「シグナルさん、あの街が……」


 声が震えているけど、自分ではどうにもできない。


「キレイだろ?」


 え?


「ガイアルに毒された街が無くなり、そこにはただの静寂だけがある。いいものだと思わないかな、ショウゴ君?」


「な、何の事ですか……?」


 僕には仮面をつけた彼のいう事がなんなのか分からなかった。


「この街にある根幹はガイアルが作った物だ。政治、経済、教育。その全てが牛耳られ、生活の全てがガイアルあっての物だ。君はこの状態に、違和感を抱かないか?」


「一体、なんの話を……?」


 モニター越しの彼は頭を押さえ、ため息をついた。


「まだ、分からないのですか?」


「……なにがですか?」


 彼は薄く笑い、


「私がこの街を消したんですよ」


 そう話す。

 僕にはその言葉の意味が分からなかった。


「おや? そんなに呆けた弧をするだなんて、まだ分かっていないようですね」


 シグナルはリモコンのような物をチラつかせ、そこにあるボタンのひとつを押した。

 ビリビリとノイズがモニター上に走った。


「え? 目的地が変わってる!?」


 さっきまで間違いなくフエガミについていたマークがもっと西側の場所に移動していた。


「フフフ。便利だな、コレは。わざわざココに来い招く必要が無いのだからな」


「なんでこんな事を?」


「まだ、理解できないのか……なら、仕方ない。少しだけ昔話をしようか?」


 シグナルは頭の後ろに手を持っていく、なにかが外れるような音がした。


「もう……十年以上も昔の話だ。ガイアルに入社したての青年が、ある任務を負う事になった。それはただの輸送任務なのだろうと、青年は信じていた。信じきっていたんだ。だが、彼に命じたガイアルにはあるひとつの思惑があった」


 シグナルのマスクが浮き上がる。


「青年の運んでいたモノはただの積み荷ではなかった、青年自らが操作しソレが行きたい所に歩ませる。ソレは、OF……out-of-place frame と、よばれる遥か彼方の過去の遺物のひとつ。現在の技術では作る事の出来ない機能を持つものの一体。その名を、ハウンドソーサリーと言った」


 シグナルのマスクがなにかを掬おうとしているかのような両手に落ちた。


「そのハウンドソーサリーは目的地の全てをまわり終えた時にある機能が解放される。それは、人の願いをひとつだけ叶える究極の装置。誰も持ちえない程の富が欲しい、どんな事でも死ぬ事のない体が欲しい、絶対に老いる事のない美貌が欲しい、そんな愚かで浅ましい願いすらも叶えてしまえる人類には過ぎたモノ。それこそが真のハウンドソーサリーだ。ただし、その願望の代償が必要でな……」


 シグナルの素顔がこちらを睨むように見ていた、その顔は黒く変色し複数の血管が浮き出ていた。


「醜いだろう? ガイアルの青年が上司から告げられたのは、上層部のひとりに永劫の生を与えるという事だった。彼は寝食を気にもせず、自らの出世の為とただひたすらに進み続けた。道中、体の不調を感じていたのにも関わらず」


 不調……?


「そして、青年が全てを悟ったのは他人の願いを叶えた時。体内の血がハウンドソーサリーの操縦球そうじゅうきゅうから吸われ続け、体の渇きを覚えて時に彼は気を失っていた。次に彼が目が覚めた時、初めて見た物は醜く変わり果てた自らの顔だった」


 操縦球から血が吸われる? そうか、あの手のひらに起こる痛みは血を……


「彼は落胆した! 自らで思考せず、他者に自分の運命を委ねさせたことに! 自らを鑑みず、他者の思いに答えようとしたことに!」


 シグナルの顔には激しい憎悪が見えた、サイシンで会ったあの女性よりももっと巨大で全てを飲みこもうとするような猛りだ。


「私を騙したガイアル! 私を貶めた幹部達! そして!」


 ハウンドのコクピット内にけたたましい音が鳴り響く。


「母のように私を受けいれながら、私の血を糧にしてきたハウンドソーサリー! その全てに! 私は復習を行う!」


 ドン! と、いう衝撃がハウンドソーサリーを揺らした。


「最初はオマエだ……死神ハウンドソーサリー

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