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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
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『友人』 4



 帰りの道の間、僕とコリンは無言だった。


「おう、帰ったか」


 本を読んでいたおじいさんが、本を裏返しに置いてこちらに歩いてきた。


「なんか釣って来たのか? どれ? よし、メニューは決まったから作るぞ。コリンも手伝え」


「うん」


 コリンは昼よりも元気がなさそうに返事をしていた。



「ごちそうさまでした」


 僕は言いながら手を合わせる、横目で向かいに座るコリンの様子を見ると、少し不機嫌そうだった。

 まさか友達になった途端、こんなに気まずい雰囲気になるだなんて思ってもいなかった。けど、僕にはコリンの考えが理解出来なかった。


「……コリン、お前は先に上に行ってろ。片付けは、俺とショウゴでやっておくから」


「いいの?」


「……いいから、行きな」


 コリンは首をかしげたが、そのままキッチン横の扉を開けて店から出て行った。


「さて、と」


 おじいさんは座っていた椅子から腰を上げ、カラになった食器を重ねていく。僕も自分の分と他の皿を持って、彼の後についてキッチンの流しに置いた。


「ほれ」


 と、差し出されたスポンジを受けとり皿を洗い始める。


「ほら、そんなに力を入れてこすったら皿に傷が入っちまう。もう少し加減するんだ」


 おじいさんは見本を見せて、僕に教えてくれる。それの真似をして別の皿を磨く。


「そう、そうだ。思ったよりも筋が良いな」


 あんまり褒められ慣れてないせいか、くすぐったい。


「……昔、コリンにもこうやって教えたっけか」


 彼の顔は、少しだけどほころんでいた。


「アイツ、アンタをどこに連れてったんだ?」


「海に釣りを、それと夕日を見に」


「フッ、あのビルの屋上か。たしかに、エアーズで唯一自慢できる場所だからな」


「ええ、良かったです」


「そうか」


 話し終わると一緒に、僕達は作業を終えた。


「コーヒーを入れたから適当な所に座ってくれ」


 先程と同じ場所に座ると、おじいさんはコーヒーポットを置いて音楽プレイヤーをつけた。店内に落ち着いた曲調の音楽が流れ始める。


「あんまりコリンには聞かれたくないからな」


 と、カップをテーブルに置いてコーヒー注いだ。


「アイツになんか言われた?」


 コーヒーの香りが鼻を刺激する。


「ええ、友達になろうって」


「ふーん、それで?」


 彼は向かいに座り、コーヒーをひと口飲んだ。


「友達になりました。……けど」


 コリンの不思議そうな目を思い出す。


「……なんで戦っちゃいけないのか分からない、って言ってんだろ?」


「はい」


 おじいさんの視線はカップの中のコーヒーを見ているようだった。


「……コリンはな、人の生き死にに興味がない。いや、違うな……理解できてないんだよ」


 どういう事なのか、その言葉だけでは理解できなかった。


「コリンはな、物心つく前に両親が亡くなっていてな。アイツの母親は両親と不仲で、そんな子供の産んだガキなんかいらないって突き放した。俺は俺で、こんな場所で生活してるから小さな子供を引き取るのは気が進まなかった」


 僕と似ているんだなコリンって。


「でもな。アイツを迎えに行ってアイツを見た時、俺は決めたんだ『何があろうと俺はコリンを守る』ってな。自分の息子の時はそんな事、微塵も考えた事なかったのにな。何がそうさせたのやら……」


 そう言ってコーヒーを飲む。


「まあ。そうやって育ったせいなのか、どうしても人が死ぬって事に対する意識が薄いんだよ。それにこの島で育ったてのもあるんだろう。この島は年寄りしかいないから年に一回は葬式があるんだ、そんな環境で何年も過ごしたら『死』ってものがあまりに身近過ぎるんだろうさ」


 死、か。


「だから、どうにも危機感……死んでしまう事への意識が希薄になっててな。あんな調子なんだよ」


 自分に対しても、他人に対しても、か。少し怖くも思うけど、なんでだか羨ましくもあった。


「……ただな」


 思考していた僕の考えはその声で消えた。


「……コリンはそんなんなけど悪い奴じゃないんだ。俺の口調を真似してやがるから悪ぶって見えるかも知れないが、よく気がつくし面倒見もいい。だから……」


 彼はカップを思いっきり傾け、中身を飲み干したみたいだ。


「アイツの事、嫌わないでやってくれ……」


「……はい」


 彼はコーヒーカップを持ってキッチンへ向かい、その姿がここからは見えなかった。


「……話はそれだけだ。もう遅いから、早く寝ろ!」


「はい」



 部屋は三階の突き当りだと教えてもらいコンクリートの階段を登り、部屋の扉を開けた。


「よう」


 部屋の中にはベットの上に座るコリンがいた。


「あれ? 寝たんじゃないの?」


 僕の質問に彼は首を振る。


「そのさ……ちょっと話したくて」


 コリンはそっぽを向いたまま話していた。


「今の俺には、なんでショーゴとじいちゃんが怒ってるのか分かんない。だけどさ……」


 僕は黙ってコリンの話を聞く。


「そんな俺でもいいなら、友達を続けてくれないか?」


「プッ! ハハハ!」


 やけに真剣そうに話し始めたから何事かと思ったけど、そんな事かと笑ってしまった。あと、コリンの表情がさっきのおじいさんに似ていたってのもあるけど。


「笑わなくていいだろ!」


「ごめん。でも、あまりに面白くて」


 まだ、笑いは止まらない。


「おい、酷いな。こっちは真剣なのに」


「ごめん。でもさ……」


 コリンは不貞腐れたように唇を尖らせていた。


「友達を辞めるだなんて、僕はひと言も言ってないよ」


 新しい友人をつくるのは怖いと思っていたけど、コリンならばいいかとも思えた。

 だから、僕は彼と向き合う事に決めた。


「そ、そっか。なら、うん分かった。じゃ、じゃあな。おやすみ」


 急に恥ずかしくなったのか、そそくさと部屋を去ろうとするコリン。


「ちょっと待った」


 僕はその腕を掴んだ。


「な、なんだよ?」


 僕はおじいさんの話を聞いた時からある事を考えていた。


「僕は明日、ここを去る」


 僕はコリンの腕を放す。


「だから、その前に戦おう!」

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