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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
29/37

『友人』 1


 8




 メセクテトから降り立った僕の目の前には、民家が所狭しと立ち並んでいた。


「ここがエアーズか」


 ハウンドのモニターに目的地の場所がしるされていたけど、ここからもう少し西の方角に進んだ所のようだった。僕は操縦球そうじゅうきゅうを操り、その方向へハウンドの足を進めた。


「それにしても……」


 ここに降りてからレーダーをずっとつけているのだけれど、人らしい影は全く目につかず本当に無人のようで、なんだか薄ら寒いような雰囲気があった。


(街が消える時って、こんな感じなんだ……)


 世界にはある問題が起こっている。それは小さな規模での変化ではなく、本当に世界的な規模でドンドンと人がいなくなっている。

 飢餓、疫病、テロに戦争。原因は色々と言われているが、結局のところの原因は誰にも分かっていないらしい。この街の過疎もその一部なのかもしれない。


「寂しいな……」


 前の僕なら、こんな事を思わなかっただろう。消えるなら誰よりも先に消えたいと思っただろう。


「現金だな、僕も……」


 あんなことをしたって言うのに……


「アレは……」


 僕が忘れてもいい事じゃないと……少しは思い始めていた。

 でも……

 

「!!」


 ビービー! と、警戒音がコクピットの中にけたたましく響いた。


(なんで、いつの間に!? それに何処から!?)


 モニターのレーダーに熱源の反応はない、でもどこからか音がする。

 まるで、なにかを引きずっているかのような音。


「下だ!」


 ボコりと歩いていた道の一部が隆起した、その大きく開いた穴の中から巨大な長い姿のナニカが現れた。


「ヘビ!?」


 ギラギラと日を浴びて輝くその姿は間違いなく蛇そのものだった。


『反応があるから気になって来てみたが、誰だ?』


 蛇に乗っているのであろうパイロットは、外部マイクを使って大声でこちらに喋りかけてきた。その声は少し高く、少年だと分かった。


(こっちの姿が見えているのか!? ステルスは解除していないから熱源での反応は探知できないはずだ、それに音だってしない。この蛇には、こちらを見破れるほどのセンサーでも積んでいるっていうのか?)

 

『こちらからは丸見えなんだ、姿を見せたらどうだ? 犬頭さん!』


 虹色に輝く大蛇はその口を大きく開き、ハウンドを丸呑みするかのように接近してきた。

 僕は操縦球を引いて、


「ハウンド、ステルス解除! それと、ボイスチェンジとマイクだ!」


 戦闘を避けるために対話をする事にした。


「やめてくれ! こちらに戦闘の意思はないんだ!」


 外に響く声は加工されたものだったけど、こちらの意思は届いたはずだ。

 僕の言葉を聞いた向こうのパイロットの動きが止まった。


『うん? そうなの?』


 なんだか、気の抜けるような返答だった。


「あ、ああ! こちらは、ただ目的地に行きたいだけなんだ! 頼むから通してくれないか!」


『うん? そうなのか、うーん?』


 なんだか、今まで会ったパイロット達とは雰囲気が違うな。


『うーん……よし!』


 蛇は一瞬だけ空を見上げて、


『行くぞー!』


 こちらに向かって突撃してきた!


「待っ……!」


 こちらが言い終わる前に、その体がウネウネとくねりながら突撃してきた!


「ハウンド、バリアON!」


 間一髪でバリアの展開が間に合ったけど。


「お、重い……!」


 全身を使った体当たりは異常なほどに重く、操縦球を前に倒していても自然と後ずさってしまう程だった。


「なんで、こんな……!」


 こちらの声が聞こえたのであろう彼が、


『オレはコイツ、メリエインでずっと戦ってみたかったんだ!』


 屈託のない声でそう返答した。


「そんな理由で!?」


 戦いたいというだけならば前もいたけれど、あのパイロットとの差はハッキリと伝わってくる。危機感のようなものを一切感じる事が出来ない。

 まるで遊んでいるかのようだ。


『別にいいだろ、理由なんて!』


 ハウンドへの加重がさらに増える、さっきまでのはまだ全力じゃなかったのか。


「ハウンド、バリア解除!」


 潰されるかもしれない怖さはあったけど、ハウンドを守っていたバリアを外した。


『おっと!?』


 メリエインという大蛇はハウンドのバリアで支えられていたのがなくなり、自然と前傾速度が早くなる。しかし、ハウンドには当たらない。

 バリアとメリエインの隙間はそれなりにある。


(つまり、メリエインが倒れてくるその間に後退できれば、潰されない!)


 ドスン! と音を立てながら、地面を割ってメリエインが伏した。


『へえ、面白いね』


 本当に愉快そうな口調で言っていた。


「なんで、こんな事を!? 死ぬかもしれないのに!?」


『ん? うーん? そうだね』


 それだけだった。


『じゃあ、そろそろ本気で行くぞ!』


 メリエインが頭を持ち上げ始めると、虹色のうろこがさらに光を増し始めた。


『これが……』


 その声を遮るように、


「コラー! この馬鹿者が!」


 拡声器を使った誰かの声が聞こえてきたが、音が割れていた。


『げッ!? じいちゃん!?』


 メリエインのパイロットが驚嘆の声を上げた。


「コリン! とっとと降りてこい!」


 メリエインの動きがピタリと止まると、首がダラりと折れ曲がり中から褐色の少年が降りてきた。


「お前もだ! そこの犬頭!」


 その声にビクッ! と、体が浮いた。


「早く降りんか!」


 なんでか分からないけど、僕はすぐにハウンドを降りてしまった。

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