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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
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『サイシン』 6


 ハウンドの杖から出た光によって、辺りは真昼かのように一瞬だけ明るくなった。


「グゥ!!」

 

 貫いたと思っていた光線は、トウテツの右肩に穴を開けただけだった。


(寸前で身体を動かして回避したのか……!)


 さっき自分が同じ事をやれたのは、相手の動き知っていて予測できたからだ。

 それなのに彼女は初めて見るハウンドの攻撃を躱して見せた、明らかにパイロットとしての力量が違い過ぎた。

 トウテツは右手から落ちたナイフをすぐさま左手で拾い上げ、また闇の中に消える。


『お前、わざと攻撃をズラしただろ?』


 その言葉にドキッととした、さっきの光線の威力ならばトウテツの胴体部分を一撃で貫通出来た、トウテツの一番装甲の厚い所をだ。

 けど、咄嗟に狙いを少しずらしてしまった、ユアンという名の彼女の顔がチラついて……。


『お前、私に情けをかけたのか?』


 その声は、今までより静かだった。


『私に情けを? お前が? お前が……? お前がぁぁ!!』


 ナイフの光がさっきより早くこちらに向かってくる。

 ハウンドを左に逃がす、頭の横にあるビルの壁にナイフが突き刺さった。


『お前が! 私の弟を殺したお前が! センエンを殺したお前が! 私に情けをかけるなぁぁ!』


 ハウンドのうまく動かない左腕で、何度も叩きつけるように迫るナイフを防ぐ、バキバキと音を立てる左腕、その形は歪に変わっていく。


『お前がセンエンを!』


 僕は、その言葉に怒りを覚えた。


「僕は……僕はそんな人知りませんよ!」


 トウテツのナイフを振り上げる手が空中で止まる。


「お前は、誰だ?」


 身体が密着しているからなのか、こちらの声が向こうにも届いたようだった。

 けど、頭に血が昇っていた僕は気にせず叫ぶ。


「僕は、僕です! あなたの弟さんが誰かは知りませんけど、僕には関係ないです!」


 モニターの下に何かが表示される、それはあの料理屋で見た女性の驚いた顔だった。


「違う! あの時、弟を殺した男じゃない! あの陰鬱で残酷な笑みをした男じゃない! お前は、なんなんだ!?」


「僕は! そんな奴じゃない!」


 右膝でトウテツを押し返す、さっきまでの勢いが無くなっていたトウテツは、あっさりと距離を開ける事が出来た。


「ヌール!」


 ビィ! と高音が鳴ると同時に、光線が発射されたのだが、狙いをつけていなかったのでトウテツの横の地面をえぐるだけだった。

 土煙が上がり、風下にいたトウテツの姿を隠した。


「クソッ! 見えない!」


 ビルの間で吹く風は強く土煙はすぐに消える、そこにトウテツの姿は消えていた。


「また消えた……!」


 熱源探知をつけるが、やはりさっきと同じ様に真っ赤になっているのを確認して、無駄なので消した。


「どこだ? どこから来る?」


 辺りを見回すがナイフが光っている所はない、それにさっきまでと違い。


「声がしない」


 彼女は攻撃してくる時に必ず声を出していた。それがあったからこそ合わせて回避も出来たのに、このままでは向こうのタイミングが分からず、回避が難しい。

 ゴクリ、と無意識に唾を飲んでいた。

 焦燥感が僕を蝕んでいく。出来る事ならば、やたらめったらにヌールを撃ちたいが、それは向こうにつけ入るスキを与える事にしかならない。

 これが彼女の本当の強さなのだろう。

 その思考を遮るように、何かがハウンド目がけて飛んできた。

 咄嗟に操縦球を動かして回避させる、視界の端に見えたのは大きなコンクリートの塊だった。

 キラリと光るモノが、真正面に見えた。


「ヌール!」


 闇が消え光が足物から立ち昇る、僕は慌てて杖を下に向けて光線を放った。


『グッ、目が!』


 地面に向けてはなった光は、相手の目を一瞬眩ませるために使ったものだ。


「ヌール!」


 その攻撃はトウテツの左膝を砕いた。


「ヌール!」


 次に狙ったのは右足、ふともも辺りから爆散した、これでトウテツは壁に貼りつく事も、歩く事もは出来ない。

 目標を動かす、胴体の部分を狙い、止めた。

 ここで僕が彼女を殺さなくても、誰に迷惑がかかる事ではないだろうとヘカを下げた。


 目的地に再度立つ。


『ハウンドソーサリー、オンライン。チャージカウント、リスタート』


 トウテツはもがく事もなく、ただ転がっていただけだった。


『チャージ、コンプリート』


 マップに新たな赤い矢印が表示される、それは次の目的地への目印。


「ハウンド、ステルスON!」


 モニターに波が映る、トウテツはもがくように残った腕を伸ばしていた。

 僕は操縦球を動かして来た方にハウンドを向け、歩きださせた。


『何故だ、センエン! 私はお前の敵を討ちたいだけなのにィ!』


 彼女の呻きが、夜のセイシンに響いていた。


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