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狗の魔術師を駆るモノ  作者: 青木森羅
~ショウゴの旅~
1/37

心を閉ざした少年と、ハウンドソーサリーの出会い




「このブルク・ドラグノフの駆るガムラ・ノクトの攻撃、そう何度もかわせるか!」


 正面に立つロボットの搭乗者パイロットは叫びながら、僕の乗るハウンドソーサリーに左の拳を振りかぶった。


「こんなところで暴れたら、どうなるかくらい考えろよ!」


 その左拳をハウンドの右腕で受け止めた。こんな狭い洞窟で暴れたらお互いに生き埋めになってしまうというのに、相手は何にも考えていないのかと腹が立ち、口調が荒くなる。


「さすがに素人だな! 胴体が、ガラ空きだ!」


 ガムラ・ノクトの鈍く光る剣がコクピットに大きく映し出された。


(なんで、こんな事に……)


 僕がハウンドとの旅に出たのは二カ月ほど前の事だった。


※※※


 僕は授業を終わると教室から飛び出し、トイレの個室に隠れて、その扉に鍵をかける。恐怖や不安が混ざりあい、扉を押させる手が震えてしまう。


(どうか……! どうか、気づきませんように!)


 だけど、その願いも虚しくトイレの出入り口のドアを乱暴に開ける音と、聞くだけで過去の事を思い出してあちこちに痛みをはしらせる声が聞こえてきた。


「ショウゴくーん、神原かみはらショウゴ君はこちらにおられますか~?」


 三人のバタバタという不揃いの足音と共に、僕の名を呼ぶ声が聞こえる、これからまた地獄の時間かと思うと気分が暗く落ち込んでいく。


「ショウゴ君はいつもトイレに居るからねぇ? 今日もここかと思って来てみたよ」


 僕はトイレに入ってきた時に確認した事がある。それは、この個室トイレ以外で誰かが使っている個室がなかったという事。ここに隠れているのがすぐにバレる事は、はなっから分かっていた。

 分かってはいたが、今の僕にここへ隠れる以外の逃げ場所がなかった。少し前の事、誰も居ない教室に隠れてその日はやり過ごしたが、次の日になぜ逃げたのか? そう問われながら、バットで腹を何度も殴られた。そんな風にされるくらいなら、彼らの気の済むようにさせればまだ痛くはない。そんな気がした。

 コンコンと、個室の扉がノックされる。


「ショウゴ君、今日はここかな? もし違ったら謝るので、覗かせてもらいますよ、っと」


 個室のと天井の隙間に手が掛けられる、上から覗くのだろう。前も同じ事をされて、咄嗟にシャーペンで刺した事があったが、寄ってたかって蹴られる事になった。

 今の僕には、彼の行動を止める気は起きなかった。


「あっ、やっぱり居たじゃん。ショウゴ君」


 隙間から、主犯格の同級生がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 たぶん、扉の向こうにはいつもの2人も待っているのだろう。彼らにとっての僕は、まるで物言わないオモチャだ。

 僕にとってもそれは同じ。彼らの名前なんてどうでもいい。だからは覗いている彼は主犯格で他の二人はAとB、そうとしか認識していない。

 彼らは人のふりをした怪物だ。


「ねぇ? ショウゴ君、早く開けてくれないかな? そうじゃないと、前みたいに水浸しになっちゃうよ?」


 あの時は家に帰るまでの道すがらで色んな人の目が気になって嫌だった。あんな目をもう一度向けられるなんて、酷く惨めでしかなかった。

僕は言われた通りにドアを開ける。


「やぁ、ショウゴ君ッ!」


 ゴスッ! と、鈍い音と共に体に痛みを感じた、腹をぶん殴られたんだ。後ろのクラスメイトのAとBは、いつものようにニヤニヤしながら僕が苦しんでいるのを眺めている。


「ショウゴ君。いつも、いつも、言っているだろう? 僕らを困らせて大変な目に遭うのは君なんだから、いちいち無駄な抵抗しなくていいってさ!」


 今度は左胸を殴られた。


「ガハッ!」


 一瞬で肺の中の空気が無くなり呼吸できなくなる。息をしようとしても声は発せず、おかしな音しか出ない。


「だけどね。誰もいない所に自分から行ってくれるのは、高評価だよ」


 ニヤニヤした顔で話しつつも、僕の頭を掴むと、オラ! と、かけ声を出して顔に膝蹴りを浴びせてくる。


「うッ!」


 目の前が真っ白になり、顔全体に激痛が走った。


「おいおい。そんなにしたら、コイツが誰かにいじめられてるってバレるんじゃね?」


 そうAが言った。彼は典型的な腰巾着タイプで、常に保身以外は気にしてない。


「俺らがやったってのがバレなきゃいいだけだろ? 気にする事ねぇって」


 Aの言葉は気にもせず、主犯格は僕の頭から手をはなして返事をした。彼の手で辛うじて支えられていた僕は、支えを失ってまっすぐにトイレの床に崩れ落ちた。


「うぇ、汚ね」


 Bが汚物でも見るようにそう言いながら、倒れている僕の腹を蹴り上げてくる。


「ウッ!」


ゴポリと、胃の奥から何かが上がろうとしてくる。


「別に気にする事ねぇよ。手を使わなきゃ良いんだからさ」


 Aは用具入れからモップを取り出した。

 

「ほら、コレでこうすればさ」


 ケラケラと笑いながら、モップを僕の後頭部に擦り付けてきた。不快な臭いで吐き気が増す。


「そんなんじゃ生ぬるいだろ」


 笑う事をやめない主犯格は、バケツ一杯に入った水を僕の頭にかけた。モップの異臭が一層酷くなり、僕は我慢できずに胃の中のもの全てを吐き出した。


「うわっ! こいつ吐きやがった! ふざけんじゃねえぞ! 靴にかかっただろうが!」


 彼らは僕を足蹴にしながら罵倒を続ける。


(僕はもう、限界かな……?)


 これまで幾度となく繰り返し考えていた事。さんざん我慢してきたが、それももう限界だ。


(なんで、こんな風になってしまったんだろう?)


 何度も考えてはみたが、いまいち思い当たる答えがなかった。ただ、原因かも知れないと思う事がひとつだけ。廊下をすれ違った時に、主犯格と肩がぶつかった。

 ただ、それだけだった。

 最初の一週間はたいした事がなく、ただ丸めたゴミくずを投げてくるだけだった。それも主犯だけだったけど、それもエスカレートし始め次第に人数が増えていき、今では学年中からいじめれれるようになっていた。

 そんな彼等はもう人じゃない、ただの獣だ、名前も呼びたくない。


(もう……疲れたよ)


 最初の頃は腹を殴られただけで意識が簡単に飛んでいた。だけど最近は、殴られ過ぎて体が順応したのか意識が飛ばなくなってしまっている。こんな事すら慣れてしまうだなんて、人間は不便なモノだと思う。

 僕の精神は、もうボロボロだった。


(三人が飽きたら、屋上から飛び降りようか。あ、屋上って鍵がかかっているんだっけ? それなら教室の窓からにしよう、それがいいな)


 蹴られながらも頭の中では異様に冷静でそんな事を考えていた。冷静過ぎてで自分でも気味が悪いとは思ったけど、思考が止まる事はない。

 三人は蹴るのを突然にやめた、その息は激しく疲れたから止めたのだと分かった。


「ハァハァ、さて。今日はこのくらいで帰るか。それじゃまた明日ね、ショウゴ君」


 最後に腹を蹴りながら主犯格が喋る。主犯格が扉のノブをひねり、ドアを開けてトイレを出ていこうとした、その時。

 大きな縦揺れの振動が起こった。


「な、なんだ!?」


「地震だ! デカいぞ!」


 地鳴りが起こり学校全体が揺れている。三人は慌てていたが、倒れている僕はどうでも良かった。

 そのまま潰れてしまっても。

 彼らは地震の揺れに気をとられ、ただ騒いでその場に棒立ちだった。そんな時、突然トイレの壁が外側から弾け飛び、その破片がAとBに突き刺さる。僕は、異変を感じて体をゆっくりと起こした。


「お、おい、二人とも!?」


 無事だった主犯は急いで二人に駆け寄ったが、Aは頭に破片が突き刺ささっていて素人の僕でも一目で即死だと分かった。

 しかしBは腹部の半分が潰されていたけど、まだ意識は残っているみたいで、


「タスケテ……タスケテ……」


 Bはそううめきながらも主犯格に助けを求めるように手を伸ばしていたが、それを見ている彼には何が起きたのか理解できていない様子で、頭を抱え怯えているだけだった。

 そんな二人のやりとりよりも、僕は目の前の壁があった場所が気になっていた。

 トイレの壁の色である水色とは違う、茶色の別の壁がそこにはあった。僕はそれに導かれるように近づいた。まるで誰かを待っていたかのように、その壁の中央部分が左右に開き中からなにかを吐き出して、再度同じように閉じた。

 中から飛び出てきたのは血の気がないような顔色をしている、僕と同じくらいの歳の女の子だった。

 床に倒れた少女を急いで抱え起こし、


「大丈夫?」


 そう尋ねた。けど、僕の声は彼女の耳に届かなかったようで僕の質問には答えてくれなかった。

 だけど、代わりに少女はその華奢な手を伸ばしてうわ言のように、ある言葉をつぶやいた。


「ソーサリーには、近づかないで……」


 彼女が僕に伸ばした手は、途中で力がスッと抜けてゆっくりと床に落ちた。


「ソーサリー……」


 彼女のつぶやいた言葉を真似た時、誰かに呼ばれた気がした。

 少女を壁に寄りかからせた。僕の興味は気を失ったその少女よりも、彼女が飛び出てきた穴とその横で緑に光っているナニかに向いていた。

 

(あそこから呼ばれている。一体、誰が……)


 フラフラとする足取りで慎重に近づいてみると、緑光りょくこうは手のひらの形になっていた。


「ショウゴ、お前何してるんだよ!? 早く逃げないと、俺達も死んじまう! なぁ!?」


 誰かがなにかを叫んでいたが、そんな事は僕にはどうでもよかった。光る手形、そこに右手を置くのだと、そうしろと誰かに言われている気がした。

 僕はゆっくりと、手を乗せた。


イタッ!」


 触れた瞬間、手のひらに痛みを感じた。手を放すと痛みの原因はすぐに分かった。緑の手形、その中央から突き出た鋭い小さな棘のような物で掌のまんなかを刺されていた。ぽたぽたと音を立てて床に落ちる僕の血、それがトイレの目地を流れていくが見えた。

 傷ついた右手は痛むが、その音と光景はテレビを見ているようでなんだか現実感がなかった。


「ヒィッ!」


 誰かが小さな悲鳴をあげたみたいだけど、どうでもいい。目の前の茶色い壁が再び左右に開かれると、僕はその中に導かれるように向かう。


「おい! ショウゴ、何やってんだよ! そんな事してないで、とっとと逃げるぞ!?」


 名前を呼ばれた気がしたけど、僕の足が止まる事はない。その空間に僕が入ると、背後でなにかが閉まった音がした。 


「暗くて、何も見えないな……」


 外からの光が失われたその中を、あちこち手探りで探していると丸い物体がある事に気がついた。血に濡れた右手でそれに触れると、暗かった空間に明かりが灯った。

 まぶしくて目を細めたけど、それも数秒の間に慣れ始めた。そこはSF映画やアニメに出てくるコントロールルームのような雰囲気の場所だった。

 中央にイスが一つと、そのひじ掛けの両方に丸い球、それしかない空間だった。その球体にいつの間にか触れていたみたいで、濡れた血がついている。

 周囲の壁に外の景色が映し出される。トイレの方を見ると主犯格がずっと何かを言っているみたいだったが何も聞こえはしない。それに、この場所に対する好奇心の方が勝ってた。

 イスに腰をかけて、片方だけ触った丸い球を今度はしっかりと左右両方共に握りしめる。

 その時、僕の頭の中にナニカが流れ込んできた。


「グゥ……!」


 流れ込んできたのは、この大きなロボット「ハウンドソーサリー」の操縦法。

 一瞬で、僕はハウンドソーサリーの事を理解した。

 さっきの棘は認証の為に必要な物で、その血をこの操縦球そうじゅうきゅうにつける事で完了する。他にもコイツの動かし方やその他の諸々(もろもろ)の機能などがドンドン流れ込んでくる。あまりの情報量の多さに頭は重くなり、なんだか気持ちが悪い。

 とりあえず、学校の校舎にもたれかかってるハウンドソーサリーの姿勢を直すことにした。右手を校舎の屋上に引っ掛け、左手で地面を押す。大きな音も無く、いとも簡単に立ち上がる。


(コイツ、どこかに行きたいのか?)


 何故だか分からないけど、僕にはそう感じられた。

 ふと足元を見ると、ハウンドソーサリーの墜落した時の音を聞きつけてか、教師達集まって来ていた。


(こんなに学校に残っていたのか……それなのにこいつらは、僕を助けなかった……!)


 そんな思いが激しい怒りを生み、僕の体内を駆け巡る。血液が沸騰しているんじゃないかと思う程に、体が熱い!

 僕は、ハウンドソーサリーの右足を上げた。


(お前らは……)


 教師たちがなにかを訴えるように喋っている。


(見ないふりをして……)


 そのままハウンドの上げた足を下ろす、彼らの真上に。


 グシャ!


(僕を助けなかった!)


 奥歯を噛みしめながら、三人の教師を潰した。

 潰れた同僚を見て、悲鳴を上げ逃げ惑う女教師。腰を抜かして、その場から動けなくなる年老いた男性教師。

 その教師達の悲鳴を聞き、校内に残っていた生徒も集まってきた。

 何人かの教師はまだマトモだったらしく、生徒達を逃がそうとしているみたいだった。


(なんで、僕は助けてくれなかったんだ……! 僕だって、怖かったのに!)


 そんな怒りとも悲しみともつかない感情は、逃げ口を見失ってしまった。

 ふと、トイレの中を見た。そこには、いまだに目を覚まさないままの少女と、怯え切った目をした主犯格。


(アイツが、アイツが……!)


 僕の頭は再度沸騰し、右手を上げる。その動作を見た主犯格は、急いでトイレの中から逃げ出そうとしていた。


「お前なんか……死んでしまえェェェ!」


 僕の叫びと共に、ハウンドソーサリーの腕が伸びてトイレの中を貫通し、外の廊下まで破壊する。激しい音と粉塵を巻き散らかしながら、トイレが階下に崩れ落ちる。

 だけど手ごたえはなかった、すんでのところで逃げたみたいだ。

 右手を校舎の中から引き抜く。


「ハウンドソーサリー、レーダー発動!」


 目の前のモニター画面に、熱を持つ全ての生物のシルエットが映った。


「透視、ONE ONワンオン!」


 そう命じると壁が透け、廊下で怯え惑う人々の姿が映る。


「センサー、ONオン!」


 ピピピと音を立て、ターゲットマークが対象を探す。


「見つけた……!」


 ピン! と音を立ててターゲットマークの色が黄色から赤に変わり、一つの小さな影を捉える。ヤツは廊下を走り、下の階に行こうとしていた。

 僕は校舎の反対側にハウンドを移動させる。


 グシャ。


 移動した事でまた誰か踏み潰した。ハウンドソーサリーは地上から数十センチ程度だけど浮いているので足音がしない。そのせいか外の音がよく聞こえてくる。

 何歩か歩かせると校舎の表側に出た、主犯格は2階まで下りているみたいだった。


「待て!」


 僕は手を伸ばすが、また掴み損ねた。ただ、また何人か潰したみたいで引き抜いたハウンドソーサリーの青黒い腕に、布や何かが張り付いていた。


「くそッ!」


 イライラする。ますます、僕の体は熱を帯びてフーフーと荒い息をしているのが自分でも分かるほどだった。

 主犯格は一階に下り、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下に出ようだ。


「逃がさない!」


 左手を限界まで伸ばすと、ガラガラと音を立てながら渡り廊下が崩れ落ちる。けど、ハウンドの左手には掴んだ感触がしっかりと存在した。


「掴まえた」


 左手の間から主犯格の上半身が覗いていた。


(ようやく……)


 僕はハウンドの左手の力を、少し強めた。


「や、やめてくれェー!」


 苦痛の声が聞こえる。僕の気分は最高だった、こんな愉快な気持ちがこの世にあるのだと初めて知った。


「フ、フフフ……」


 今までずっとずっとやられてきた事をようやく返せる、そう思ったら無意識に笑いが漏れてしまう。


「これに乗ってるのショウゴだろ? 何でこんな事するんだよ、俺たち友達じゃないか!」


 力を加える手が止まった。今まで散々人をいじめてきた奴の言う言葉とは思えなかった。


(トモダチ、だって?)


 よくもアンナコトを何度も、何度も、何度も、何度もしてきて、それでも!


(本当にッ! コイツはッ!)


 あえて少しだけ左手の力を緩める、主犯は安堵した顔をしていた。


「僕の今までの苦痛を味わえ!」


 緩めた力を再度強くする、それもさっきよりも強く!


「いだいィィィ!」


 主犯の叫ぶ声と共に、口から血しぶきが飛散する。


(いい気味だ。そして、いい気分だ!)


「フフフ……」


 また力を緩める、そして握る。何度も、何度も、何度も何度も!

 たったの数階で主犯格が泣きながら、僕に懇願してきた。


「なんでこんな事するんだよぉ、死んじまうよぉ、助けてくれよぉ」


 僕の怒りは限界を超えた。

 

(なんでコイツは何にも感じていないんだ?)


 僕の笑いは消え去り、力を入れるのをやめる。


(僕はあんなに嫌だったのに……)


(辛かったのに)


(こんなにも、怨んでいるのに!)


「ハウンド、ボイスチェンジ・マイクON」


 ハウンドのマイクをつけた、ただ声は変えてある。


「本当に分からないの?」


 外に響く別人の声は機械音のように冷淡で感情を感じさせない声だ、こんなのが僕から出てるのか。


「ショウゴなのか? ショウゴなんだろ!? 俺が何をしたって言うんだよ。頼むよ、離してくれよ。友達じゃないか!?」


 へらへらと泣き笑いをしながら、主犯格は言った。

 僕はハウンドに命令を出す。


「ハウンドソーサリー、マイクOFF」


 マイクが切れる。

 左手に力を入れると、メキメキと音がした。


「グゥゥゥ! や、止めてくれ。骨が折れた。もう死んじまう!」


 コイツは本当に駄目だ! 僕をいじめてた意識すらないんだ!


(こんな奴は!)


 左手の力を最大にした。


 ブチッ!!


 ソイツの上半身と下半身はハウンドの手のひらの中で分かれて、下半身は地面に落ち、砂を血と臓物で赤黒く染める。手の上に残った主犯の顔は目玉が飛び出し、穴という穴から血が噴き出していた。

 その目は、僕の方を真っ直ぐに見ていた。


「フフ……」


 左手を開く。上半身も下半身と同じ位置へ重なる様に落ちていく。


「ヤッタ……」


 興奮しながら僕は呟く。


「ヤッタ、ヤッタ、ヤッタ、ヤッタ、ヤッ……」


 なにかが口の奥の方からこみ上げてくる。いいだけ殴れて吐く物も無くなったはずの、胃から胃酸だけが戻ってきた。


「オエェェェ」


 僕は吐いた。大嫌いな奴を殺しただけなのに、吐いた。胃液で口の中が気持ち悪い。

 何度も吐いていると、


「そのロボットに乗っている生徒、大人しく降りてきなさい!」


 ふいに外からの声がした、見ると数人の警察官が銃を構えこちらを狙っている。

 口を制服の裾で拭う。


(そんな小さな銃で、僕のハウンドに勝てると思っているのか?)


 そう思ったが、よく見ると警察官の手は震えていた。

 

(アレはさっきまでの僕だ。無力で抵抗するすべもなかった、あいつらにいじめられて震えていた……僕だ)


 ここに留まる事が急に怖くなった。


「ハウンドソーサリー、飛べ!」


 僕はハウンドにジャンプをさせて学校の塀を越えさせると、車道を走ってその場を離れさせた。

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