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第8話


 次の日、学校を早退して病院にいった。検査の日じゃなかったけど、いちおうっておか

あさんに言われて。また30分まつのはわかってたから、図書室で本をかりておいた。「つ

まんない」のみなさん、きょうは相手してあげられないよ。

 30分はすぐおわった、あたしの名前はいつもより早くよばれた。ミリカせんせい、こ

んにちは。ミサコちゃん、こんにちは。きょうはミリカせんせいにしつもんされて、いつ

もの検査をした。けっかは異常なし、よかった。ただ、あんまり無理しないようにってミ

リカせんせいに注意された、すいません。


 お家でベッドに横になってたら、サッチがきてくれた。早退して出られなかった授業の

ことを教えにきてくれた、ありがとう。サッチはおんなじクラスで、家も10分くらいし

かはなれてないの。だから、なかよしこよしになった。ユッくんにきのう、あたしのこと

をおしえたのもサッチだった、またありがとう。

 サッチとおしゃべりしてたら、ユッくんがきた。サッチとユッくんはお知り合いだから、

こんにちはって言いあった。ホントは、お知り合いになったのはきのうなんだけど。あた

しがよくユッくんの話をしてたから、サッチは昨日わざわざお知り合いでもないユッくん

のところにいってくれたみたい。ユッくんは、あたしにとって大事なひとって知ってたか

ら。

 きょうは3人でおしゃべりした、なんだか変なかんじ。サッチはあたしの友達で、ユッ

くんはあたしの好きなひと。だから、3人でおしゃべりしてると、ユッくんに友達っぽく

はなしたり、サッチに好きなひとっぽくはなしたりしちゃいそうだった。ユッくんはよく

うまく変えられるね、器用だね。それにくらべて、あたしは不器用さん。こんな不器用さ

んにつきあってくれてありがとう、ユッくん、サッチ。


 ユッくんが帰るっていったら、サッチがあたしもっていった。2人はいっしょに帰って

った、さみしいな。2人がいなくなるのもさみしいし、ユッくんとチュウできなかったの

もさみしい。3歳のときにしてから、あたしの家にユッくんがきたら必ずしてたのに。あ

ぁ、サッチをうらんでるわけじゃないよ、タイミングがわるかったんだけだから。

 そうかんがえてたら、おかあさんに呼ばれた。なんだろうと思ったら、げんかんにユッ

くんがいた。ユッくんはわすれものしたって言って、あたしの家にもどってきたみたい。

「わすれものってなぁに?」

 またあたしの部屋まできたら、ユッくんは首をふった。

「・・・してないでしょ?・・・」

 あたしの机のおおきな引き出しを指でさしながらユッくんがいった。あたしのフルーツ

の口紅がはいってる引き出し。そう、ユッくんはあたしとチュウするために戻ってきてく

れたんだね。

「ユッくん、ありがとう♪」

 あたしはいっぱい笑顔になった、ユッくんの気持ちがすっごくうれしかった。

「おばさんに嘘ついちゃったけどね、わすれものって」

 そんなのいいんだよ、それはね優しい嘘っていうんだよ。ユッくんのやわらかい気持ち

がね、嘘もやさしくしちゃうんだよ。

「ユッくん、なにがすき?」

 あたしの机のおおきな引き出しをあけてユッくんにきいた。あたしのぬる口紅をユッく

んにえらんでもらうのは初めてだった。ユッくんがもどってきてくれたのがうれしくて、

そうしたくなったの。

 あたしはユッくんのえらんだグレープの口紅をくちびるに一周させる。チョコチョコあ

るいてユッくんにちかづくと、いつもとちがう感覚だった。いつもはすわりながらのチュ

ウなのに、きょうは自然に2人ともたってた。ユッくんってこんなに大きくなったんだ、

っておもった。ユッくんとの時間の長さをかんじた、ユッくんがこんな大きくなるくらい

一緒にいるんだね、あたしたち。ちょっと背伸びして、あたしのグレープのくちびるをユ

ッくんのふつうのくちびるとくっつけた。2人とも成長してるのがわかると、なんだか背

伸びしたのと同じ分だけ気持ちも背伸びしてるような気がした。ユッくん、これからもい

っしょにいてね。ユッくん、これからもあたしとチュウしてね。


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