第5話
きょうはユッくんとおでかけ、あたしの夏休みのおもいでになる日。おそらさんにはお
日さまがいて、クヌギの木にはカブトムシがいて、あたしのとなりにはユッくんがいる、
やったっ。
「ミーちゃん、あつくない?」
「うん、だいじょうぶ」
ユッくんが何十回もきいてくれた、心配してくれてありがとう。確かにあついのはあつ
いんだけど、それは夏だからしょうがないの。お家にいたってあついし、はだかになった
ってあついんだから。それにきょうは雲がでてるから、いつもより平気だよ。そのおかげ
で、こうやってユッくんとでかけられるんだから。
病院のミリカせんせいから、ピーカンな日はなるべく外にいかないでっていわれてるか
ら、せっかくの夏休みでもあたしはお家にいないといけない。みんなプールにいったり、
スポーツをしたり、追いかけっこしたり、すっごくたのしそうなのにあたしにはそれが禁
止されてるの。雨の日になっても、外にでてもプールもスポーツも追いかけっこもできな
いし。だから、あたしが外に出れるのはこういう雲のいるときぐらい。そんなのちょびっ
としかないから、あたしの夏休みは何日間かだけ。「つまんな〜い!」って、大声あげたい
けど言ってもなにもかわらないし。たいくつ、たいくつ、たいくつだ〜。そのかわり、き
ょうは特別たのしんでやるんだから。1ヶ月半の夏休みを何日間で全部たのしんでやる。
あたしとユッくんのだいぼうけん、しゅっぱ〜つ。
田んぼのあぜみちをトコトコあるく、ユッくんのうしろについてトコトコあるく。右に
田んぼ、左に田んぼ、前と後ろにはぐちゃぐちゃの土と土のついた草でできた道。田んぼ
ではおじいちゃんやおばあちゃんがお米をそだててる、こんにちは。せっせとはたらいて
忙しそうですね、がんばって。あたしとおんなじ麦わらぼうし、おそろいですね。土と草
の道をシャッシャいいながら歩くと、ユッくんが急に左にまがった。
「ミーちゃん、気をつけてね」
そういって、田んぼの中のほっそい道をしんちょうにあるく。あたしもすべらないよう
に気をつけて、おそるおそるあるいた。ツルってコケて、田んぼに入ったらえらいこっち
ゃ。白いワンピースがべちゃべちゃになって、麦わらぼうしが茶色くなって、ユッくんに
めいわくかけて、ユッくんに嫌われちゃうかもしれない。そんなのヤダ、あたしころばな
い。なんとか歩ききったら、目の前におっきなおっきな木があった。下を向いてほっそい
道をあるいてたから全然きづかなかった、ビックリ。おっきな木は、ふっとくて、上のほ
うから何本にもわかれてた。アニメで妖怪が再生するみたく、にょきにょきって生えてひ
ろがってた。
「すっごい、すっごい大きいよ、ユッくん」
あたしはユッくんのシャツの袖をつかんで、いっしょうけんめい言った。
「すごいでしょ、これクスノキっていうんだ」
クスノキ、それがあなたのなまえですか。どうもこんにちは、クスノキさん。あたし、
ミサコっていいます、よろしく。
クスノキさんはあたしとユッくんが何人でもはいっちゃうくらいおおきかった。あたし
とユッくんがよりかかると、2人を陰でつつんでくれた。とってもすずしかった、きもち
よかった。あたしを歓迎してくれてるのね、クスノキさん。
「すずしいね、ユッくん」
「ここなら、ミーちゃんもずっといられるかなって思って」
そうなんだ、あたしのことを考えてここに連れてきてくれたんだ。やさしいね、ありが
とね。あたし、ここ気に入ったよ。すずしいし、風につつんでもらってるみたいだし、と
なりにユッくんもいる。
そのまま、きょうはクスノキさんの下でユッくんとずっとおしゃべりした。クスノキさ
んは下からみあげてもとにかく大きかった。田んぼではたらくおじいちゃんとおばあちゃ
んが小さくみえてかわいかった。遠くにみえる山は緑がたっくさんで、それがお日様の光
にあたってキレイだった。クスノキさんによりかかっておしゃべりしてるあたしたちもか
わいかった、はず。
「ありがとう、ユッくん」
帰り道できょうのお礼をした、クスノキさんのところに連れてってくれてありがとう。
どういたしまして、ってユッくんはいった。おそらさんには夕日がうかんでた、オレンジ
色でキレイだった。




