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第4話


 きょうは幼稚園でプール遊びの日、おっきなビニールプールにみんなではいるの。バッ

シャン、バシャバシャ、ピッシャ〜。さわやかな音がなる、みんな気持ちよさそう。ざん

ねんながら、あたしはあの輪っかの中にはいることはできません。病院のミリカせんせい

にダメっていわれてるから。みんなが水着でつめたさとたわむれてるあいだ、あたしは校

庭のベンチで麦わらぼうしと白いワンピースで見学。みんながつめたくなってるのを見る

のも涼しかったけど、どっかむなしい。なんで、あたしはあそこに入っちゃいけないの?

病気はあたしのせいじゃないんでしょ、だったら少しくらいゆるしてよ。ツンとしてたら、

せんせいがいろいろやさしく話しかけてくれた。

「ミサコちゃんはユミくんのことが好きなの?」

「うんっ、大好き」

「いいなぁ〜、先生もユミくんが好きだよ」

「ダメだよ、ユッくんをとったら」

「大丈夫、ユミくんはミサコちゃんのものだもんね」

 あたしもせんせいもニンマリわらった。せんせいは毎年あたしがプールにはいらないか

ら、あたしの横にいてくれる。せんせいもごめんなさい、あたしのとばっちりで。せんせ

いだってつめたくなりたいのに。

 しばらくしたら、ユッくんがこっちにきてくれた。あたしがつまんなくてふてくされて

ないかと思って。そしたら、せんせいがユッくんにきいた。

「ユミくんはミサコちゃんのことが好きなの?」

 ユッくんはちょっとおどろいた顔して、あたしをすこし見た。あたしは答えが気になっ

てユッくんをジッとみてたら、ユッくんは横をむいてコクンってうなずいた。

「じゃあ、2人は両想いだね〜」

 せんせいの言葉に、あたしははずかしくなった。うれしくて、うれしくて、はずかしく

なった。ユッくんはなにも言わないで、プールのほうに走っていく。わかってるよ、ユッ

くん。ユッくんはあたしよりも恥ずかしがりやさんだから、にげちゃったんでしょ。


 その日、幼稚園からかえったらユッくんがあたしの家にきてくれた。おととい来てくれ

たから、2日ぶりだね。ベッドにすわったあたしとカーペットにすわったユッくんはきょ

うもおしゃべり。たのしいな、ユッくんとのおしゃべり。何のおしゃべりかはどうでもい

いの、誰とおしゃべりするか、それだけだから。ユッくんとおしゃべりしてることが大事

なの、あたしにとって。

「ねぇ、ユッくん」

「なぁに?」

 きょう気になったことがあったの、だから聞いてもいい?

「ユッくんって・・・ホントにあたしのことが好き?」

 あたしみたいな、わがままな女の子でいいの?

「うん、そうだよ」

 あたしの目をみて言ってくれた、やっぱ幼稚園のときは恥ずかしかったんだね。せんせ

いがあたしのとなりにいたから、言いずらかったんだね。うれしいよ、あたしの体には入

りきれないくらいうれしいよ。「うれしい」があたしの中でたくさんたくさんうごいてるよ。

ユッくんはあたしがすきなんだね、エヘヘ。

「あたしもユッくんのことが大好きだよ」

 あたしもすきって言っちゃった。ユッくんだけ言うのはふこうへいかなって思って、あ

たしも言った。あたしの顔がニコニコしてる、ユッくんの顔はあんまりかわらない。ガマ

ンしてるの、ユッくん?顔が恥ずかしくなるのが恥ずかしくて、やせガマンしてるんだね。

そんなとこも、かわいくてすきだよ。きっと、あたしのすきが大きくてくすぐったくなっ

ちゃうんだよね。あたしがこちょこちょするから、ユッくんはもぞもぞしちゃう。


 ユッくんが帰るっていった、時計をみたらもう6時をすぎてた。そうか、6時半からユ

ッくんのすきなアニメがやるんだよね。お家に帰してあげないと、ユッくんをユッくんの

時間にもどしてあげないと。机のおおきな引き出しをあけて、どれにしようかなってえら

んだ。ストロベリー、きょうの気分で。あまくて、みずみずしくて、あかい。ストロベリ

ーの口紅をくちびるに一周させる、あたしのくちびるがストロベリーになる。イチゴの赤

とくちびるの赤がたしざんで、もっとあかくなった。ふつうのおかあさんの使ってる口紅

をぬったみたい。すこし大人になったみたい、ウフフ。

 ひざをすりながらユッくんにちかづくと、フウって息をする。いくよって言って、ユッ

くんのくちびるにあたしのくちびるをくっつけた。ユッくんすきだよ、チュっ。あたしの

ストロベリーのくちびるとユッくんのふつうのくちびるがピッタンコ。あたしの大人みた

いなくちびるとユッくんの幼稚園のくちびる。ユッくんが好きなあたしのくちびるとあた

しが好きなユッくんのくちびる。またあいましたね、2日ぶりですね、っていってる。あ

たしのくちびるがユッくんのくちびるにいってる。5秒くらいでくちびるがはなれたら、

下をむいた。ユッくんに好きっていってもらった後のチュウは、うれしくて、はずかしか

った。ユッくんはあたしを元気にしてくれる、何倍にも、何十倍にもしてくれる。


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