第3話
きょうは幼稚園にいった、あたしもきょうから年長さん。年長さんってことは、年中さ
んや年少さんからしたらおねえさん?あたしがおねえさん、へんなの。なんだかくすぐっ
たい、タンポポの綿毛で顔をこちょこちょされてるみたい。そんなことはなしながら、バ
スで幼稚園までつれてってもらった。
年長さんになったって、やることはあんまりちがわない。そういったら、ユッくんもウ
ンっていった。そうだよね、急におねえさんになるわけじゃないもんね。特に、あたしは。
あたしはまだおねえさんになれない、誰かがいないとダメだから。幼稚園にいるときは、
あたしのとなりにはいつもユッくんがいてくれる。ちがった、ユッくんのとなりにいつも
あたしがいるんだ。誰かがいてくんないといけないから、ユッくんのそばにピッタリいる
の。ぜったいに他の子にとられないようにするの。
他の女の子がユッくんと遊びたいって、あたしにいってきた。あたしは、ダメっていっ
た。なんでダメなのってきかれたから、ダメだからダメなのっていった。そしたら、その
子があたしの背中を2回なぐった。バン、バン、って良い音がなった。痛いよ〜、でもこ
れでユッくんをとられなくてすむならがまんするよ。痛いの痛いのとんでけ〜っ、やっぱ
痛い。。
トイレいくってユッくんにいって、トイレにいった。かえってきたら、ユッくんがいな
かった。どこっ、どこっ、かくれんぼじゃないよね。後ろからそっと来て、あたしをビッ
クリさせるんじゃないよね。右みて、左みて、前みて、後ろみて。
「・・・いたっ!・・・」
でも、なんで?
なんで、さっきの女の子と遊んでるの?
せんせいにきいたら、あたしが注意された。あたしがいっつもユッくんといるから、他
の子がユッくんと遊べない、って。あたしもユッくんだけじゃなくて、他の子と遊びなさ
い、って。なんで、なんで、あたしがおこられるの?あの女の子がユッくんを横取りした
んだよ、あたしはわるくない。なんで、なんで、なんで、ユッくんはあの女の子のところ
へいったの?
ユッくんが他の女の子と遊んでる、おえかきしてわらってる。ユッくんがたのしそう
なのが、あたしはさみしい。今まで、ユッくんがたのしそうなのは、あたしもたのしかっ
たのに。さみしい、さみしい、さみしいよ。体の中がキュってしぼんだ、そこにあったか
なしいボタンがポチっておされた。涙がポツンってさみしく出てきたから、あたしはグス
ンってすすった。涙がとまらないで出てきたから、あたしはンエ〜ンってなきまくった。
ひとつの涙がひとつのさみしさ、とまらない涙はとまらないさみしさ。体中がさみしくな
って、いくらでもあたしの外に出ていった。エンエンないてたから、クラスの中のみんな
がこっちをみてた。せんせいが「ミサコちゃん、ミサコちゃん」ってだきしめてくれてた
けど、関係ないの。あたしはユッくんがいなくてないてるの、関係あるのはユッくんなの。
そのままエンエンうずくまってないてたら、あたしのすきな声がひびいた。
「ミーちゃん・・・ミーちゃん・・・」
ユッくんの声がした。あたしを呼んでくれてる、あたしのために言葉をいってくれてる。
あたしのところに来てくれた、他の女の子のところから来てくれた。ありがとう、ユッく
ん。体の中のさみしさをぜんぶ出すから、もうちょっとまってて。
「だいじょうぶ、ミーちゃん?」
あたしが泣きおわったら、ユッくんが心配してくれた。だいじょうぶって答えたら、よ
かったって言ってくれた。
「ミーちゃん、ごめんね」
ユッくんがあたしにあやまった、他の女の子のところにいってごめんねって。うぅん、
ってあたしは首を何度もふった。
「ユッくん、ごめんね」
あたしもユッくんにあやまった、こんなことで泣いてごめんねって。あたしのせいで、
ユッくんの自由がなくなっちゃってるんだよね。すごいわかってるの、わかっててユッく
んのとなりにいるの。ホントにごめんね、あたしにはユッくんがひつようなの。あたしの
となりにユッくんがいて、ユッくんのとなりにあたしがいないとダメなの。ごめんね、い
つもごめんね。




