第12話
きょうは検査の日、月に1回だけ病院にいく日。あたしのとなりにおかあさんはもうい
ない、もう1人で全部できるようになったから。1人で病院にいけるし、1人で受付の人
とおしゃべりできるし、1人で検査もうけれるし。もしかして、あたしもちょっと大人に
なったのかな、エヘヘ。待合室でも今までみたいにたいくつに過ごしたりしないの。学校
の宿題とか、試験勉強とか、中学生になるとたいへんなんだから。30分なんてすぐだよ、
チチンプイプイって魔法かけたみたいにあっというま。
ミリカせんせい、こんにちは。ミサコちゃん、こんにちは。いつもの挨拶をして、いつ
もの質問をうけて、いつもの検査をする。結果もいつもどおり、異常なし。
「ミサコちゃんは、いつも健康だね〜」
えっ、どこが?麦わらぼうしをかぶったり、日傘をさしたりして、時々たおれちゃう子
のどこが。はてなマークだよ、ミリカせんせい。
「ミサコちゃんみたいな病気の人はね、みんな1回はおおきな症状を起こすのよ」
おおきな症状、って?
「小さい子って無茶したりするでしょ、日光はダメっていっても海にはいったり」
そりゃ、あたしだっておんなじだよ。海にはいって、バッシャンバッシャンおもいっき
り泳いでみたい。飛行機にのって、おそらさんの近くでこんにちはって言ってみたい。遊
園地にいって、ユッくんと乗り物に乗ってたのしいデートがしたい。こうみえても、あた
しだってたっくさんガマンしてるんだから。
「ミサコちゃんにはそれがないの、ミサコちゃんぐらいの年までにはあるはずなのに」
それって、あたしが優秀さんってこと?あたし、みんなのお手本になるような人ってこ
と?あたしもやればできるんだね、えっへん。
「ミサコちゃんには、なにか特別な予防線があるのかな?」
予防線、って?
「いつも健康に気をつかってる人が長生きできるとか、病気にならないとか」
そういう気づかいが何かあるのかもね、っていわれた。あたしはいろいろ考えたけど、
何もおもいつかなかった。なんなんだろう、あたしの予防線って。あたしを優秀さんにさ
せてくれてる、予防線って。
「でも、これから大きな症状が起こるかもしれないから気をつけてはおいてね」
はい、ミリカせんせい。




