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第10話


 ことしも夏がきました。みんなが待ってて、あたしが待ってない夏。あたしの天敵、夏

なんてキライ、キライ、キライ。お昼に外に出るのはつらいし、病院のミリカせんせいに

も気をつけるように言われてる。あたしも少しずつ成長してきて、暑さにも敏感になって

きてるから。年をとるごとに病気とも向き合っていかないといけないっていう、ミリカせ

んせい談。

 学校までの登校は朝はやいし、家までの下校は夕方だからいいけど、体育の見学では麦

わらぼうしと日傘があいかわらずのアイテム。正直、制服に麦わらぼうしって合わないか

らイヤ。キャップのほうが合いそうだけど、背に腹はかえられない。格好がどうこうより、

暑さをふせぐことのほうが先決。


 きょうの見学はたのしみ、水泳部のれんしゅうの見学だから。きょうは図書部の当番の

日じゃなかったから、プールの外から見学デー。あたしがユッくんをみてると、ユッくん

があたしにきづいた。あたしが笑顔で手をふったら、ユッくんもふりかえしてくれた。ユ

ッくんの水着姿はりりしい、ほんのり日焼けしてて格好いい。ユッくんの泳いでる姿はま

ぶしい、水しぶきをあげて格好いい。

 中学生になってもユッくんをすきな女の子は何人かいたけど、あたしは負けない。あた

しが1番ユッくんのことをしってて、あたしが1番ユッくんの近くにいるんだから。

「ミサコはそれがいいかもしれないけど、ユッくんはわからないでしょ?」

 サッチの言葉が急にうかんだ、前にサッチがあたしにいった言葉。ユッくんはたくさん

の恋をもってる、確かにそうだ。あたしがいなかったら、ユッくんはいろんな人と恋をし

ているにちがいない。じゃあ、やっぱりあたしがユッくんの恋をいくつも取ってるのかな。

ずっとユッくんといたいあたしは、ユッくんの恋を全部とろうとしてるってことだもん。

 ユッくんにききたい、あたしはきゅうくつじゃないかな。

 ユッくんにききたい、あたしにこまったりしてないかな。

 ユッくんにききたい、あたしをイヤになったりしてないかな。

 ききたい、きけない、ききたい、きけない。どうしたらいいの、あたし。あたしの体の

中、パンパンになって弾けちゃいそうだよ。ユッくんのこと考えてると、たまにあたしが

壊れそうになっちゃうよ。

 ユッくん・・・ユッくん・・・。


 目をあけたら保健室にいた、モワーンってイヤな暑さがした。目をあけたってことは、

今まで目をとじてたってこと?なんで、あたし目をとじてたの?

「・・・ミーちゃん?・・・」

 ユッくんの声がした、周りを見たらとなりにユッくんがいた。

「・・・ユッくん、どうしたの?・・・」

 いいから寝てて、ってユッくんにいわれた。あたしはユッくんに言われたとおりに、保

健室のベッドに横になった。

 あたしは水泳部の見学をしてるとき、プールの外で貧血でたおれたみたい。ユッくんが

ドサッって音にきづいて、あたしのいたところにあたしがいなかったからプールの柵をの

りこえて助けにきてくれて、そのまま保健室まであたしをおんぶして運んでくれた。

「・・・ありがとう・・・ごめんね・・・」

 どっちを言ったほうがいいのか迷ったから、どっちもいった。助けてくれてありがとう、

迷惑かけてごめんね。せっかく、ユッくんのおうえんしようと思って行ったのに、ジャマ

しちゃったよ。あたしのバカ、バカ、バカ。

「ユッくん、れんしゅうは?」

 水着姿のまんまであたしを運んでくれたユッくんがジャージ姿だった。

「早退した、ミーちゃんが心配だったから」

 あたしのために早退してくれたの?でも、それって「あたしのため」じゃなくて、「あた

しのせい」なんだよね。あたしのせいで、ユッくんが早退したんだ。あたしがユッくんの

ジャマばっかりしてる、あたしがいるから。あたしがユッくんのとなりにいるから・・・。

 あたしは保健室のベッドの上で涙をながした、くやしくて。どうしたの、ってユッくん

がいってくれた。

「・・・ごめんね、あたしのせいで・・・」

 あたしの声がふるえてた、ヒクヒクいいながら泣いてた。

「いいんだよ、早退ぐらいワケはないんだから」

 そうじゃないの、あたしが泣いてるのは。

「・・・あたしがいると、ユッくんにたくさん迷惑かかっちゃう・・・」

「・・・あたしがユッくんをすきだと、ユッくんのジャマになっちゃう・・・」

「・・・あたしのすきがユッくんをこまらせちゃう・・・」

 今までいわなかった気持ちをユッくんにいった。あたしがユッくんのお荷物になっちゃ

う不安、それでも離れられないもどかしさ。なきながら、ふるえながら、こわくなりなが

ら、いった。


 目をごしごしふいてたら、あたしに何かのっかった。かるくフワッって、あたしのくち

びるにのっかった。目をあけてみたら、ユッくんの顔がすごく近くにある。あたしの目の

すぐそこにユッくんの目がある。あたしのくちびるにユッくんのくちびるがのっかってる。

あたしのふつうのくちびるとユッくんのふつうのくちびる。フルーツの口紅もぬってない、

ただのあたしのくちびる。はじめて、あたしの普通のくちびるとユッくんの普通のくちび

るが合わさってた。味がなくて、へんな感じがした。いつもよりピッタリしてて、ちょっ

ぴりエッチな感じがした。2つのくちびるがさよならすると、あたしはビックリで涙がと

まってた。

「ミーちゃん、だいじょうぶ?」

 だいじょうぶって言いたかったけど言えなかった、かわりにウンってうなずいた。はじ

めて、ユッくんのほうからチュウしてもらった。うれしくて、はずかしくて、たまんなか

った。体の中がドクンドクンなってた、とまんないくらい。これまでいっぱいチュウして

きたのに、ものすごい緊張してる。あたし、こんなにこんなにユッくんが好きなんだ。

「・・・ユッくん・・・」

 ユッくんのとなりにいたいよ、ユッくんを好きでいたい。

「・・・あたしのすき、重くない?・・・」

 おもくないって言って、おねがい。

「うぅん、ミーちゃんのすき、うれしいよ」

 ホントに?あたしに気をつかってるんじゃなくて?

「・・・ユッくんをすきな、他の女の子もいるよ・・・」

 その子たちのほうがユッくんは迷惑かからないんだよ。あたしみたく、お荷物になった

りしないんだよ。

「特別なんだよ、ミーちゃんは」

「1番すきな特別な女の子なんだよ」

 そういって、ユッくんがもう一回チュウしてくれた。温かくて、苦くて、大人の味がす

るチュウ。これまでで1番ながい、30秒のチュウはあたしをあたらしい世界につれてっ

てくれた。あたしのくちびるがユッくんのくちびるとさよならしたくない、って。

 2つのくちびるがはなれると、すごく恥ずかしくなった。体の中のドクンドクンがとま

んなくて、ホッペや耳が真っ赤になった。ガマンできなくなって、あたしは布団をガバッ

ってかぶる。ドクンドクンをおさえようと、胸のところをギュッっておさえる。ユッくん

が心配するといけないから、あたしは独り言をいってた。「ありがとう」「だいじょうぶ」「う

れしい」って、ずっといってた。


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