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第9話


 中学生になったら、ユッくんとおんなじクラスになった。幼稚園からだから、7年ぶり

におんなじクラスだね。ずっとユッくんとおんなじところにいれるよ、うれしいな。ユッ

くんのことみてたら、顔がわらってるってサッチにいわれた。

「ユッくんといっしょだからって、にやけすぎ」

 ユッくん依存症、ってサッチにいわれた。そんなことないよ、前にくらべたら甘えなく

なってきてるもん。おかあさんやサッチがそうやって言うから、気をつけてるもん。

「中学のうちには、ミサコもユッくん立ちしないとね」

「・・ユッくん立ちって、巣立ちってこと?」

 そうよ、ってサッチがいった。なによそれ、ってあたしはおもった。

「親とか子とかならきくけど、ユッくんから巣立つってどういうこと?」

「ユッくんがいなきゃダメ、ってふうにならないようにするってことよ」

 なんでよ、ユッくんがいないといけないのが何でダメなのよ。

「じゃあ、高校も、大学も、その先も、ずっとユッくんのところにいるの?」

「それは・・・」

 言い返したいけど、何もいえなかった。そこまで先のことを考えたりしてなかったから。

ずっとユッくんといたいとは思ってるけど、くわしく考えたりしたことがなかった。

「ミサコはそれがいいかもしれないけど、ユッくんはわからないでしょ?」

 サッチの言ってることはもっともだった。人間は大きくなってくうちにたくさんの出会

いや別れをくりかえしてく。たくさんの恋をして、おなじだけの失恋かマイナスいくつか

の失恋をする。あたしのもってる、そのたくさんの恋は全部ユッくんにあげてもいい。で

も、ユッくんのもってる、そのたくさんの恋をあたしが全部うばっちゃうの?そんな権利

があたしにはあるの?こんなにわがままなあたしに。


 ユッくんは中学生になって、身長がぐんとのびて大人っぽくなった。あたしは中学生に

なっても、身長もあんまりのびないし大人っぽくならなかった。そんなのイヤ、あたしも

ユッくんとおなじに成長がしたい。

 ユッくんのとなりにいれるようになりたいよ。これじゃ、おにいちゃんといもうとみた

いじゃん。あたしとユッくんはベストカップルがいい、そうしないと不安になる。ユッく

んがそのうち、あたしにバイバイって言っちゃうんじゃないかって。

「どうしたの、ミーちゃん?」

 ユッくんの言葉に、あたしは正気にかえった。

「うぅん、なんでもない」

 あたしは笑って、そういった。きょうはユッくんがあたしのお家にきてくれた、4日ぶ

りだね。中学生になってから、ユッくんがあたしの家にくるのは1週間に2回になった。

これまでは1週間に5回ぐらいだったのに、さみしいよ。ユッくんも部活があるからしょ

うがない、あたしはわがままなんか言っちゃいけない。ユッくん立ちはできないけど、ガ

マンくらいしないとね。

「水泳、たのしい?」

 ユッくんは水泳部にはいった、あたしは図書部で、サッチは吹奏楽部。運動をする部活

にははいれなかったから、あたしは図書部をえらんだ。図書室は静かですきだし、本もよ

めるし。

「泳ぐのはたのしいよ、まだ1年だから雑用がおおいけど」

 そうか、運動部はたいへんだね。図書部なんて地味なところには、そんなに先輩とか後

輩とかないからね。

「今度、れんしゅう見に行くね」

 ユッくんがウンってうなずいた、夕日をかぶってあったかい顔になってた。


 きょうはパインのチュウをした、4歳ぐらいから何百回としてきた味のチュウ。ユッく

んが帰ったあと、あたしはこうかいの気持ちになった。あたしのすきって重くないかな、

ってユッくんに聞こうとしてたから。なのに、怖がりのあたしはきけなかった。ウンって

言われたらどうしようって思ったら、聞くのをあきらめてた。


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