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決めるもの

攻撃に専念しろ。


そんな言葉聞いたことなかった。

今までの作戦。誰か先輩の後ろで見てろ、というような作戦が多く、ちょっとした練習でも前に出ていって、戦うなんてことはしなかった。

「どういうことですか?」

「前回の試合、柊は俺らが一切知らない能力を会場の全員に見せた。そのとき、観客席から聞こえてきた言葉は


なぜこれまであの能力を使わなかったのか。


という言葉のみだった。今柊が使っている能力は前回見せたものとは全く別物、つまりは次元を越えた力を持つような能力だった」

「でもそれと何の関係が・・・」

「昔、戦場という生きるか死ぬかの場所で持てる力を使わないというのは観客に失礼に当たると誰かさんが言ってしまったせいだ。観客、いわばそれを見る俺らと同じ能力者や、それを見て成績をつける監督や教師。・・・何が言いたいか、わかるか?」

俺は一つ、入学時に渡された誰宛か書いてない小さな手紙の中に書かれた一文の初めを思い出した。


最後、ここでの君の存在の有無を告げるのは・・・


今まで何も考えず、生きることだけを祈り戦ってきたが、どう世界が変わろうとここは『学校』だ。

俺の思う学校とは命懸けで物理的に戦うものではないが。

「わかってるようだな、それではまた朝のホームルームで」

オルガは静かに学校方面へ消えていった。

俺はその背中を追うことはできず、その場に立ったままだった。


俺らの『価値』とは・・・


決勝戦の朝。

俺は決勝戦の行われるスタジアムの控え室にいた。

対戦ルールは特別で、ここまで勝ち上がってきた三つのチームが自分の陣地に置かれた、チームの証が書かれた石像を相手チームに壊されないように守るというものだ。

ただこれまでと一つ違うところがある。それは・・・

オルガが部屋に来ていないということだ。

「遅い!あいつは何をやってんだ!」

キラは怒りで横にあったゴミ箱を蹴り飛ばす。ゴミは宙を舞い、あちらこちらに散乱する。

「キラ、落ち着け。確かにトイレにしては長いし、リアと話してるのかと思えばここにリアはいる・・・。何かあったのか?」

雷帝は顎を触る。

「あいつに限ってまさか他チームに捕まったとか、殺されたとかない・・・よな」

「何が理由だとしても遅い!残り五分だぞ」

リアはさっきからオルガの携帯に電話を掛けているのだが反応が無く、切れてしまう。

一つ気になるのはいつもオルガが座っている場所にオルガの使う武器の一つの刀が置いてあるということだ。もしもどこかへ行くというのなら刀は持っていくだろう。

「とにかく今から探してて戦闘に遅れたりしたらいけない。ルナ、オルガの代わりに戦闘を頼む」

「はい!」


そのとき、オルガは暗い部屋に閉じ込められていた。両足と両手を後ろで縛られ、武器はほぼ盗まれ、頭の傷からは血が流れていた。

「お前ら、こんなことしていいと思ってるのか」

「何をしても勝つ。それが俺たちの戦い方だ」

オルガの目の先にはウサギの被り物をした男がオルガの頭に銃口を向けていた。

「お前はここでやつらの死に顔でも観てるんだな」

男は低い声で笑うと、部屋から出ていった。

「すまない・・・」

オルガはただ画面に映る三チームのメンバーを見るしかなかった。


「あのー、一つ気になったんですけど」

ルナが四津野に問いかける。

戦場に出て、少し時間が経った。どうやら対戦相手のチームZが全員揃っていないらしい。

「チームZってなんでウサギの被り物をしてるんですか?」

「言うと彼らの風習的なやつだ。昔から彼らは何かしら被り物をして戦場に出てくるんだ。去年は・・・狼だっけな」

「あんなの被って戦いづらくないんですかね」

「それなりに彼らは強いから、噂ではエンターテイメントとかじゃなく、他チームへのハンデとか聞いたことがある」

チームZの被っているウサギは一つ一つが異なる格好や色をしている。縫いぐるみのような可愛いものから本物のウサギのようなもの。耳にピアスをつけているものもあった。

リーダーと思われる人物のウサギには目の下に『LEADER』と赤い字で書かれていた。

武器はそれぞれ剣や銃を持っていて、服装は動きにくそうな黒いスーツを着ていた。

「さっきからチームZのことばっかり話してるけど、それとは違うやつらの方を考えろよ」

近くに置かれたモニターの画面にはもう一つの対戦相手、チームBの姿が映っていた。

「前にも話した通り、チームBはチームAの次に強者共の集まりだ。特に今回のリーダーは危険だ。チームBリーダー、ユキムラ。彼の能力は『幻覚による精神の破滅』。その名の通り、相手に幻覚を見せて倒すという物だ」

「俺らはそれを受けたことないから何も言えないがな。確か最後に奴が出た試合は何ヵ月前だっけな」

「確か私が最後に観たやつだと五ヶ月前ね。戦った相手は倒れたかと思ったら白目をむいて気絶していたっけな。それに顔からは大量の汗と涙で気持ち悪いことになってたね」

「こ、怖いですね・・・」

ルナはその状況を想像してしまい、身を震えながら彼の強さに怯えていた。

「まぁ今日はあいつがいねぇし、どんなに相手をぐちゃぐちゃにしてもいいよな?」

キラは心を奮い立たせ、思わず近くに置かれた大きな岩を蹴り壊す。

「あまりグロい感じにしないでね。後始末が面倒だから」

四津野は剣を前に構える。

「俺はここでこいつ守りながら、酒でも飲んでりゃいいだろ?最近戦ってばかりだし、たまには休息もな」

雷帝はどこから持ってきたのか酒の入った瓶を石像の近くに置く。

時計の針は戦闘開始の時間を指し、時計盤の下に置かれた大きな鐘はその大きさに見あった音を、俺らが立つ戦場に響かせる。

俺たちが始まりに心を奮い立たせる中


ウサギ達は着々と任務を遂行していた・・・


「なぁ・・・こいつ・・・」

「気づいたか、お前も・・・」

「「一ミリも傷跡が無い・・・」」

暗い部屋の入り口部分には牢屋のような鉄格子がついておりそこには銃口が入るくらいの穴が無数に開いていた。そしてそこから何人かがオルガ目掛けて鉛玉を撃ち込んでいた。

しかし、オルガにできた傷跡はすぐに回復して消えてしまうではないか・・・。

「なるほど・・・噂は本当だったか」

銃を撃つ人達に命令をする筋肉質な男は他の奴等とは違いウサギの被り物をしていない。その男はオルガを見て一言呟くと笑った。

「もっと撃て!そいつはたぶんゾンビだ!みんなやったことあるだろう?ゲーム内でゾンビを銃で撃ち殺すゲームをな。それと同じ感覚でこいつを殺せ!少し治癒力があるが関係ない。撃って撃って撃ちまくれ!」

「カツラ~どうかな~その選択は」

命令する『カツラ』と呼ばれた男の影から現れるように後ろから出てきた小柄な男は可愛いウサギの被り物を外すとくすりと笑う。

「なんだ、羽島。その俺の命令を否定するような態度は!そして俺はカシラだ。カ・シ・ラ!」

カシラは左手で羽島の胸ぐらを掴み、カシラの肩の部分まで持ち上げると、右手で拳を作る。だが、拳はカシラの思い通りには動かない。

「僕の能力、わかってるよね?筋肉を自在に操る能力さ。それは相手の筋肉をも動かす」

右拳がほどけると同時に左手も力を失い、羽島は下に落ちる。

カシラはそれを見て舌打ちをすると、部下に「続けろ」と言い部屋から出ていった。


鐘が鳴って十分が経った。ここらへんで動きがあるとリアが言っていたが、全然反応がない。

オルガの作戦通り、石像の破壊するために前に出た俺と四津野とキラは壊れかけたビルの上から辺りを見渡す。

今回の戦場は『戦争により崩壊した街』という名で周りの建物は半壊し、中には今にも崩れそうなビルも存在していた。今俺たちが見渡すために登ったビルの階段も一部、無い部分が存在したり、床に穴が開いてたりして、登るのに一苦労した部分もあった。

「しかし本当に静かだな。特にチームZは開始早々『イッツ、ショー、タイム!』とか言ってロケランでもぶっぱなしそうなのにな」

「さすがに今回は決勝だし、冷静に行くんじゃないの?」

先輩方が話しているなか、静寂を保たれた空気を何かが揺らすのを俺は気づいた。

かすかに聞こえるエンジン音と口笛・・・奇妙だ。

「四津野さん!キラさん!北東の方角から何かエンジンのような音が、あと口笛も」

「何だそりゃ。エンジン音なんてこの戦場にバイクを持ち込むのは違法だし、口笛なんて吹いてたらすぐに・・・!」

エンジン音はどんどん大きくなり、気がつくとすぐ下を大きなバイクが二台、通り過ぎていった。

「あとを追うぞ!」

キラはそう言うと、高いビルから飛び降り、綺麗に着地した。

俺は四津野に服を捕まれると、そのまま下に下ろされた。

「ナイス、柊。よくわかったわね」

「いや、それほどでも・・・」

あの日以来、獣耳は無くなったが耳は良くなった。同時に鼻もだ。まるで犬が少しの物音や臭いに敏感であるかのように・・・

「どうやら、バイクは止めたみたいね」

遠くから爆発音が聞こえ、黒煙と赤い火が見えた。どうやら目の前を通ったバイクをキラが壊したらしい。・・・走ってよく追い付いたな。

「ナイス、キラ!」

「あぁ、だが・・・」

キラはバイクに乗っていた人を止めたらしいが、その物体は生きていない『人形』のようなものだった。

「人形?なぜ人形がバイクを・・・」

「一瞬、こいつからうっすらとだが、ワイヤーのような細い何かが見えた。たぶんあいつだな」

キラはそう言うと、バイクが現れた方向を見た。

「おやおや、もう見つかってしまいましたか・・・」

そこには両肩に片目がなく、髪や服がボロボロな女の子の人形を乗せた顔中に縫い目のあるウサギがこちらを見ていた。

「お前くらいだ。人形を使って気持ち悪いことをするやつはな、アリスよぉ」

「面白くないですねぇ。私のショーは今からですのに」

「ショー?そんなつまらないもの俺が消し潰してやる」

キラは手のひらに闇の炎を凝縮すると、アリスに向けて投げる。その弾はアリスの肩に置かれた人形から出たバリアのような物で跳ね返された。

「私たちのリーダーは最高のショーの開幕の準備をしているため不在だ、あのリーダーのマスクの中はなんでしょうねぇ」

アリスはクスリと笑い、ワイヤーを高めのビルのアンテナに巻き、できたワイヤーの道を歩いていった。

「追いかけないんですか?」

俺の問いかけにキラは首を横に振る。

「・・・最高のショーとはいったい」

「今は前に進むのが得策だろう。それに雷帝がいるんだしよ」

キラはそう言い、前を見た。

「次から次へと・・・鬱陶しい!」

キラはため息をつくと、左手の平を前に出し、どす黒いレーザーを放つ。すると何かに当たり、レーザーは真上へ跳ねた。

「いやぁ影から行けば、ばれないかなーなんて思ってたけどさ。そうそううまくいかないよね」

物陰から現れたのは両手にその背丈を越える程の大きさの盾を持ち、ニコニコと笑う男だった。彼の服の胸ポケットには大きく『B』と書いてある。

「チームBか」

「yes!僕の名はニコ、チームの防衛班をやってますー」

そう言うと、俺ら目掛けてその盾を前にかまえ、突っ込んできた。

盾の表面には大きなトゲがたくさんあり、良く見ると血のようなものが垂れていた。

四津野は盾の上を飛び越えると、ニコの首に剣を突きつけた。

「これ以上やるとその笑顔が消えるぞ」

「人間、笑顔が一番。まぁ僕は」

その瞬間、ニコの首が百八十度回り、四津野を見た。

「ロボットですけどね」

そして口から赤い炎を吐く。

四津野はそれを紙一重で避けるが、後ろ蹴りが四津野の腹に入る。

「どうですか?痛かったですか?」

「効いたよ。意外だわ・・・でも、そっちの方が痛いでしょ?」

気付いたときには四津野の手に剣は消え、ニコの腹に刺さっていた。

「oh・・・これは痛いですね」

ニコは剣を抜くと、傷口を手でおさえる。

「これは響き・・・ます・・・ね・・・ねねねねねねねねねね・・・」

そして次の瞬間、膝をつき、電源が消えてしまった。

「・・・この調子でいきましょう」

四津野はニコの身体から剣を抜くと、ニコの来た方向へ走っていった。俺とキラはニコを見ると、四津野の後を追いかけた。

このときニコの消えたはずの目の光が、もう一度光り始めたことは誰も知らない。


そして牢屋にいたオルガは銃弾の雨を浴びるなか、昔のことを思い出していた。

オルガがキラに会ったときの話を・・・


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