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赤狼の血

その先にいた赤い毛の狼は俺を見ると、遠吠えをする。

「よくここまで来た、柊 海都よ」

「あなたはいったい・・・」

「俺の名は普通に赤狼とでも呼べ。突然だが、今お前がいるところはどこだと思う?」

「どこですか?」

周りを見るが、何も変わらず辺りは暗く、前に狼がいるだけでわからない。

俺はここまで来た道を考えた。

確かあの方向に歩くと・・・

俺の頭の中の地図には『立ち入り禁止区域』と書かれていた。

立ち入り禁止区域とはその名の通り、生徒は立ち入り禁止で普段は校長しか入れないところだ。中は誰も知らず、知ったものは死ぬという噂だ。

俺はとりあえず赤狼の質問に答える。

「なるほど。もっと詳しく教えてあげようか」

赤狼は童話『三びきの子豚』の中で家を飛ばしたときのように息を一吹きする。

すると闇は晴れ、そこには

大量の死体が無惨な姿で散らばっていた。

腕や足がとれたものなんてまだ良い方だ。中には内臓が出たものや、蜂の巣になっているものなどがあり、まるでそこは『残酷』を表現したような景色になっていた。そしてどの死体も首から上が無かった。

やはりここまできたときに足元でなっていた音は俺がこの上を通り、死体の骨が折れる音だった。

「これを見てどう思う?」

「何も言えない・・・」

「まぁいきなり死体の山を見せられたら、口も開かないだろうな。この世界は屍の上になりたっている。人の死があっての世界、俺はそう考えている」

「死あっての・・・世界」

赤狼が俺に何かを伝えようとしているのはわかった。だが頭に入ってこない。

「この前の試合でお前に力を授けた。だが、その力は凶暴で残酷だ。お前みたいな殺すこと、死ぬことに躊躇する人間が使うにはとても無意味だ。そこで俺はお前をここにつれてきた」

「・・・躊躇ですか。・・・人を殺すことを強いられている力ならそんなもの無くてもいい!」

「それが答えか?・・・だが、もう手遅れだ。あの日、お前はたくさんの人を殺し、たくさんの血を浴びた。その血は今日、お前の体内を流れ、この力を強めている」

「・・・俺はどうすれば」

「罪という実は一度熟すと腐ることはない。ならその実を木からもぎ取るしかないだろ?」

「能力を消すってことか?」

「そう解釈したならそれでいい。とりあえず今はここから外に出ろ。何かが近づいている、強大な何かが」

赤狼はそう言うと、目の前から消えてしまった。

俺は赤狼の言う通り、縄梯子を上り外へ出た。

辺りは暗く、空には月が上っていた。そして月明かり照らすその先には、スーツを着た男がこちらを懐中電灯で照らしていた。



その頃、前に雷帝と荒波が争った酒場では、また雷帝が酒を飲んでいた。酔ってテーブルに突っ伏した雷帝の横には話し相手をしていた店員が座っていた。

その店員にはマスターから「雷帝が来店したときは近くで話を聞いてやってくれ」と命令されているため、何があっても雷帝がいる以上はその場から動くことはできない。

「今日はあの荒・・・なんたらがいなくていいな」

「また暴れられたら困りますからね。確か、荒波とか言ってましたね」

「あぁ。どうやらあいつはRBに雇われているらしいぜ。まぁ俺は聞いたことないがなぁ」

「雷帝さんの奥義を避けるとは・・・なかなかの反射神経ですね」

「それにあの剣、普通の人間が使えるものではなかった。たぶんあいつは能力者か何かだぜ、きっとな」

雷帝はまた追加する。店員はそれをマスターに言う。

「あいつ・・・何なんだぜ」



懐中電灯を持つ男は俺の顔を見ると、懐中電灯を下に落とし、どこからか小さな筒を取り出した。

筒についたスイッチを押すと、まるで映画やアニメの世界でみるような光で作られた刃が現れた。

「ここで何をしている?」

「すみません。迷い混んじゃって・・・ははは、」

「そんな理由が通じるか。ここは立ち入り禁止区域だ。生徒の立ち入りを禁ず。そこから出ろ」

俺はとりあえず指示に従う。

(おい、柊。聞こえるか?)

「はい、聞こえます」

「何を言っている?早く出ろ」

その声は空気を震動し耳に入るものではなく、頭の中に直接呼び掛けているものだと気づいた。

(誰ですか?)

俺もそれに答えるように、頭のなかで思う。

(俺は赤狼だ。良く聞け、この先にはここに入ったものを確実に始末するための罠が張り巡らされている。そこで道にお前が来たとき同様に赤い線を地面に記す。そこを進め)

その声が消えると、目の前に赤い線が現れた。

俺はその線からはみ出さないように一歩一歩踏み出す。その道は思った以上に曲がっており、目の前の男から見ると不可解な動きをしていると思われるだろう。現にさっきから俺に

「何をしている?何でそんな動きをするんだ?」

等と問われている。

俺は立ち入り禁止区域から出ると剣をかまえた男の方を見た。男は剣をかまえるのをやめない。

「ようやく来たか。君はここで処罰しなければならない。関係者以外が知ってはならぬことを知ってしまったみたいだからな」

(今こそお前の力を使うべきだ。心に"殺"の一文字を念じろ)


俺は赤狼を信じることにした。

さっきまでの心はもうここにない!

今は相手を倒すことだけを考える!


するとあの日、俺がテレビで見た俺の姿へと体が変わった。

長い爪と長い尾。そして体の奥底から湧き出る力。

これなら戦える!

「それがお前の能力か、面白そうだ。前に戦ったときよりは楽しめそうだな」

男は剣を一振りすると、俺を見た。

そのときにはもう遅い。俺はその瞬間を見て、その場から飛び出した。

男は剣で俺の手の甲から平行に生えた爪の攻撃を紙一重で避けると、俺の腕を切り落とそうと剣を振り下ろした。だが、その攻撃も空を切る。

「獣人・・・やはり早いな。運動神経が人間の比にならないな。こちらも本気で行くか」

男はもう一本剣を握ると一瞬で俺の近くまで移動した。斬撃は俺の脇腹と腕をかすめる。

(柊。俺は逃げたくないが、ここはヤバイな。ひとまず退散だ。さすがにまだ力が出しきれていない)

俺は赤狼の言葉を聞き、その場から逃げることにした。

逃げるが勝ちって言葉もあるしな・・・

(諦め文句だな・・・)


寮に帰るとルナが心配そうに迎えた。

そして座った俺の頬をビンタした。

「こんな時間までどこにいってたんですか!みんな心配して探してたんですよ!あのオルガさんまでもが」

「ごめん・・・なさい」

「とりあえず着替えて。・・・何か血の臭いがするわね・・・プフッ」

突然、ルナは笑い始めた。さっきまでの真剣な顔をほぐすと一気に満面の笑みを作る。

「どうしたんだよ、いきなり。俺の顔に何かついてるのか?」

「いや、顔じゃなくて頭」

俺は頭をさわる。

「そこじゃなくてもっと上、もっと上、そこそこ」

俺はルナの指示通り、どんどん上に行き、そして何か三角のフサフサした物に気づいた。

ルナは俺の顔をみると、手鏡を持ってきて俺の頭を見せた。

そこには犬みたいな耳がチョコンと生えていた。

これも赤狼のせいなのか俺は赤狼に聞く。

(まぁ、そんな感じだな。・・・可愛いぞ)

こんなのいらねぇよ!何であの長い爪と三本の尾はあんなカッコいい感じだったのに。

その後は黙ったままで声一つ聞こえなくなってしまった。

「ねぇ、ちょっと触らせてください。どんな感じなんですか」

「ちょ、やめろ!やめてくれーーー!」


「で、その耳はその能力の後遺症ってことですか?」

俺はルナに全部話した。これまでどこに行っていたかから、能力のことなど・・・

「また可愛いものを習得しましたね」

「いや、耳が能力じゃないから。つーか自分で後遺症って言ったよな?」

「で、明日はどうするんですか?雷帝さんに見つかったら」

「そんなことわかってるよ」

俺は三角の耳を触ると、根本の方を確かめる。耳は完全に頭から生えている。コスプレなどである猫耳つきカチューシャのようなものではないというのは確定した。さらにルナから聞いたところ、血がかよっているようだ。

何とかして取れないだろうかと思い、ルナに引っ張ってもらうがまるで髪の毛をまとめて全て抜かれるような激痛が足の指先まではしる。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!やめろ!」

俺はルナの腕を叩く。

「何すんだよ!」

「いやー、抜けるかなって」

「たぶんこの耳はもう体の一部なんだよ。そんな力付くで抜けたらとっくに抜いてるわ!」

「千歳さんのところにでも行って見てもらう?」

「外に出るのが辛い」

「ニートですか?」

「いや、もしも見られたりしたら」

「・・・かわいいのに」


ルナの一言にデコピンを撃った後、俺らは夜遅くに千歳のところへ行った。

千歳は何をしているのか行ったときには起きていた。

「スランプなのね・・・。ネタが一ミリも思い浮かばないのね・・・」

「今日はちょっと悩み事で」

「どういった悩み?・・・できちゃった?」

「違います。これです」

俺は頭に生えた耳を見せる。

「もしかして柊君って獣人族?」

「いや、普通の人間だと」

「あり得ない、あり得ない。その耳は確かに獣人族狼科のものだ」

千歳はそう断言すると俺の耳をさわり始めた。

「こんな立派なもの、前来たときにはあったっけ?それに前に君について占ったとき、獣人族なんて出なかったけどなー。まぁ例外はよくあるし、チームAのアキネを調べたときなんか『error』って出たくらいだからさ。獣人族のことなら私がちょっと前に資料で集めた物があるから貸すよ」

千歳は器用に字を操ると、本棚から一冊の本を取って俺に渡した。その厚さは辞書のようで他の資料とは桁違いだった。

「まぁ自分の能力を知るのも勉強の一つ。知ればさらに戦略の幅が増えるよ。今日はもう遅いから寝なさい」

千歳は大量の文字で作られた手で俺らを握ると、玄関から外へ投げ出した。


次の日、俺はいつものカバンに資料をしまうと部屋を出た。

耳は帽子をかぶり隠した。それでもまだ帽子には耳の形が少しはみ出ている。

途中で朝飯を食べながら歩くキラの姿を見る。

俺は帽子をかぶり直すとその近くを通る。

「柊、おはよう!」

やはり無言で通れるわけない。俺も挨拶した。

「今日は自由訓練だ。どこで何してもいいけど、くれぐれも外出してリアに見つかんなよ?」

「まず外出しないですよ。キラさんじゃあるまいし」

「ん?そういや、その帽子は何だ?」

やはりそこを見てしまうのだろう。

今日は朝から曇天で帽子を被るような天気ではないため、疑問に思うこともあるだろう。

「・・・ファッションですよ。ちょっとはそういうのもね」

「どうせ、お前のことだからそんな帽子被ってるとまたアキネに弄ばれるぜ」

「言い方に悪意を感じる・・・」

「それじゃ、そのスピードで遅れんなよ」

キラはそう言うと、横のレンガの壁を飛び越え、人の敷地内に侵入し、そこから一直線に学校へ向かった。

「何とかバレなかったな・・・」

俺は額の汗をハンカチで拭き取ると前を見る。

話していたため、周りの景色にあまり目を向けることはなかったが、いつも学校に通うときに見かける甲冑を見に纏った騎士の銅像が目に入ってきた。

そしてその下にはオルガがいる。

「おはようございます」

「おはよう、どうした?その帽子は」

「まぁ・・・色々と」

「まぁ話したくないならいい。今日はこれからの決勝についての話をする。今回は


柊を攻撃に専念しろ


「・・・はい?」



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