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期待

実況は今回から無くなった。

省略する。

その言葉にコガは静かに涙を流した。


戦場に立った柊はまず、辺りを見渡し、動線を作る。

今回の戦場はまるで迷路のような場で指揮が鍵となる。今回の戦場を知り、緊急で指揮のルナとオルガが交換することになった。

迷路をつくる壁は紙のように白く、普通のジャンプではまず越すことのできない高さと普通の攻撃ではまず壊れない強度を誇っていた。

開始三十秒前、目の前の曲がり角から「カツン、カツン」と何か音が聞こえるのがわかった。俺はすぐに戦闘のかまえにはいる。その音は次第に大きくなり、戦闘開始のサイレンがなったときにはその音源が俺の前に現れていた。

髪を後ろで一つに縛り、チームF特有のどこかの制服姿に包み、普通は戦場で履くことのないようなハイヒールを履いた千歳がそこには存在した。

「こんにちは、柊君」

「・・・似合わない格好してますね」

思わず本音が口から飛び出す。

「まぁ仕方ないよ。今日は少しお洒落にって占いに出たから」

千歳は胸ポケットからタロットカードを取り出すと、空中にばらまいた。


「柊、逃げろ!」


耳にオルガの声が入った。

次の瞬間、タロットカードの中心から銃弾のような物質が放たれ、壁や地面に穴を開けた。

俺は声をすぐに聞き、逃げたため被害はなかったが、壁や地面の穴を見た感じ、強いことを確信した。

「ありゃ、避けられたか。これで倒してあげようって思ったのに・・・これは長引きそうだね」

俺は逃げたくなかったがさすがに殺されると思い、その場から逃げ出した。

「前に字には命が宿るって言ったよね?それを物理的にしてあげるよ」

千歳はタロットカードに何か字を書くとこちらに向けて投げた。縦に回転しながら一直線に飛んだカードは壁に当たると煙を出した。

そしてその煙の中から二人のメイドが現れた。

「お呼びですか、千歳様」

「二人とも彼を捕まえて」

「かしこまりました」

メイドは静かにお辞儀すると俺に向けて体当たりをしてきた。それはまるで鉄球をもろに体で受けたような威力だった。

「これが私の戦い方・・・今のね」

俺は今の言葉とこれまでの動きからあることがわかった。それは・・・

「千歳さん、腕以外にも足にも大きなケガがあるんですよね?」

『戦場の舞姫』その名に似つかわしくない、その場から動かないで放つカードや、動かなくても攻撃してくれるメイドたち。それを見てすぐに、話に聞いてなかった足のケガがわかった。

「舞姫らしく舞ってくださいよ。俺も昔の千歳さんの姿みたいです。観客も千歳さんの復帰に感激し、昔の姿をみたいと期待しているはずです」

「う、うるさい!・・・無理なものは無理なんだ」

千歳はそう言い、左膝を撫でた。

「感激?期待?・・・それに応えられるほど私の体は強くないんだ。今だってこうやって戦えるのは奇跡と言っても過言ではない。腕?膝?痛いよ!いつかあのときみたいにちぎれるんじゃないかって!」

千歳は着ていた制服の上を脱ぎ、ワイシャツ姿になると右腕を見せた。そこには未だに深い傷痕が残り、短いスカートから見える膝には縦に縫った跡が残っていた。

「こんな体で戦える?・・・無理よ」

「じゃあ、何でここに・・・」

「全部雷帝のせいよ・・・彼の言葉に私の心は動いたの


『彼はお前の戦っている美しい姿に惚れたんじゃないか』


この言葉に私は戦わなければならないと思ったの。仲間や観客に見せるのではない。天国にいる彼に見せるために」


パチンッ!


響き渡る何かを叩く音。

俺の目の前には雷帝がいた。そして雷帝は千歳の頬に一発、ビンタをしていた。

「何言ってんだよ・・・彼に見せる?」

千歳は起き上がる。そして倒れたとき勢いよく床にぶつけた膝を撫でた。

雷帝は追撃をするかのように千歳の胸ぐらを掴み、持ち上げる。

「今のお前の戦っている姿を見て、あいつは何て言うと思う!天国にいるあいつは絶対「無理をするな!」って言うはずだ!頬を染める前に涙を流す。それも悔しい気持ちで」

「無理をしてでも私の姿を彼に見せたいんだ!この心の鼓動は誰にも止められない!」

「あいつには秘密にしろと言われていたが、あいつは・・・カイトは死ぬ前、俺に言ったんだ。


『もしも千歳がケガをして、それでも無理をするようなことがあったら彼女を止めてくれ。彼女は案外我慢強いんだ・・・』


って。だから俺はお前を止めた。そして今こうやって時間が過ぎていく。これ以上戦っても、今のお前じゃ柊にも勝てない・・・。メイド、カード、万年筆。何を使ってもな」

「流石に俺じゃ・・・」

俺は千歳を見た。

さっきまでの勢いは消え、左膝をただ撫でることしかできない千歳の姿がそこにはあった。

「・・・それでも諦めるのか」

雷帝がたずねる。

「・・・はい。俺は傷ついた人に力を出すほど冷酷じゃありませんから」

雷帝は俺の言葉に呆れた顔を作った。

「その気持ち、本当の戦場では忘れろ。今は大切に心に保管しておけ」

雷帝は全身に電気を帯びると、壁を跳び越えていった。

「・・・もういいよ。私の負け」

千歳は雷帝が消えたのを確認すると俺にそう言った。

「雷帝の言うことはいつも正解だ。あきらめ」

「情けねぇな、人間はよ!」

千歳があきらめると言おうとしたときだった。壁の上から大きな声が俺らの耳に入ってきた。そこには黒い羽が生えた絵で描いた悪魔が立っていた。

悪魔は壁から飛び降り地面に着地すると、千歳を蹴り飛ばした。

「チームO、マーリンの件はどーも。俺の名はレイン、キラとマーリンの先輩にあたる悪魔です。よろしく」

「何てことを・・・お前は千歳の仲間じゃねぇのかよ!」

「あれが仲間か。笑えるねぇ・・・」

レインは不気味な笑いをすると、一瞬で俺の前に現れた。

「所詮、人間なんて下等民族は俺らの食い物、お前らで言う牛や豚といった物にすぎねぇよ!」

レインは俺の服を持つとそのまま垂直に飛び、壁に叩きつけた。

「・・・案外強いね。普通なら痛いって泣き叫ぶだろう?」

全身が痛いのはわかっている。声に出せない痛さ、メイドたちの体当たりもあるのかさらに体が痛みを増す。反撃できない・・・

「やっぱり反撃なんて無理か。二人揃ってあきらめな!」

レインの笑いを聞いたとき、


ドクンッ!


心に何かを感じた。

あの日と同じ、全身を駆け巡る何かが・・・。

殺意?闘志?・・・全く理解できない物。

次の瞬間、俺は気を失った。




目が覚めると、周囲の壁には赤い液体が付着し、俺の目線の先には全身に赤い液体がかかったレインの姿があった。

あのときのように、俺にも同じような赤い液体が服に付着し、両手の甲の皮が剥け、爪が剥がれかけていた。

「これは・・・いったい」

「やっぱり思った通りだ」

後ろで千歳が呟く。千歳は足を引きずりながら近寄ってきた。一歩出る度に痛みが走るのか片目を閉じていた。

「能力を見たときから知ってたよ、君の心のなかに眠る能力をね」

「千歳さん、俺はいったい何をしたんですか?」

「やっぱり覚えてないか・・・。それほどに脳も疲れるのか」

千歳は何かを知ったような態度をとると、俺が気を失っている間に起こった出来事を事細かく説明した。



「獣になった・・・ですか?」

「ええ。」

千歳の話によると、どうやら俺が気を失っていたとき、俺の体には異変が起き、手の甲から長い爪のようなものと尻から長い尻尾のようなものが三本生え、そしてすごい早さで地上、空中、壁を移動し、レインを完全に翻弄して殴り倒したらしい。

「そんなことが・・・」

「まぁ命名するなら獣の魂、ビーストソウルとでも名付けよう」

「獣の・・・魂。・・・かっこいいですね!」

俺は小学生のような気持ちでかっこいいと言った。

俺の、俺自身の能力。キラからのでもなく、誰から教えてもらったものではない。自分自身が生み出した能力を持ったことに感激した。


戦闘が終了した。俺がレインを倒したのが大きかったのか、チームFの四人が戦闘不能、千歳が降参ということで、俺らチームAが決勝戦へ進出した。


教室に戻ると、オルガが一人で待っていた。

「オルガさんはまだ帰らないんですか?俺は帰りますけど・・・」

「柊。千歳から話は聞いた」

どこか冷たい空気が教室を通る。オルガは本を閉じると、俺を睨んだ。

「能力が無事、開花したらしいな。明日からの訓練はその能力発動中の精神の維持と、基礎体力を鍛えろ。レインと戦っている間の記憶が無いということは精神がなく、完全に無意識で戦っていたということになる。言わば、身体が能力に操られていたということだ」

オルガは机の中から教科書とノートを持つと、俺に一枚の紙を渡した。そこには明日の訓練のメニューがぎっしりと書かれていた。

「さすがにこの練習量は」

「俺らはそれを昔からくり返してきた。やらなければ弱くなる、そう考えてな」

オルガはそう言い、教室から出ていった。

俺は冷たくなった教室で一人残された。



オルガが学校から出ると、校門の横にキラが立っていた。

「おい、待てよ」

「何のようだ」

「さっきの会話、聞いてたけどよ」

「盗み聞きとは罪深いな」

「あ?・・・んなこといいんだよ。お前、さすがにあれはハードすぎないか?俺らだってあんなにはしなかったぞ」

オルガは鞄から本を取り出すと、栞の挟んである場所を開き、読み始めた。

「それに今の柊にあれは無茶すぎる。今回の試合、壁の上から見ていたが、能力のランク的にはS、SSは確実に越えていた。俺の『闇』は所詮、B程度。まだ負担は少ないが、いきなりS以上のランクを持つ能力発動中の精神の維持は不可能だ」

キラはオルガを説得するが、顔色一つ変えず、声一つ出さず、本を読んでいても必ず論破するが今日はしないオルガをキラは奇妙に思った。

「何も言えねぇのか。それとも言いたくないのか?」

「・・・どちらかというと二つ目だ。俺も彼に渡したメニューは後々失敗だったと思ったよ。今読んでいた本のなかに、こんな言葉が出てきた


自分にできないことを相手に任せるのは、自分より相手の方が才能を持っていると言っている一つの証拠だ


・・・その通りかもな」

「まぁ天性の才能ってのか。確かに彼が入学してきたときに思ったよ。良い人材が入っていた、ってな。お前も思ったから、厳しい態度を取ったんだろ?」

オルガは読んでいた本を閉じるとキラを見た。

「正解だ。出る杭は打たないといけないからな」

「器の小さいやつだってのはわかってたけど、本当に小さいな」

キラは思わず笑ってしまう。

「小さい頃、先生から教えてもらったことがある。

人間は欲深く、そして人を裏で憎むとな」

「それは悪魔も同じだろ」

「悪魔ってのは案外単純だ。俺のいた国は本当に力が全て、弱者は強者に殺されるような物騒な国だったよ。俺はその国を守りながらも、その国をいつも嫌に思っていた。ちょっと昔の話を話しても良いか?」

「問題ないが」

キラは星が映り始めたばかりの空を見ると話始めた。



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