手加減VS本気
この二人は俺が止める!
そう言ったキラはマーリンに向かっていく。そして突進してきたマーリンをマタドールのようにひらりと避けると、マーリンの無防備な左腕を持ち、軽くひねった。マーリンの左腕は突進の勢いで付け根部分から引きちぎれる。
「腕、抜けたぜ」
「あぁ、それくらい何とでもなるよ」
マーリンの左肩から出た糸のようなものでキラの投げた左腕を掴み、付け根部分にはめ込まれた。
「悪魔の体はすぐに回復する。特に僕の細胞は治癒にたけている。つまり、完全に僕を戦闘不能にするとしたら」
「長ったらしい説明なんていらねぇよ」
キラは説明を割愛するようにマーリンの喉元に蹴りを入れた。そしてバク転してもとの場所に戻る。
やはりマーリンにダメージはない。
「やっぱりキラは待つということを知らないらしい。説明くらいは聞こうよ、なァァァァァァ!」
マーリンは次々と槍で攻撃するが、キラは紙一重で避け続け、一瞬の隙をついて足払いをする。
「キィィィィィラァァァァァ!これ以上、動くんじゃねェェェェェ!」
マーリンは受け身をとり起き上がると、大量の槍をキラに向けて放つ。今度は一本もキラに当たらず、空気からキラを型どるようにキラの真横を通った。
「ついにコントロールまで失ったか?」
マーリンは返事ができず、息があがっている。
「まぁお前の力だとこれが限界か。人間は無意識で体に負担をかけないように力を制御する、何て言ったか知らんがな。逆に悪魔は何も考えずに力を使うため今のお前みたいな状態が起こる」
マーリンはこちらを睨むと槍を捨て、キラ目掛けて突っ込んできた。だが、キラはまた紙一重で避けたためその勢いで後ろの建物の壁に激突する。
「だから・・・こうなる」
「キィィィィィラァァァァァ!」
マーリンは絶えず、壁の残骸から出た煙からまた勢い良く飛び出す。そして槍を拾い上げるとキラに向けておもいっきり投げつける。
「マーリン。もう戦わなくていい」
槍の投げた方向にはキラの姿はない。どうやらマーリンは完全に幻覚を見ていたようだ。
「キ・・・・・・ラ・・・・・・」
マーリンは弱々しい声で叫ぶ。その声からはさっきまでの威力は感じない。
そしてマーリンはその体を元の姿に変化させながら静かに倒れた。
ブルは何もせず、ただ棒立ちで見守る一方だった。
あのあとキラはマーリンが入院した病院の病室に行った。そこには額に湿布を貼り横になるマーリンの姿があった。
「僕って・・・本当にバカだな」
「何がだ?」
「僕はキラが裏切ったことに腹をたて、キラではなくキラの仲間に手を出した」
「・・・お前はバカなんかじゃねぇよ。むしろそんなことは普通だ。俺が悪かったんだよ、俺がバカだった。政府を裏切り、同士を殺し、お前をここまで追い込んでしまった・・・根本的に俺が間違ってたんだ。もし俺があのとき」
「それ以上は言うな」
マーリンはキラの口を押さえた。
「もういい・・・キラは次の試合のために強くなってくれ。僕たちを踏み台にして・・・」
キラはマーリンの手を離すと椅子から立ち上がった。そして部屋出入り口まで行くと振り返り、
「ありがとう」
と言い、部屋から出ていった。
そのときのキラの目からは涙が流れていた。
「キラ、あのとき手加減してたのは僕の体を気遣っていたんだろう?・・・あと二日で死ぬ命を・・・」
マーリンの目からも涙が流れていた。
「準決勝の相手はチームFだ」
キラが教室に戻ってきてすぐに対戦相手が発表された。
チームF。リーダー、馨を柱として作られた守りの布陣。
『守りは最大の攻撃』というクラスの方針通り、完全なる守りのかまえからいきなり現れる攻撃が武器らしい。
「オルガ、今回はどうするんだ?」
「今回も俺は戦闘に出よう。まだルナが心配だからな」
「私も・・・私も戦います!」
「ルナ、その心意義はありがたいが四津野から聞いた感じ、まだ癖を直せてないらしい」
「・・・柊さんは大丈夫なんですか?」
「へ?俺?」
「その傷です」
俺は前の戦闘でマーリンの槍によって穴が開いた左手がまだ治っていなかった。未だに水の入った桶や風呂に浸かると痛みが体中を走る。
「もう戦えるんですか?」
「心配してくれてありがとう。でも俺も戦わないといけないなら。それに女の子を戦闘に出したくないよ」
「・・・私はどうなるんだよ」
四津野がボソッと呟く。
「と、とにかくルナは指示を与えてくれ」
俺は少し下がった。これ以上の追撃は困る。
「もしも前みたいに雷帝が消えたり・・・そう言えばいないな。リアさん、何か聞いてますか?」
「何も」
リアはメモ帳に『 雷帝:無断欠席 』と書く。
戦闘会議を欠席する場合、監督に用を言うか、リーダーに用を言わなければならない。もし言わずに休んだ場合、無断欠席としてあとで注意されることになる。チーム全体で決めることなので大切なのだ。
「こりゃーあとで説教かな」
「話を続けるがルナは補欠兼指揮として頼む」
「わかりました・・・」
「本当に今頃だが雷帝について話そう」
俺は久しぶりに千歳のところに来ていた。
やはり千歳の部屋は書庫のように暗く、大量の本で埋め尽くされている。
「雷帝、今年で28だっけな。もう13年も学校にいるな」
「雷帝さんってそんな若いのにあんな老け顔というか何というか・・・」
「あー、それね。雷帝ってある種族の末裔でその種族は一般人の1.5倍の歳をとるらしいの。だがら私たちで言う一歳は彼で言う1.5歳なの」
「なるほど・・・てことは今は42歳ってことか」
「あと私が知ってることと言えば・・・雷帝って強いイメージがあるでしょ?」
確かにあのチーム内では一番強そうだ。筋肉質で身長が高い、イメージ的には。
「まぁ今はチーム内だと一番かな。でも昔は君も知っているだろう勅使河原君に負けっぱなしだったの」
「勅使河原さんに?」
「ええ。最初は一発も攻撃を当てられずに倒れてたかな。まぁ『伝説』って言われてたくらいだし」
「伝説ですか・・・」
伝説とは試合での高成績や皆勤賞や個人ランキングで三ヶ月間トップを取った者だけが与えられる称号だ。今の伝説が誰かは知らないが一つ前、つまり勅使河原さんがいた頃の『伝説』を与えられた者は勅使河原だったようだ。
「まぁ伝説まで来たら、正直監督かリーダーに言って誰かにあげた方がいいよ。持ってるだけで面倒だし、一度貰えたならそれだけで記録に刻めるから。あと一つ言うと・・・」
千歳は指をならす。すると千歳の下から文字が溢れだし、棚に置いてある箱を持ってきた。
そこには暗い部屋を明るくするくらいの光を放つ神々しい鏡が入っていた。
「私も一度『伝説』を貰ってるんだ。すぐに次の人に渡したけど。今は戦ってないけど昔は強かったんだからね」
「あ、それは前にリアさんに聞いたことがあります。確か『戦場の舞姫』でしたっけ?」
千歳は少し頬を赤らめながら頷く。
「そ、そうだ・・・。あのころの二つ名を出さないで欲しいな・・・ちょっと恥ずかしい」
「あ、すいません。でも強いってのは知ってます」
千歳 真姫、『戦場の舞姫』と呼ばれ、一時チームFの時代を作ったとされる。あるときは千歳一人で四人を相手にしたり、またあるときはメンバーを一瞬で集め、敵を集団で倒すといった攻撃、指揮のどちらでも力を発揮していた。
だが、今は戦場から消えて、寮の一室で小説を書いている。
「まぁ明日も訓練やら何やらで早いんだろ?それに
ルナちゃんも待ってるだろうしさ」
「はい、今日はありがとうございました」
「いえいえ」
「遅かったですね・・・」
ルナはどこかお怒りになっておられる。
部屋に戻ると、まだ7時なのにルナはもうパジャマ姿で寝る準備をしていた。キッチンには自分で買ってきて食べたのかコンビニの弁当が置かれていた。
テレビでは貯め録りしていたルナが大好きなドラマが流れている。たぶんさっきまで視ていて、急に俺が帰ってきたためそのままなのだろう。
そんなことはいい。どうしてルナが怒っているかだ。今にもそのパジャマ姿の後ろに見える剣が俺を貫きそうだ。
俺はルナのことを考えて、やはり少し遅かったのがいけなかったのだろうかと思った。
「ちょっと千歳さんのところに行っててな」
「へー、千歳さんですか・・・柊さん!」
「はい!」
「別に千歳さんのところに行っていたので怒ってるんじゃないんです!ただ、今日は何の日か知ってますか!?」
そう怒鳴りながら、ルナは壁に掛けられたカレンダーを指差す。
そこには前から決まっていた『家事の日』と書いてあった。
「家事の日とは何ですか、言ってください!」
「学校が終わったらすぐに部屋に戻り、身の周りの掃除や夕御飯をつくるなどといった家事全般をすることです!」
「今何時ですか!」
「7時です!・・・すみません」
「・・・今日はアローさんが来てくれたのですぐ終わりましたけど、今度約束を破ったら許さないですよ。それに・・・寂しかったんですから」
「本当にごめん。次こそは忘れない、約束は絶対だ」
「じゃあ・・・日本に昔から伝わる『ユビキリゲンマン』というのをやろ、それでこの話は終わり」
「わかった」
その容姿からルナがどうも同い年には思えない俺だった。
一件が終わり、俺が風呂から出るとルナの怒りはどこかへ消え、俺が千歳からもらったスナック菓子を無言で食べ続けていた。
「そういえば、雷帝って普通の人よりも1.5倍の速度で歳をとるんだってよ」
「そこまで驚きではありませんね。私の見たことのある種族の中には一年ずつで世代交代して二年で死んじゃう種族を見ましたよ」
「そんなこと言ったら俺の見た種族なんて一週間で死んじゃうやつを見たぞ」
「・・・蝉?」
「い、イエス・・・」
何とも言えない空気。
「・・・ねぇ」
そこをルナが切り出す。
「明日、少し付き合って」
「どうした?」
「いや、たまには戦いたいなって」
ルナはパジャマの腹の部分をクシャクシャする。その動きが何を示すのかわからないまま、俺は「いいよ」と返事をした。
「前みたいにお前の圧勝だと思うけどな」
少し笑いながらそんなことを口に出す。
「ありがと」
ルナはそう言うと冷蔵庫の方へ行き、中から飲み物を取り出した。
その頃、学校下の町唯一の居酒屋では酔いが回っているのか少しハイテンションな男と、その横で静かに飲む冷静な男がいた。
ハイテンションな男はその男を見るとそのままのテンションで話しかけた。
「おいおい、兄ちゃん酔ってるかー?そんなちびちび飲まずにもっとパァーッとさぁ?」
冷静な男はハイテンションな男の言葉を完全に受け流す。それにハイテンションな男はカッとなって冷静な男の胸ぐらを掴み上にあげた。
「おいおい、兄ちゃん。いい加減にしろよぉ」
「私は兄ちゃんではありません。私は」
次の瞬間、ハイテンションな男の腕は切られ、肉塊が床に落ちた。
「"荒波"です」
荒波と名乗る冷静な男は光で作られた剣を鞘らしきところにしまうと倒れた男の頭を踏みつけた。
「私はそういうのは嫌いなので。それでは」
「待てよ、兄ちゃん」
踏みつけられた男は荒波の足を掴むとそのまま荒波を逆さにして立ち上がった。荒波が気づいたときには完全に切れたはずの腕がくっついていた。
「ゾンビ・・・ですか?」
「そんな弱いもんじゃねぇよ」
そして荒波を客席に向けて投げた。荒波は剣を天井に突き刺し、投げた勢いを抑えた。
「俺は雷神族の雷帝。いわば神だぁ」
「そんなへべれけな神がどこにいますか。あ、すいません。腕を切られても回復するへべれけな神が目の前にいました」
雷帝は掌にいつも通り、電撃を貯める。
「雷・昇・覇・絶。っあぁ!」
店内のもの全てを吸収しながら荒波向けて飛んでいく雷の塊は荒波の前で破裂し、空気を裂くような衝撃を店内に与える。
しかし荒波はその中から完全に脱げ出し、逆手に持った剣で雷帝を刺す。
「それは睡眠の付属効果を持つ。眠れ・・・」
雷帝は自力で剣を抜くと、その場に倒れながら荒波に向けて投げた。
荒波はそれを掴むと腰に巻いたベルトについたフックにしまった。
「それでは・・・」
そして店内から消えた。
「お客さん、大丈夫ですか?」
雷帝の意識は荒波が店から消えるように消えた。




