キラとマーリン
マーリン、なぜお前なんだ・・・
あいつは昔から俺のそばにいてはいつも俺をキラ兄と呼んでいた。昔から兄弟のように生活し、侵入者の排除や敵軍との戦争で共闘していた。ある日は喧嘩し、ある日は遊び、ある日は戦闘訓練をして、またある日は・・・
だが、あの日だけは違かった。俺があの世界から反乱を起こして消えるとき、マーリンはまるで周りの者達のように俺を殺しにかかってきた。その一瞬で変わってしまった。
キラの寝ているベッドの枕はキラの目から出た涙で一部濡れていた。
キラはそれに気づき目が覚めた。
部屋のテーブルの上に置かれた写真たてに入った写真を見て、さらに涙を濃くする。
「あの頃が懐かしいな。ブル、カガリ、シンラー。あいつら何やってんだろうな。あいつらは何も言わずに俺の言葉を聞いてくれたな。マーリン・・・」
写真に写った五匹の悪魔。
キラとマーリンが写っている。二人とも似たような格好をして、似たような槍を持っている。
キラは少し微笑むとまた眠りへと飛び込んだ。
午前五時、俺はキラの分戦場で戦うために朝練を行っていた。
この前の戦闘みたいに押されていてもキラが助けに来ることはない。そしてこれから先のために自分一人で戦わなければならなくなったときに、今回は怯まずに戦わなければならない。
「今日も朝練?やりすぎると響くよ」
近くの階段上から誰かの声が聞こえる。そこにはアキネが立っていた。
「今回出れないキラさんのために、少しでも強くなりたいんです」
「キラ・・・ね。今回彼の出れない本当の理由知りたい?」
「本当の理由・・・ですか?」
「いや、なんでもないわ。正直、今聞いても戦闘に集中できなくなるだけだから、じゃあね」
アキネは手を振ると学校の方へ走っていった。
やはり入り口前は緊張するものだ。
時間は経過し、戦闘前。やはりキラは控え室に現れない。そのまま指揮に行ったのだろうか・・・
オルガはさっきからどこか鋭い眼をしている。
今回の戦闘メンバーは前のメンバーに雷帝が加わり、キラが消えた物で、前のようにキラが助けてくれるということはない。
今回は俺自身がどんな状況でも戦わなければならない。
それにあのあとアキネから聞いた話、キラの旧友がいるらしい。そのため、危険なのは確かだ。
一人は大きな槍を持つ男と人を喰らう大槌を使う悪魔のような体をした人間らしい。
「悪魔・・・か」
「どうした?」
「いや、なんでもないです。ただ・・・キラさんって悪魔なんですか?」
一瞬、空気が凍る。
「・・・いや、やっぱりいいです」
「あいつは悪魔だよ。しかも一つの部隊の隊長らしい」
オルガが立ち上がり、雷帝よりも先に答える。
「信じたくはないがこれは事実だ」
オルガの言葉と共に部屋にリアが入ってきて、戦闘開始の準備をすることを告げる。
「・・・まぁもしもこの戦闘が終わり、生き残ってたら説明しよう」
オルガはそう言うと、控え室から一人で出ていった。
俺らもそれに続けて外に出た。
『さぁ始まりました、王座決定戦二回戦!今回のゲストはチームA、東条アキネさんの弟、東条シュウさんに来てもらっています!シュウさん、単刀直入に言うと、チームNとOのどちらが勝ちそうで』
『チームNだ』
間髪いれずにシュウはそう言う。
『理由は』
『チームOに負けてほしい。・・・以上だ』
シュウはそう言うと部屋から出ていった。
『・・・えっと・・・とりあえず三十秒後、戦闘開始です』
戦場は前のジャングルのような戦場とは真逆の自然が一つもない工場地帯のような場所で、あらゆるところからもくもくと煙があがっている。
「ここが戦場・・・?」
「まぁ一般人が見ると変な場所と思うだろうな」
無線先で雷帝はそう言う。
「・・・雷帝さん、酒飲んでませんのね?」
「は、はぁ!?の、飲んでねぇよ!・・・ヒック」
雷帝が酒を飲みながら無線しているのがすぐにわかった。
ブォォォォン!ブォォォォン!
開始のサイレンが鳴り響く。
戦闘法第三十五条、開始サイレンの鳴っている間は無線をきらなければならない。
俺は無線を切る。そのとき、
ザクッ!
それと同時に一本の槍が俺の左手を貫いた。
そのときはそれに気付かなかったが、その音を聞き、その手を甲を見たとき痛みがそこからこみ上げた。
「ダメなんですよね、サイレンの間の無線は」
その槍は持っていた無線機をも貫く。
「はじめまして、いや違うか。柊さん」
その声は煙の中から現れ、次に本体が姿を現す。そこにいたのは一週間前に廊下でぶつかったマーリンだった。
「お久しぶりですね、柊さん。おやおや?その左手大丈夫ですか?」
俺は槍を見てさらに痛みを感じた。
「痛そうですね・・・抜いてあげましょうか」
マーリンはそう言い、不適な笑みを浮かべながら近づくと、無理矢理俺の手の甲から槍を抜いた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
「あらら、たくさんの血液」
マーリンは俺の手の甲から出る大量の血を見て喜ぶ。そして俺の横腹を蹴り上げた。
「その人間の痛がり方や叫び、そのパックリと割れた傷口とそこから流れる甘美なる・・・血液!それは僕の心を、体を、脳を刺激させますぅぅぅ!」
マーリンは顔を手で覆うと指の間からこちらを覗く。そして槍の先に付いた血を舐めた。
「うん、美味。キラにも飲ませてあげたいなー。その美味い血を・・・ね?」
そして俺らの大声が聞こえたのかあのとき近くにいた大男もやってきた。
俺は授業で習った止血用法を使い、手の甲の血を止めると、そこから逃げ出す。
無線は壊れた。何も情報を伝えることができない。
「ブル、柊さんを捕まえて」
「ウム」
ブルは大きなハンマーを前でかまえるとヘッドの部分から口の付いた触手を出し、俺を追いかける。
俺は周りでどこかこの場をしのぐところは・・・
俺はとりあえずあいつらが遠くにいるのを確認すると建物の中に避難した。外では未だに触手のような物が辺りを見ている。
「あれれー?柊さんはどこにいったのかなぁ?」
マーリンの声が外で聞こえる。
次の瞬間、俺の顔をかすめるかのように槍が壁を貫いて現れた。
「ち、はずしましたか」
確か昔にキラから聞いたことがある。悪魔は鼻が利くため鮫のようにちょっとした血の臭いも判別して敵を見つけることができる・・・と。
それが本当ならこの手の甲から漂う血の臭いがあるかぎり、俺のいる場所は相手にバレてしまう。
槍は休まず、適格に俺を狙う。それを俺は闇の力で払うが次々と来る槍に反応できずに何度か槍の攻撃をくらう。建物の裏口から出たときには服がボロボロになっていて、脚や腕からは血が流れていた。
「そろそろ終わりですかね?」
「ウム」
「・・・何でブルは戦闘になるとそんなガチガチなん?隊長なんだから少しくらい威厳を見せろよー」
「すまん。昔からこういうときは緊張してな」
「はぁ~。ブルはガチガチだし、柊さんは見失うしでどうにもならないね」
マーリンは深くため息をつき、頭を抱える。
俺はとりあえずその場から逃げて、少し煙臭い場所に入る。こうすることで少しでも血の臭いを消そうと考えた。
「無線がないから他と連絡をとることはできないしな。ここに隠れていてもこっちがどうかなりそうだ」
俺は一旦近くの建物の中に入り、その建物の三階に上がって辺りを見渡した。近くに仲間は見つからず、未だマーリンとブルは俺を探している。
そのとき、突然爆発音が鳴り響き建物の一つが壊れ、何かがマーリン達に向かって飛んできた。最初は瓦礫と思ったがマーリンが槍で突いたところ赤い液体が目の前で飛び散った。それは紛れもなく血であった。そしてその瓦礫と思われていたものは死体だった。
「やっぱり来るか・・・死神」
二人の前、煙の中に立っていたのは少し血が服に付着し、平然と剣を片手に握る四津野だった。
「死神って言われるのは嫌いだ。私は四津野 千理って名があるのだから」
剣に付いた血を振り払うと、切っ先をマーリンに向ける。
「戦闘体勢ですね。よろしく・・・お願いします!」
マーリンは槍をかまえると一瞬にして四津野との間合いを縮め、槍を突く。四津野は流れるような剣捌きで槍を防ぐと、剣をマーリンの首元に突きつける。
「やっぱり死神だ!」
マーリンはその剣を取り出した二つの槍ではね返すと、槍を地面に出た魔法陣から躊躇なく取りだしジャグリングのように空に投げると一本ずつ四津野に向かって投げる。
「想定内よ!」
四津野はやはりその攻撃も完全に防ぎきり、一つ受ける度にマーリンに近づいていく。
ブルは目の前で起こっている現状についていけてないのかその場に棒立ちで立っている。
「ブルも戦ってくれ」
「敵から目を離したら・・・どうなる?」
四津野はマーリンがブルを見た瞬間、一気に間合いを縮めて剣で持っていた槍を折った。折れた槍はまるで周りで発つ煙のように消えていった。
「やりますね、やはり死神・・・なら」
「お、おいマーリン!それは危険だ」
「こっちも本気を出さないといけないようだね」
マーリンの皮膚は白から少しずつ黒く、目は赤くなっていく。そして変化の終わった姿は
本物の悪魔のようだった。
一方その頃、オルガは雷帝と合流し、敵一人を倒した。
「そう言えばよぉ、今期入った二人ってキラとどういう関係なんだ?お前なら知ってるだろ?」
「あぁ、知ってる。あいつらはキラの旧友だよ。まぁここに来た本当の理由も今朝、リアに聞いて驚いたよ。まさかキラの殺人だったとは・・・な」
「この前はオルガ、『あっちに帰るよう、話し合いをするため』とか言ってなかったか?」
「・・・そんなこと言ったっけな。それと気になるのがさっきからどことも無線の反応がないんだよな。柊に関しては壊れたのか通信すらできないし。もしかして指揮室の本体が壊れたのかもな」
「それなら『メンテのため今回の戦闘は先伸ばしとなります』とか戦闘前に放送で言うんじゃないか?または戦闘中に」
「じゃあなぜにその放送が流れない?」
雷帝は顎を触ると上を見て立ち止まった。
「運営側が気づいていない・・・とか?」
「たぶん俺の推測・・・『部屋に誰もいない』ってことかもしれない・・・」
「・・・はぁ?」
「別に指揮室には絶対に一人いなければならないという法はない。だからもしもあいつが脱け出している、または最初からあの部屋にいなかったら」
オルガはそう言うと、今いる場所から良く見える指揮室の窓を見た。高低差のせいで見えないがオルガは『人の気配がない』と感じた。
「・・・まさかあいつ。急ぐぞ、オルガ!」
「わかってますよ、あいつの好きにはさせておけない!」
二人は横で倒れている敵の姿を無視して、一気に飛びだした。
指揮室にはオルガの直感通り、誰一人としていなく、そいつは戦場に立っていた。
「ぐっ!」
こんな四津野さんの姿、見たことがない・・・
さっきから四津野はマーリンに近づくことも、攻撃することもできていない。むしろ形勢逆転している。四津野は体勢をたて直すと、剣をかまえ立ち向かう。そして何度もマーリンに刃を当てる。だがすぐに傷は治り近づいた四津野を槍で突き飛ばす。
「どうですか?痛みは」
「まだ・・・戦える」
正直、四津野は限界だ。だが、ここで俺が出ていっても敵うわけがない。
「これで・・・二人目だ!」
マーリンはそう言うと、四津野に向けて槍を投げた。
ザクッ
それは一瞬の出来事だった。
「何でお前が・・・」
突然、四津野の前に現れたのはさっきまで指揮室にいたはずの男だった。
「あーあ。服に穴空いちゃったよー」
「何でここにいるんだ!キラ!」
キラは肩に刺さった槍を躊躇なく抜くと、へし折った。
「おいおい、相手は人だぜ?本気で戦うなよ、大人げないな」
「こいつらはクリーチャー、言わば化け物だ。そんな奴等に慈悲はない」
「お前の慈悲とはなんだ?俺らは一度もそんなの考えたことねぇだろ?特にお前に関しては最近まで人を殺してたもんな、殺し屋さんよ」
マーリンは槍を握り締めると勢い良く飛び出した。
「キィィィィィラァァァァァ!てめぇみたいな反逆者は消えろォォォォォ」
キラはそれを見ると、後ろにいた四津野を手で突き飛ばし、
「四津野は下がってろ!」
と言い放つ。
「この二人は俺が止める!」
キラはそう言い、マーリンに向かっていった。