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キラの涙

チームXとの戦闘後、俺らのところへよくカジがやってくるようになった。どうやら、オルガに弟子入りしたいらしい。だが、オルガは許可しなかった。カジは何度も頭を下げるがオルガは本を取りだし、無視する一方だ。

「聞くだけ聞いてもいいんじゃないか?頭下げてんだしよ」

なんてキラが言うが、それも聞こうとしない。

あの戦闘の後から、オルガは変だ。

そしてある一つのことが気になっていた。


昼休み。俺は学校内の食堂にある売店で買ったパンを片手に廊下を歩いているとまた前からカジがやってきたのに気づいた。

やはり服は大きめのを着ているため袖が垂れていて、髪はグシャグシャだ。

「あ、柊君。オルガさんはいますか?」

そう聞かれたため、俺はいると答えた。そしてあることを聞いた。

「・・・どうしてオルガの弟子になりたいんだ?」

「え!?・・・えっと、その・・・オルガさんはこの俺を闇から光へと変えたヒーローですから」

「ヒーロー?」

「はい。あの戦闘で僕は心一転しました。これまで暗い何もない人生に『目標』という一筋の光を刺してくれました。・・・少し言いづらいのですが、オルガと共闘するということです」

「オルガと?」

「あの全てを圧倒した戦闘技と全てに反応する反射神経。僕の能力『光の如く』に反応できたのはたぶんオルガさんが初めてです」

暗い表情の中光輝く目は、まるでかっこいいヒーローを見る子供のような、どこか綺麗な目だった。

「なので、オルガさんと一緒に力を磨きあい、一緒に戦えたらなーって。話が長くなりました、僕も急いでいるので、それでは」

カジはそう言うと走っていった。

俺もあることを知るために急がなければならない。確か次の角を曲がったところに・・・

次の瞬間、また誰かにぶつかった。

「痛いなぁ、もう・・・」

「す、すみません。大丈夫ですか?」

声の先を見るとそこには普段のルナくらいの背丈をした青い髪の男の子が頭を押さえていた。

「大丈夫です。これくらいへっちゃらですよぅ」

「おい、マーリン!走るなといったろう!」

ぶつかった男の子をマーリンと呼ぶ声が曲がり角の先から聞こえた。

曲がり角の奥から現れたのは、マーリンと真逆で身長2メートルは有りそうで、この学校指定の制服の上からでもクッキリと筋肉の線が見える大男だった。

「すみません、隊長・・・」

大男はこちらを見ると、頭を下げた。

「マーリンがすみません、ケガはないでしょうか?」

案外、礼儀正しい大男だ。なんて考えてると大男は俺の手を引っ張って起こした。

大男が近くに俺の持っていたパンが落ちているのに気づくとそれを拾い、近くのゴミ箱に捨て、お詫びに大男が持っていたパンを俺に渡した。

「マーリン!お前からも頭を下げい!」

「はわわわわわ。す、すみません!」

「・・・これで許してもらえませんかね」

「そんな謝らなくても大丈夫ですよ。特にケガもないですし」

大男とマーリンは頭を上げようとしない。

少し経つとそこにアキネがやってきた。

「あれ?柊君。どうしたの?」

「何て言うかその・・・」

「・・・なんとなくわかったわ。彼はチームOだけど新人さんだからあまり頭下げなくても大丈夫よ」

アキネの言葉を聞くと二人は頭を上げ、一礼して帰っていった。

「どういうことですか?」

「彼らはチームNのメンバーね。チームNはこの時期、よくチームOにロックオンされて戦うことになるの。そして結果はいつも完敗。だから精神面からチームOメンバーに恐怖しているんだ」

「でも何で俺を見ただけでチームOって」

「彼らもまた、チームOのことを調べているからね。特にあの大男とあの小さい子はチーム内の武器だから、あまりチームOに・・・おっと話が過ぎたね。で、何か聞きたいことがあるんでしょう?」

話に聞き入っていたために忘れていたが、目の前にいる東条 アキネに聞きたいことがあったというのを今思い出した。

「その・・・あれです」

「ん?どうしたの?」

言葉が出ない。まるで喉を何かで塞がれ声を押さえられているかのように・・・

「えっと・・・一回戦の時、最後なんで俺に頑張れって言ったんですか?」

声が出た。言えた・・・。

あのとき、最後の言葉でアキネはマイクで拾えないくらいの小さい音を出したが、完全に俺の耳には聞こえていた。

「えっと・・・先輩として私は柊君の持つ能力に無限の可能性をひめてると思うの。キラの能力を使えるようになった、いや、人の能力を完全にコピーしたってことはとても怖いことなの・・・


これまでたくさんの能力者を見てきたけど、柊君のような『人の能力を完全に会得する』ってのは初めてなの。その一瞬だけをコピーするというのは見たことあるけど、完全にコピーして自分のものにするのは聞いたことないわ。もう一つ言うと、そういう能力はある意味、犯罪に近いものなの。まだ柊君達は能力憲法というものを学習していないと思うけど、その憲法の中に『人から人への能力を移動や移植は禁止。した場合、能力所有者は刑罰を受けなければならない』ってのがあるの。・・・まぁ詳しい法とか言ってもまだわからないか。


今はとにかく人のを見て技術を盗むことが重要かな。でも、何でもかんでも盗めばいいわけじゃないわ。自分にあったものを選んでそれを何度も見る」

アキネは俺の肩を叩くと、少し笑みをつくり、俺とは逆方向に消えていった。

そして去り際に

「王座決定戦、下剋上待ってるよ」

と言った。


俺は話が済んだので教室に戻った。

「あ?てめぇ、またふざけてんのか?」

キラの大きな声が響く。その先にはやはりオルガが立っていた。一目見て、オルガがキラの怒号を無視しているのがよくわかった。

「今度は俺を指揮に入れるだと?ふざけるのもいい加減にしろ!」

キラの怒りの拳にオルガはすぐに反応した。キラもそれを見てさらに怒りが増したのか、近くにあった机やイスを投げ始めた。オルガは能力『神器の装備』の盾を取りだし、それらを防ぐ。そして近くにあるオルガの机から分厚い小説を取りだし読み始める。

キラはそれを見てさらに怒りを増す。

「あー、もう!てめぇは人の話もろくに聞けねぇのか、クソ野郎がよぉ?」

キラは近づき、オルガの胸ぐらを掴もうと手を出す。だが、それもすぐに防がれた。

「キラ、お前の言いたいことはわかる。だが、最初から言っている通りこの言葉は俺の言葉じゃない。全てリアの物だ」

「っ!・・・てめぇはそれでいいのかよ」

キラは舌打ちをすると一気に静まった。

「まぁ理由はなんとなくだがわかっている。お前の戦闘外の学校生活中の態度だろう。居眠り、暴行などなど」

「んなの雷帝はどうなんだよ。あいつも飲酒で」

「雷帝は例外だ。雷帝はほぼ卒業した状態だ」

キラはそれを聞き、一度は静まった怒りをまた覚ました。

「もういいぜ、指揮で。あぁリアの言葉ですか、わかりましたよ!」

キラはそのまま、五時間目前の予鈴と共に教室から出ていった。



五時間目間、俺は外の木の上で手を頭の後ろにまわし、幹に寄りかかるように寝ていた。こうしていると怒りが消えて落ち着く。

あのとき柊とルナは脅えた顔してたな・・・なんて考えていると、下に誰か来たのがわかった。大半、ここに来るのは俺を怒りにくるリアか、俺のように授業をサボる誰かだ。

足音と臭いからリアではない。リアは少しきつめの香水をつけているため、すぐにわかる。

俺は誰だ?と思い、そちらを見た。

「こんにちは、キラ君」

そこにはこんな場所にいるはずのない人間、東条アキネがいた。

アキネの所属しているチームAは授業から脱け出すことはまず不可能で、授業中隣や近くの人と話すことも禁止とされている、『超』が付くほどのエリートチームだ。そのため、こんなところにいるはずがない。

「授業中、君がここで寝ているのを見つけてね、正直、意味のない授業だったから逃げてきたんだ。これはいわゆる魂的な物だから」

「魂にしてはやけに立体的だな」

もはや魂であることには何も感じない。この学校にくるまで人を殺害することを仕事としていた俺には魂が現れることなど日常茶飯事だった。

まぁそんなことどうでもいい。問題はどうしてアキネが現れたのか、だ。

「まぁいい。どうして俺を見つけたからってここに来たんだ?お前なら全く興味ないって感じだと思うのだが」

「少し気になることがあってね。今回のチーム名簿に君の名前がなかったんだよね。それで気になったから調べてみたら指揮に入ってたから驚いたよ。理由を見てしょうがないかって思ったけどね」

「理由?暴行とかじゃ」

「あの監督がそんなことすると思う?あの人は勝ちしか考えてないし」

「それじゃあいったい・・・」

「えっとね・・・今回の相手、チームNのマーリンって知ってる?」

俺はその名前を聞いた瞬間、寒気が身体中を走った。

「あいつが・・・何であいつがここに・・・」

「どうやら君を追いかけて来たらしいよ。もちろん殺すつもりらしいね」

「なぜそこまで・・・」

「君がどうしてここに来たかとか、君の過去とか色々と書かれてたよ。たぶん、君の情報はだだ漏れなんじゃないかな?」

「・・・まぁいい。そんなの別に何とも・・・」

動揺している。過去は別に明かされても痛くも痒くもないが、ここに来た理由は明かされるときついものがある。特にチームOにバレたら・・・

「まぁいいや。とりあえず、マーリンって子には気を付けてね。それじゃあ」

アキネの魂はその場から消えた。

そして消えてすぐくらいにリアがむこうからやって来た。

「今度は何があったの?」

「もう大丈夫です。リアの言うことはよくわかりました」

リアは何も知らないような顔をしていた。



マーリン・・・なんでお前なんだ・・・



キラが教室に帰ってきた。俺らはその方向を見るがオルガはやはり何も言わず、その方向を見るそぶりもない。

「もう授業は始まってるぞ。席につけ」

「はい」

キラは言うことを聞き、何事もなく席についた。

何があったのだろうか・・・。

オルガといい、キラといい、最近何か変だ。


授業が終わったあと、恐る恐るキラのところへ行った。やはりいつもの威圧感のような物がない。まるで力が無くなったかのようだ。

「やっぱり戦場に出れないのが・・・」

「いや、そのことはもういいんだ。納得した」

そう言い、キラは机に顔を伏せた。

キラはそのあと授業が始まっても、顔を伏せたままだった。ただ寝ているわけではないというのはすぐにわかった。


そしてその時はすぐにやってきてしまう。




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