無題魔王(お蔵出し)
久しぶりにログインできた記念にせっかくだからと埋もれてた黒歴史を流す作業。
冒頭だけで中身も続きもありませんのであしからず。某サイトでいう落書き的なものとして見てください。
魔王が支配する世界があった。
世界中には魔物が蔓延り、人々は怯えながら毎日を暮らす、そんな定型文でできた世界。
勇者が戦う物語があった。
唐突に目覚めた力を使い、人々を救うために魔王の城を目指す。そんな王道ばかりの物語。
全てが終わる瞬間だった。
勇者は仲間と共に魔王の城に辿り着き、幾つもの罠が勇者たちを襲い、仲間たちと離れ離れになりながら、勇者は魔王と対峙する。世界の命運を委ねた、そんな在り来たりな瞬間。
「今日でこの暗黒の時代を終わりにしてやる! 覚悟しろ、魔王!」
高らかに叫び勇者は剣を構える。白と金に輝く美しい鎧に身を包んだその姿は、数多いる勇者のそれと寸分違わない。
あえて違いを言うならば、彼女―――つまるところ、勇者は『女』だった。
身長があり鎧を着込んでいて体格も分からず、口調も男勝りなため解りにくいが、魔王に向けられた殺気は、男には出せない魅とれるほどの凛々しさを放っていた。
その事に感嘆しつつ、しかしやる事は変わらない。重々しい威圧を纏い、魔王―――俺は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「よく此処まで来たな、敬愛なる人間たちの道具よ。いずれ使い捨てられる運命と知りながらなおも己が血を流し続けるとは、愚か者としか言いようが無いと俺は思うが」
まずは軽い負蔑と軽蔑を込めて。これで逆上するようであれば相手にするまでもない。逆に返す言葉が無ければその通りの存在だと言うことだ。そしてこの勇者は、
「お前が私をどう思おうが構わない。しかし私には守るものがある。お前の所業を止めるためなら、私は一つの剣となろう」
……どうやら気概はあるようだ。俺の言葉に顔色変えず、相変わらずの眼力を放っている。コイツは、言いくるめられるタマではない。
「―――ハハッ。気に入ったぞ、女」
ならば言葉など無用。こういうヤツ相手には、何より力で屈服する他ない。
「貴様のようなヤツが俺は大好きだ。お前が良ければ、俺の妻に迎えたいところだがな」
嘯くように吐き捨てて鼻で笑う。冗談のつもりもないが、勿論相手が頷くとは思ってない。答えなど聞かず、俺は今から始まる決戦の為に腰を落とし身構えた。
「さて、それでは無駄話は終わりにしよう。俺とお前の最初で最後の戦い。……この世界の在り方を決める戦いを始めようか―――ッ!!!」
瞬間、俺は地を蹴った。
刹那の間に勇者との距離を詰め喉元を狙う。だがこの勇者は強い。こんな一撃など軽く止められる。それでいい。そうでなくてはいけない。勇者と魔王の戦いは、そんな一瞬で終わってはいけない。俺とお前の戦いは見せつけて観比べて魅せ合わせるものでなくてはならない。
魔王だって男だ。
たとえ負けて死ぬことになろうとも、それを悔やんで呪うことなど決してしない。
俺だって漢だ。
たとえ血に塗れ消え逝こうとも、最期は愉しく殴り合いたい!!!
「ハァッ!!!」
数刻先の殺し合いに胸を馳せた俺は勇者に腕を振り下ろし、
その腕を、止めてしまった。
「――――――あ?」
理解ができなかった。
俺の予想は間違ってないハズだった。この勇者には俺と相対するだけの力を持ってるハズだし、コイツの気構えは先刻確認している。本当なら俺の腕は俺の意志無しでも止められ、そこから血を血で洗うような戦いが繰り広げられるハズなのだ。
だがそうならなかった。俺の予想は完全に外れた。
勇者は身動き一つせず、ポカンと立ち尽くしていた。
「おい、どういうつもりだ」
俺は勇者に声をかける。このままではコイツの首を撥ねるだけで終わってしまう。そんなコトは望んでいない。世界だとか勝敗などより、俺はただ戦いたいだけなのだ。
「オイ!!!」
「え? あ、え、ハイ!?」
我に返った勇者は驚いたように返事をする。しかし勇者……、いや、もう勇者とは呼べるほどの覇気が、彼女には無かった。
「どういうつもりだ。勇者ともあろうヤツが、みすみす魔王に殺されるつもりか?」
「あの、いえ、そうじゃないんですが……」
覇気どころか口調まで勇者ではなくなった元勇者は、何故か俯きがちに、俺に何かを聞きたそうにしていた。
「―――……何だ?」
止めていた腕を下ろし、俺は尋ねる。このままじゃ戦いも何もない。何が気になっているのか知らないが、話を聞き終わればコイツも元に戻るかもしれない。
「あ、あの……その、……さっき言った事って、本当なんですか?」
「さっき?」
とは、どのことだ?
俺は戦う前のセリフを思い出す。
「……この戦いが世界の命運を決める、だったか? オイオイやめてくれ、こういうのはノリで言うもんだ。冷静になって言ってみるとかなり恥ずかしいぞ」
「いえ、そんなイタイ言葉じゃなくて」
「………………」
イタイって言われた。金ぴか鎧着た元勇者にこの日のためにひと月前から頑張って考えて何度も練習した前口上をイタイって言われたぁっ!!!
「そのセリフじゃなくて、もう少し前の方です」
「グスッ……その前? ……えーと、……俺はお前みたいなヤツが大好きだ?」
「あぅ、だ、だいすき……大好き……」
言った瞬間、彼女の体がグラッとフラついた。ブツブツとうわ言を繰り返す彼女が怖い。
「……そ、それで、その後はなんて?」
なんとか倒れず踏みとどまり、さらにその続きを催促された。消え入りそうな声なのに視線だけは俺のことをまじまじと凝視していて、……あの、ホント怖いんでちょっとあまり見ないでくださいホントあの。
「あ、あー? ……いや、ちょっと待て。多分ソレはさっきのセリフよりもイタイぞ?」
イタイなんてもんじゃない。恥ずかし過ぎて火を吐きそうだ。いや実際出せるけど。
「大丈夫です! 全くイタくないです! 私が保証します!!」
何故か元勇者に保証される魔王。というかもう完全に勇者要素が消えてますよね?
「……お前がいいなら、俺の妻にしたいかもしれなくもないがいや実際どうだろう俺達はまだ出会ったばかりだ互いの事もよく知らないということで今から殺し合いを始めよう、だっけ?」
「途中から全然違います! というか殺したらもう知り合えないと思います!」
ツッコまれた上に正論を言われた。
「あなたはさっき『貴様のようなヤツが俺は大好きだ。お前が良ければ、俺の妻に迎えたいところだ』って言ったんです!」
俺が忘れてた所まで一字一句覚えていた。 というか覚えてるなら何故俺に言わせた?
「……まぁ確かに言ったかもしれないな。―――で、そしたら何なんだ?」
「え!? いや、その……」
少しの、間。元勇者は逡巡する素振りを見せて、改めて俺に尋ねる。
「……本気、ですか?」
「あ? ……そりゃまあ、冗談じゃ言わないな」
しかしここまで掘り下げられるとも思わなかったが。
返事を聞いた元勇者はまたしおしおと縮こまる。なんか可愛……いや、気のせいだな、うん。
「あの……でも私身長高いし! 鎧で分かりにくいですが胸も無いんですよ!」
「? いや胸は知らないが。俺魔王だし。人間よりは身長あるぜ?」
計ったことは無いが2メートル半は優にある。そんな1メートル代がいくら高くても俺は気にしない。というか魔族の魔王は異種結婚なんて当たり前だから身長なんて気にしてられないのだ。(ウチの親父は10メートルあるドラゴンの母と結婚した)
「でも、でも、私たち、まだ知り合ったばかりだし……」
「それは俺もさっきいったが、でもそれはいいんじゃないか?他人として知ることと、一緒になって知ることは全然を違うものだと思うし」
「あうぅ……」
……というか、俺は勇者相手に何を語っているのだろう。俺は何がしたくて、勇者とこんな話をしているのだろう……。
そう、俺が目的を思い出そうとした時だった。
「……それじゃあ、ヨロシク、です……」
「え?」
もっと考えるべきだった。
どうして勇者がそんな事を聞いてきたのか、どうしてそこまで詳しく知りたがったのか、そんなこと、考えなくても分かることだったハズなのに。
「あ、まずは名前でしたね」
ふっ切れたように元勇者は名乗る。俺は完全にフリーズしていて、この時は名前を聞いていなかった。
「えっと、ふつつか者ですが、なにとぞよろしくお願いします。魔王……いえ、あなた♪」
こうして。世界の支配者だった魔王は、自分を殺しに来た勇者と結婚することになった。
(続きは)ないです。ごめんなさい。
多分続きは書かないんだろうなぁ……いつか書きたいなぁ……書けるかなぁ……誰か書いて?(