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忍坂家の人々

私、忍坂嘉月(おさかかづき)は4人兄妹の末っ子で、兄が2人と姉が1人居る。上から順に兄・姉・兄・私で、上の2人と下の兄と私はそれぞれ2歳違いだけど、姉と下の兄の間は4歳離れている。

けれど、上の竹春(たけはる)兄さんを「タケ兄」と呼んでいる以外は、姉は「夏初(なつは)ちゃん」か「なっちゃん」、下の時雨兄さんに至っては、夏初ちゃんや母さんに倣って「シグ」呼びをしている。

けれどシグはそんなこと全然気にせず、いつもニコニコ笑っている。

というか、私は物心ついて以降、一度もシグが怒っている所を見たことがなく、両親や夏初ちゃん達に聞いても「そういえば無いわね」とのことだった。

でも、能天気で底抜けのお人好しなタケ兄と違って、理不尽な要求は(やんわりとだけど)ちゃんと断るし、言うべきことは結構はっきり言う。だけど、滅多なことでは断られた相手に不快感を与えない。その辺りの絶妙な空気が、シグの持ち味で強みなんだと、母さん達は言っていた。

ただし、それは空気が読めて、言葉が通じる相手限定なんだと、私達が痛感したのはシグが高1の夏前のこと。


でもその話をする前に、もう少しだけ私達家族の説明を続けさせてもらう。



うちは「おさかメンタルクリニック」という精神科の病院で、院長は母さん。さばさばした性格に歯に衣着せぬ物言いで我が道を突っ走っているように見えて、結構思慮深いし、患者さんの親身になって治療に取り組むので、精神科医の敷居が高かった時代から、評判はかなり良かったらしい。父さんは製薬会社の営業マンで、そんな母さんの人柄に惚れ込み入り婿になったって聞いている。


タケ兄は、お人好しが過ぎる位のお人好しというか、「人を疑う」とか「言葉の裏を読む」という回路がスポンと抜け落ちている。だけど、タケ兄を騙したりカモにしようとすると夏初ちゃんが黙っていないし、しっかり者だけど問題児やアウトローな友達や恋人が昔から側に居たので、あんまり酷い目に遭ったことはないらしい。

現在は製薬会社で新薬の開発の研究員で、結婚もしていて相手は家庭環境に問題があって何も信じられなくなっていた

元ヤンさん。曰く、「アイツ程『暖簾に腕押し』って言葉が似合う奴は居ないわ」とのことで、世の中には本当に裏表の無い人間が存在するのだと、タケ兄から学んだのだという。


夏初ちゃんは、一言で言えば「姉御」。勝ち気で面倒見が良くて、暴走族の総長から弁護士にDV被害者の支援団体の代表にヤクザに代議士に会社社長に元犯罪者に海外青年協力隊OBに各専門医etc.「どこでどうやったらそんな人と知り合えるの?」と訊きたくなる─実際何度も訊いたけど─程顔が広くて、どちらかというと真っ当とは言い難い知り合いが多めかもしれない。でも、規格外の人も当たり前に受け入れて、「だから何?」「それが何だってのよ」って言い切る所が、夏初ちゃんの強さであり精神科医の適性で、母さんの跡を継ぐ次期院長として、絶大な信頼を集めている要因でもあると思う。ちなみに、結婚は「仮に日本の法律が変わってもしないかもね」と言っている女ったらしのレズビアンで、かなりの遊び人なのに恨みを買ってないのは天晴れな人タラシでもある。

夏初ちゃんのそういう属性と、若さ故の享楽感や詰めの甘さが、アノ事件に繋がった訳だけど、まだちょっと置いておいて、シグ自身と、私のことも少しだけ。


シグは、とにかく小さい頃から手も掛からず自己主張をしない子だったらしく、例えばアルバムに残っているーてっきり私だと思っていたーリボンやフリルたっぷりのスカートの幼児が、実はシグだったので「何で?」と訊いたら

「私はフリフリふわふわが好きだ。でも自分には似合わない。そしてタケは似合わないし、ナツはその手のを赤ん坊の頃から嫌がった。その点シグは、似合わないことは無いし嫌がらなかったから、より一層似合うし嫌がらないアンタが産まれるまではシグに着せていた。さて、どこかおかしな所はあるかね?」

堂々とそう言い切った母さんに

「うん。僕、未だに特に気にしないけど」

とホンワカ笑って相槌を打ったり、お土産やプレゼントはいつも最後の残り物ばかりで、学生時代から今に至るまで、かなり色んなことを、「巻き込まれたけどまぁ良いか」で流してきた。と、私の目には映っている。

だから、タケ兄とは違う意味で危なっかしくて、私が守らなきゃいけない気がした。

本当は、さっきも言った通り、ちゃんと自分の考えを持っていて、譲れないものもあるんだけど、そのボーダーが余人には解り難い位低くて、懐が広すぎるから、やっぱり他の誰かが保護柵にならないと。って思うんですよね。

私のそんな意見に、夏初ちゃんもアノ人も賛同してくれた。


最後に、私は自分で言うのはアレだけど、一家のお姫様で、両親からも兄姉からも溺愛されて育った。そのため、中1の途中までは世間知らずな甘やかされたお人形さん。って感じだったけれど、とあるきっかけでブチキレて以降、母さんや夏初ちゃんと同路線というか、もうちょっとお堅い、「委員長タイプ」だとか「女王様系クールビューティ」なんて言われている。そして、

「時雨を二重にして、マスカラと付け睫毛を使って、唇と頬に少し色を載せると嘉月になる」

と言われる位、実はシグと似ている。この辺りがポイント。



女装に抵抗が無くて、大人しくて、「美少女」と言われていた妹をちょっと地味にした感じで、姉の友人にはアウトサイダーやアウトサイダー気取りが多かった。それが、アノ事件を引き寄せてしまった原因だった。


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