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天然系王子  作者: 森草華
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 秋も終わりが近付き、冷たい風が頬を刺すように通りすぎる。吐く息はまだ白くはないが、もうじきそうなるだろう。

 寒さを遮断するかの如く締め切られた教室の窓は、休憩時間になるとどの教室も少しだけ開けられて換気をする。しかし、早夜がいる教室の廊下側の窓やドアは昼休みになると全て開け放たれている。

 理由は追々分かるとして、今日はその入り口で普段とは違う光景が繰り広げられていた。その光景を、クラス中が心配そうに見守っている。

 その視線の先には早夜ともう一人。


「井沢さん」

「はい。何ですか?」

「俺、井沢さんのこと好きなんだけど、付き合ってくれない?」

「…………えぇぇっ!?わ、私っ?」


 目の前にいる男子の思いもよらなかった言葉に、早夜はその意味を理解するまでに数秒を要した。

 いつものようにお弁当のバックを持って教室を出ようとした瞬間に、隣のクラスの男子が早夜の名を呼んで引き留めた。何度か話したことのある男子だったが、あいにく咄嗟に名前すら出て来ない。何だろうと思う間もなく、男子から告げられたのは先程の言葉だったのである。

 早夜は生まれてこのかた告白されるのは初めてのことだった。早夜から告白したのだって、尚と出会うきっかけだったあの一回だけである。実際は告白も出来ていないのでノーカウントなのだが。

 なので恋愛に関しては免疫などもっているはずもない。

 初めての告白。しかも教室でクラス中が見ているという状況に一気に身体中が熱くなる。

 告白した男子の顔もまともに見られないまま、あ…うぅ…と文章にならない言葉が早夜の口から漏れる。

 …な、なんで私なの?というか本当に私に?ど、どうしたら良いの?

 思考がぐるぐると巡りながら、早夜は訳も分からないまま口を開いた。


「あ、ぅ…ご、ごめんなさい!」


 思い切り頭を下げて叫ぶように告げると、クラス中がほっとしたように緊張を解いた。


「…そっか。やっぱり日向先輩には敵わないんだ」

「へっ?」


 聞いてくれてありがとな、とよく見ればそれなりにかっこいい男子は爽やかに去っていく。その後ろ姿を早夜はただ呆然と見ていた。

 …何だったんだろう、今の。告白、されたんだよね?…私、こ、ここ告白された!

 一人であああああ…と悶えながら、先程の出来事を反芻する。すると頭の中に尚の顔が突然浮かんで、さらに早夜を悶えさせた。

 …な、なんでここで先輩が出てくるの?そういえば、さっきの人も先輩のこと言ってたような…。


「あ、さーや。そんなところに立ったまま何してるのー?」

「うわっ!ほ、本物が出た!」


 教室の入り口に突っ立っている早夜の前に、尚がひょっこり顔を覗かせる。

 すると先程まで注目していたクラスメイトたちは安心したように、それぞれお昼に向かう。いつもの光景にほっとしたのだろう。

 早夜を迎えに来たあの日から、お昼になると必ず尚は迎えに来る。だからお昼になると、尚が早夜を見付けやすいように窓やドアを全開にするのだ。

 寒いだろうに、何かと協力的なクラスメイトたちに脱帽である。

 そんなクラスメイトたちの涙ぐましい努力など露知らず、思わぬ本物の登場に、早夜の顔は先程よりも赤く染まる。いきなり赤くなった早夜を見て尚は首を傾げる。


「どうしたのー?さーや、顔が真っ赤だよー?」


 尚は早夜の頬っぺたを両手で包み込見ながら、顔を覗き込む。

 …ち、近いんですけど!


「だ、大丈夫です!何でもないですから!」

「そうー?」


 早夜が大きく頷くと、尚は微笑んだ。

 早夜の髪を両手で挟んでくしゃくしゃにする尚に、早夜は少し目を細めた。そして早夜の頭の二つ分大きい尚の頭が私の頭に乗っかる。

 …うん。なんか最近、先輩のスキンシップが激しい気がするんだけど…。いきなり髪や頬っぺたを触ってみたり、抱き着いてきたり…。セクハラですか?

 今の状況もスキンシップとは言い難い。見ようによっては早夜が尚に後ろから抱き締められているような格好だが、早夜はそれに気付いていない。人前でそんな格好になっていると気付いていたら絶叫するに違いない。

 そこへひょっこり出てきた恵理は尚に向かって叫ぶ。


「先輩のさーやは今、告白されてたんですよ!こ、く、は、く!」

「あだ名が浸透してる!しかも先輩のじゃない!…じゃなくて、恵理ってば何言っ…」

「告白ー?」


 早夜の横から顔を出して早夜を見る。特にやましいことをしてる訳ではないのに、尚には知られたくないという気持ちが早夜の中で膨れ上がる。

 …なんでだろう?


「んー…」


 早夜の身体から身を離して、尚は腕を組んで悩み出した。いつもへらへらしている尚の珍しい表情に周りは驚く。早夜はどうしたのかと尚に話しかける。


「せ、先輩?何を悩んでるんですか?…って、聞いてます?」

「えー?俺もさーやに告白しようかなぁって」

「…なっ」


 尚の一言で、早夜は目をこれでもかと見開き、恵理はにやっと笑い、クラスメイトたちの視線は一斉に早夜と尚に注がれる。そんな中、当の尚はいつものようにへらへらと笑っていた。

 …また、突拍子もないことを…!っていうか、こ、告白って!あ、あの告白のことですか…!


「あのね、さーや。実はねー」

「ちょ、先輩待っ!こ、心の準備が…っ」


 早夜の顔は真っ赤に染まり、全身の血がすごい速さで巡っているようにどっどっどっ、と心臓の鼓動が痛いぐらいに響いている。

 …もしかして先輩、ほんとに私のこと…っ?


「俺ー、猫より犬派なんだぁ」

「…………。それは一体、何の告白ですか?」


 尚のまぶしい程の笑顔で告げられた告白に、早夜は真顔で問いただす。

 にこにことしている尚以外は肩をがっくりと落としていたのは言うまでもない。

 …ちょっとドキドキしちゃった自分のばか!


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