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天然系王子  作者: 森草華
2/6

 …あの天然王子と出会って早一日が過ぎました。ええ、一日です。昨日の忌まわしい思い出は完全に封印です。下着を見られたぐらいで動揺など…ううう、恥ずかしいいい!

 そして、昨日の事件ぐらいのピンチを早夜は迎えていた。

 …け、携帯電話がない!

 一体どこで落としたのだろうと足りない頭をフル回転させる。早夜は携帯電話を携帯しないことも多々あるので、放課後まで携帯がないことに全く気づいていなかった。

 記憶を辿っていくと、ある結論に辿りついた。


「…まさか、屋上?」


 …いや、まさか。でも心辺りはある。

 尚の溝尾を足で思い切り踏ん付けて、屋上から去った時の事が頭に浮かぶ。その前までは確かにポケットに入っていたのだ。

 …行くしかない。たとえ先輩が昨日の状態のまま倒れてても…!

 どうか先輩がいませんようにと祈りながら、早夜は階段をかけ登った。そして、屋上へと続くドアを開けて予想通り、尚はいた。…昨日の状態のままで。


「せ、先輩!?」


 …わわわ!お父さん、お母さん、お兄ちゃんたち、犬の正夫、金魚の…(略)ごめんね!早夜は人をこ、こ、殺し…うわあああああ!どうしよう!

 早夜は青ざめながら、ばたばたと慌てて尚に駆け寄る。そして、そーっと尚の顔を覗き込んだ。


「あ、さーや」

「うぎゃあ!生き返った…!」


 尚はタイミング良くバチッと目を開ける。早夜と目が合うと嬉しそうに笑った。

 …あれ?先輩が生きてる…!お父さん、お母さ…(もういいって)早夜は無事に家に帰れます!

 ほっと安堵のため息をつきながら、どうせなら会いたくなかった…!という思いが沸き上がる。しかし、相変わらずにこにこへらへらしてる尚が昨日の事を気にしているように見えなかったので、早夜は尚に問う。


「せ、先輩。こんなところで何してたんですか」

「んー?さーや待ってたんだあ」


 にこっと微笑まれ、早夜の心臓は今までにないくらい高鳴った。

 …な、何?今の奇妙な心臓の音は…。こ、これだから顔の良い人は!


「な、何で?もし、私が来なかったらどうするんですか」

「大丈夫、大丈夫ー。さーやは絶対に屋上に来るってわかってたからー」

「決定っ?どっからくるんですか、その自信は!」


 早夜の言葉を聞いているのかいないのか、相変わらずにこにことしている尚に早夜は脱力する。

 …なんか、宇宙人と話しているみたい。あれ、そもそも私は何しにここに来たんだっけ?

 目的を忘れかけていた早夜は、思い出すと同時に尚に詰め寄った。


「あの、先輩。ここに携帯電話が落ちていませんでしたかっ」


 すると、尚は一瞬考えてからすぐにズボンのポケットを探った。


「はい。さーやの携帯…」


 なぜか申し訳なさそうに、早夜に携帯電話を差し出す。そんな尚を不思議に思いながら、早夜は携帯電話を受け取った。


「ありがとうござ…って、壊れてる!」


 うんともすんとも言わない携帯を見て早夜は絶句する。


「ごめんねー?汚かったからつい…」


 …あ、洗ったんですか?この人ならやりかねない!


「…拭こうと思ったら、手から落ちて、そのまま階段を滑り落ちちゃったんだー…」

「…なら、仕方ない、ですね…」


 文句の一つでも言ってやろう!と思っていたのに、しゅんとする尚を見ると全く違う言葉が早夜の口をついて出た。早夜の表情をチラチラと伺っている尚を見て完全に毒気が抜かれる。


「…もう、良いです。そろそろ機種変更しようかと思ってたところだったので、むしろちょうど良かったです」


 そう早夜が呟くと、尚はにこっと微笑んだ。


「じゃあ、早速行こうかー」

「え、えっ?ど、どこに行くんですか…」

「んー?携帯ショップー」

「え、今ですか!」

「そうだよー」


 お金は出すからねーと尚はのんびりと言うが、早夜の腕をとりながら屋上から出ようとしている足取りは迷いがない。

 あまり事態を把握出来ないまま早夜は携帯ショップまで連れていかれ、気付いた時には尚に進められるまま最新機種を手に入れていた。支払いは尚がとっくに済ませており、早夜がお金を渡そうとするとあののほほんとした笑顔でかわされる。

 何が何だか分からない状態の早夜は、尚も同じ機種に変えていたことにも気付いてはいなかった。そして、電話帳に尚の番号があることに気づくのは、その夜に尚から電話がかかってきてからだったのだ。


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