歯車
ふと空を見上げると、薄暗い雲が向こうに広がっている。どれ位歩いたのだろう。全く気にもならなかったが、今にも雨が降りそうだった。そういえばなんだか寒い。
「やっぱり山の天候は崩れやすいんだな。さっきまで半袖でも暑いくらいだったのに。まあ今の僕には何も関係ない事だけど…」
そう呟きながらここら辺で適当な木を探す為、リュックから紐を取り出し周りを見渡していた僕はギョッとした。
「自殺だ!!」
頭が真っ白になり、僕は無我夢中で木に括りつけられていたロープをナイフでかっ切って彼女を降ろした。幸い低い位置にある枝だったので、落ちた衝撃は少ない。心臓に耳をあてるとわずかに鼓動が聞こえてきた。
「ばかな、なぜ死のうとするんだ!まだまだこれからじゃないか!死ぬ勇気があるなら生きればいいじゃないか!」
まるで自分に言い聞かせる様に彼女を背負って僕は山を降りた。
-彼女は間一髪で助かった。まだ意識が回復していないので会話をする事は出来なかった。今、僕の心にはあの時の薄暗い空のような陰気さはなくなっていた。緑の木々が陽射しに当てられ、吹く風が心地よい、そんな憑き物が落ちたようなスッキリとした気持ちだった。
「よーし、よーし!やるぞ」
新たなスタートを踏むんだ!皮肉にも彼女のお陰なんてな(苦笑)今度お見舞いにこよう。色々話しもしたい。僕は病院を後にした。
それから数日後
-ピンポーン、ピンポーン…
夕飯の仕度をしているとチャイムが鳴った。インターホンで応答するとそれは意外な来客だった
「私、先日助けて頂いた者です。突然の訪問ですみません。どうしても直接お話しがしたくて…」
えっ?彼女?突然の訪問にとても驚いたが、僕は快くドアを開けにいった。
-その瞬間
僕に彼女が体当たりをしてきた。衝撃と共に下腹の辺りから熱さが込み上げてくる…何が起きたのか呑み込めない僕は、彼女の肩を掴みながらただただその顔を見つめていた…
「…探したわ…よくもわたしの人生だいなしにしてくれたわねぇ…やっと、やっと、かくごがついて、
死ににいったのにぃぃ…」
目を剥きながら更に彼女が体を押し付けてくる…
「しかもひどい後遺症かかえながらいきてかなきゃならないのよぉぉ…」
「よくもじゃましてくれたわねえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫の中で何度も何度も体当たりをされ、薄れゆく意識の中で僕はずっとなぜ?と呟いていた…
初めての投稿です。(^^ゞ主人公と彼女の真逆な姿を描いてみました。