Ⅸ:ちょめちょめ は やどや に しゅくはく した。
前回のあらすじ。
・森を抜けた!
・シズク達と別れた!
・タダ宿発見!
ゴゲーゴゴゴゴー!
グォオオオオオ!
「うぅっ……朝か……」
やけに低い鶏の声と、何かの雄叫びのような声を聞いて、ようやく目を覚ます僕。
魔物に囲まれてました。
「……って嘘ぉっ!?」
そんな馬鹿な!? 昨日は一切見なかったんだけど!?
あ。 ちなみに……今、僕の泊まっている部屋は、地下50階の一室。 つまり、脱出するのはあまりにも無謀。
さらに、(僕のゲームの知識では)地下深くに居る以上……今、僕を取り囲んでいる皆様は、このダンジョンの中でも最上級の強さを誇っているって事。
……あちゃ~。 完全に詰んだ。 Lv5で勝てる訳無いですよね。
『 ビックコッコー×5が現れた!
ブレードウルフ×3が現れた!
バシリスク×4が現れた!
リトルワイバーン×2が現れた! 』
……ねぇちょっと待って! 名前のわりにメッチャ強そうなんだけど!
リトルワイバーンって全然リトルじゃないし! 体長5メートルくらいあってメッチャ怖いんだけど!
次にバシリスク! 体が異様に燃えているせいか、ここまで熱気が伝わってくるよ!? どんだけ温度高いのさ!
そしてビックコッコー! お前、おちゃらけた名前の癖にメッチャ殺気だしてんじゃねぇよ! 絶対この中で一番強いだろ! 大体、鶏って間近で見たら腰抜かす位怖いんだぞ!? 見た目はデカくなっただけでもなぁ、迫力が桁違いなんだよっ!!
……と、心の中でツッコんでみる。 口に出さない理由? 襲ってきそうで怖いから。
「くっ……」
寸分の狂いもなく四面楚歌な状況。 どうする……!?
……幸いな事に、今、僕が籠城しているベット(つまり籠ベット)には何らかの仕掛けがあるらしく、魔物達は少し離れて取り囲んでいるだけ。 まだ勝機はあるはずだ。
「……ピュイ……?」
「……ピャピ……?」
「あ。 やっと起きたか2匹共」
……そんな僅かな希望に縋り付こうとしていると、隣で忘れかけていた2匹が目を覚ます。
「…………あ」
そう言えば、ショボンはLv50だった!! コレはいけるぞ!!
僕は即座に2匹に命令する。
「ショボン! ビックコッコー目掛けて【氷結撃】!」
「ピュイィッ!」
ショボンの身体が凍りついてクリスタルのようになり、ビックコッコーの1体目掛けて突撃。 吹き飛ばされたビックコッコーは、床に倒れるなり光の粒子となって消え去った。
……コレはいけるっ!
「キリー! ……えっと……」
やべ。 何覚えてんのかわかんね。
……よし。 来いやウインドウ!
『 キリー Lv50
HP 300
MP 120
魔法
・【灼熱地獄】:地獄の炎で敵を焼き尽くす。 溶岩もビックリな温度。…消費MP50
特技
・【火炎弾】:直進する巨大な火の玉を放つ。 某土管工の奴とは違います。…消費MP12
・【紅蓮撃】:炎を纏って突撃。 火傷注意。…消費MP8
・【体当たり】:そのまんま。…消費MP1
・【ドヤ顔】:見た者をイライラさせる。 相手の狙いを自分に向けさせるかも。…消費MP1 』
ウインドウキター!! ってかコイツもLv50かぁあああああ!!
「……じゃあ、バシリスクに【体当たり】!」
バシリスクに炎の技使ったら(当たったら)、絶対強化しちゃいそうだし。
「ピャピ!」
律儀に返事をしたキリーは、1対のバシリスクの下へ跳ねていき――
「ピイヤッ!」
――勢いをつけて跳び掛かった。 多分、そのままぶつかるんだと(ドゴォッ!)思「ギギィ……(ズウゥン……)」う……って何事っ!? あのプルプルした身体に釣り合わないような轟音と共に、バシリスクがきりもみ状に回転しながら吹っ飛び、壁にブチ当たったんだけど!? まさかの体当たりで十分説!?
「ピヤッピ☆」
そしてドヤ顔も欠かさない。 凄くウザい。
……まぁ、気を取り直して。
「ショボン! キリー! コイツ等を【体当たり】で追っ払え!」
「ピュイ!」
「ピャピ!」
2匹が、オーバーキル気味の【体当たり】で次々と敵をなぎ倒していく。 強ぇ~。
「ピヤッピッ!」
「グガァァァ……」
そんな事を考えている内に、キリーが最後に残ったリトルワイバーンを吹き飛ばし、光の粒子となって消える。 所要時間、僅か2分。 素晴らしい殲滅速度です。
「よし。 それじゃあ、ギルドへ行くぞ!」
「ピュイ~!」
「ピャピ~!」
~~1階へ移動中~~
「ぜぇ、ぜぇ…… やっと登り切った……」
階段長っ!? 30分位掛かったぞ!?
「ガーハハハハ! スタミナが足らんぞ、若造!」
……と、そこへ、あの猫耳マッチョが豪快に笑いながらやってきた。
「さて、若造。 この石板に両手を、手の平を下にして置くのだ!」
「は、はぁ……」
言われた通りに、台座の上に安置されている石板に手を置く。 すると、石板に魔法陣が浮かんできた。 ファンタジー最高~♪
そして、魔法陣が消えたと思ったら、小さいホログラムのようなものがゆ~っくりと浮かんでいる。 それは、さっき僕が(というより、ショボンとキリーが)倒した魔物達の横にローマ数字が記されたものだった。
「ふむ……ビックコッコー5匹にブレードウルフ3匹、バシリスク4匹、リトルワイバーン2匹か。 合計14匹だな」
……ん? 確か、タダになるのって15匹からだったよ~な……
「惜しいが、これもこの宿の決まりだからな。 料金として50Fいただくぞ。 恨むなら吾輩ではなく、己の未熟さを恨むんだな! ガーハハハハ!」
お金の単位が『ふぁんたじ』って……ってそんな事より、マズイ! このままだったら……
お金を払おうとしない僕に、段々イラついてくるマッチョ。
↓
あまりの怖さについつい口を滑らせ、無一文なのがバレる。
↓
げーむおーばー
ちょっと待って! げーむおーばーって何!? 僕の身に何が起こるの!?
くっ…… 僕のファンタジーライフをこんなところで終わらせる訳には……!
「……こうなったら、ショボンとキリーをここで仲間にした事に……(ボソッ)」
「ん? 何だと?」
「(ギクゥッ!)にゃ、にゃんでもにゃいですぅっ!」
盛大に噛んだ…… まぁ、それは置いといて、ショボン達はどこ行った?
……辺りを見渡すと、丁度真後ろに居た。ただし、気になる事が1つ。
「トリプルゥ!?」
「ピュイ?」
「ピャピ?」
「ピ~ィ?」
ショボンの上にキリーが乗り、その上に目が開いていない(『-ω-』←こんなの)緑色のスライムがぁっ!?
「む? その緑のは何だ?」
マッチョも混乱している様子。 ……っていうか、その言葉は『青いのと赤いのは初めからいた事を知ってる』と、遠まわしに言っているよね? 危ない危ない。
……その時、頭の中に、この宿からタダで出る妙案が浮かんだ。 これならいける!
「あぁ、コイツは、ついさっき仲間にしたんですよ。 えぇ、ついさっき倒して」
ゆっくりと丁寧にマッチョに説明する。 すると、マッチョはあっさりと騙されたらしく――
「そうなのか? ならば仕方がない。 料金はいらないから、さっさと帰るがいい。 ガーハハハハ!」
――そう言って、あっさりと帰してくれた。 ……嘘ついてマジすいません。
若干の罪悪感を感じつつ、去り際にさり気無く<ギルド>の場所を聞いておく。 ふむふむ、この宿の前の道を右に行って左に曲がってまた右に行くと見せかけて真っ直ぐ進むというのもブラフで後ろに1歩進むと異次元に進むから、そこを上に158歩、右に9845歩、下に852歩、左に486歩進んで、さらに……って長いわっ!!
……まぁ、そんな事は置いといて。
さぁ! <ギルド>へれっつ・ごぅ!