【短編小説】桜の育て方を知らない
日の報道を見て美羽は思う、あの時の自分を。自分のとった行動は間違っていたのだろうか。
いつものようにスマホで動画配信を観ながら晩ご飯を食べていた。もちろんフェノミナチャンネルだ。しかも今夜はライラのメイン回なのでリアタイしない手はない。毎週金曜の夜八時にチャンネルは更新されていた。先週の予告で「なんと次回はライラの自宅を公開だぁ」とリーダーが言うのを聞いた瞬間にテーブルを叩いて喜んだらインスタント味噌汁がこぼれてしまった。それから今日までとにかく金曜が待ち遠しかった。
『美羽、日曜に家に寄れない?母』
タイミング悪、この時間に連絡してくるとは不届きな母親だ。一瞬で上にスワイプし消し去った。
動画アプリから火がつき徐々に注目されてきた男性アイドルグループ『フェノミナ』。中でもライラが私の推し。
中性的なルックスで他を圧倒する存在感のライラはセンターボーカルを任されている。百八十センチの痩身でクセのある髪の毛は明るめのブラウン、小さな顔にマッチしている。トークでは周りのメンバーからの突っ込みにおどおどしているのだけれど、そこが好き、いやそこも好き。アイドルとしては少し控えめな性格も美羽の好みだ。
オープニングタイトルが明け、車の中にいるメンバー二人がこちらに挨拶してきた。美羽もこくりと頭を下げた。
流石に自宅に大勢で行けないとなりライラとリーダーの二人だけでの撮影となったと説明があった。カメラは主にリーダーが担当するらしい。リーダーの手持ちカメラでの撮影は揺れ、観ていると酔いそうになる。外観は無しでいきなり玄関に切り替わった。中に入るライラの後ろ姿を波打つカメラが追う。
おっ、意外とシンプルな室内だ、当然だけどウチより広い、あの洗剤使ってるんだ、テレビ大きい、キッチンと別に二部屋もある、広いなー、ここでライラが暮らしているんだ、どこだろう、いや詮索したら迷惑だよね、そんな痛ファンにはなりたくない、部屋着はグレーのスエットなのね、リーダー冷蔵庫も開けてよ。
スマホに向かって話し続ける美羽の瞳には、これまで知らなかったライラの情報がスマホから流れ込んできた。
「ここはダメですよ」
ライラはオフホワイトの扉の前に立ち、リーダーに向かって指でバツを示した。見ている美羽は、勝手に自分に向けられたハンドサインのように感じ胸がキュっとなった。片思いとはなんとも忙しく体に悪いものなのか。
「そっか、流石に寝室は見せられないか」
リーダーがちゃかすとライラは笑顔で「朝起きたままだから」と返した。
一通り室内を撮り、この後はいつも通り酒飲み配信になるのかなと美羽も缶チューハイを準備はじめた。しかしライラはおもむろにベランダに向かうとカーテンを開け(もちろん外はフルモザイク)ガラス戸の外から小さな物体を手に戻ってきた。
「なにそれ、植木?」
「いいでしょ、去年からミニ盆栽をやっていてね、これは桜」
「おいおい、イケメンアイドルが盆栽って」
「スタッフのちえさんから貰ったんだよ、今は枯れ木っぽく見えるけど今年の春は綺麗に咲いたんだよ」
両手を使ってコバルトブルーの鉢を持ったままライラは頬を緩めた。春の桜を思い出しているのだろうか。
「育てるの簡単なの?」
「水やりは重要、特に夏場はすぐ乾いちゃうから一日に何度も」
「そりゃ大変だ、でも夏はライブで地方も行ったよね」
盆栽、桜、盆栽、桜、美羽はぶつぶつと独り言を続けていた。欲しい、私も桜の盆栽が欲しい、ライラと同じ花を育てたい、でも今はライラの自宅を堪能したい。明日買いに行こう、行く。どこで売っているのかも知らずに誓った。
「そうそう、この子を育て初めてから長く家を空けられなくなってさ」
「そんな言い方したらファンが泣くぞ」
リーダーは笑っているが、ライラの表情は変わらない。
「命って尊いんだよ、初めて実感した。ライブの時この子はちえさんに預かって貰ってるんだ」
ちえさんはベテランスタッフさんで何度か配信にも登場していた。盆栽歴四十年だそうだ。
美羽は大切にされている桜に嫉妬した。私も桜を育ててライラと同じ感情に溺れたい。美羽は配信が終わっても暫くスマホを握りしめていた。
スマホの時計を見るともう十時を回っていた。テーブルの上の冷めた惣菜を見つめ、お風呂は明日でいいやとまた独り、スマホに話しかけていた。
翌朝、シャワーで昨日の汗を流しさっぱりした美羽はジャスミンティーを飲みながら盆栽を買える所を検索し始めた。
『盆栽』、『桜』、『お店』、この検索ワードで沢山の渋い店がヒットした。キーワードに『東京』を追加して検索し直すと意外と近くにお店があった。上野駅から徒歩十五分なら直ぐに行けそうだ。写真はお店っぽくないけれど販売コーナーもあるようなのでここに決めた。『不忍グリーンセンター』ゴルフ場みたいな名前だ。
美羽は休みの日にメイクをしない。顔が隠れる帽子にマスクで身支度を整え駅に向かった。最寄り駅から上野までは電車で十分。その間も昨日のライラの家の動画を見てマスクの下でニヤついていた。
上野駅に到着した美羽はスマホの地図を見ながらまず上野公園を目指した。その先の不忍池の左側を半周すると動物園に近づいてきた。独特な獣の匂いに懐かしさを覚える。すわ『不忍グリーンセンター』は見えてきた。
外壁はモルタルで町でよく見かける倉庫のようだ。中庭に一歩入るとそこには大小様々な盆栽が整然と並んで日光浴をしていた。すでに朝の水やりを済ませたあとのようで一面水浸しだった。葉についた水滴は光を屈折させキラキラと輝き美羽を迎え入れてくれた。
勝手がわからず端から眺めていく。いくつか知っている名前もあったが記憶の中の木々と目の前の小さな鉢の中のそれと紐付かない。半分ほど過ぎたところで小さなタグに桜と書かれた鉢をみつけた。これか、これを買えばライラと同じになれるのか、そう思ったがこの小さな物体に葉はなく枯れ木のようだった。本当に咲くのか、そもそもこれが桜かも判断つかない。お店の人に聞いてみようとあたりを見回すがどの人が店員なのかお客なのか見分けがつかない。
奥の建物に目を向けると一角にレジが置いてあった。その後ろには妙齢の女性がこちらに向かって座り何か作業をしている様子だった。美羽は桜と書かれた鉢を持って、おずおずと近づき声をかけた。
「あの、これって桜ですか?」
「……そう書いてあるなら桜だね」
「これが春になると咲くんですか?」
なんとも馬鹿げた質問をしてしまったものだ。ここは桜の名所、上野公園の直ぐ横なのだ。
しかし帰ってきた返事は予想と違った。
「初心者に桜は難しいよ」
「あ、でも桜が欲しくて」なんで初心者だと判ったのだろう。
「ここで桜かどうか聞くのは素人さんだよね、まあ試しに育ててみるといいよ」
「……はい、これをお願いします」
美羽は赤くなった耳を気にしながら三千円で購入した。新聞紙でササッと包み手提げ袋に入れられた桜は私の物になった。
帰宅した美羽はコートも脱がず、テーブルの上で桜を袋から出し新聞紙を剥いだ。中から取り出した小さな鉢に入った木は、美羽を除いて我が家で初めての生命体だ。ただの木がすでに愛おしく思えてくるから不思議だ。
一畳ほどのスペースのベランダに出て桜を置いてみる。ほとんど使わないので埃が積もっていた。直置きでいいのか判らないけれど乗せるものがないので仕方がない。スマホを取り出し写真を撮ってみるが小さな木の写真は味気ない。
コップに入れた水を注いでみた。表面の土がサラサラと溢れてしまった。もっと丁寧にしなければならない、頭の中でテッテレーと音楽が鳴り、美羽の盆栽スキルがひとつ上がった。
部屋に戻り今更ながらスマホで桜の育て方を調べてみる。水は切らさぬように、但し多過ぎてもいけない。肥料は春から秋に与える。日中は日光に当たる所で育てる。剪定は……。
ん?、日光?あれこの部屋たしか、夕方しか日が当たらない、それで家賃が少し安かったんだった。え、もしかしてウチじゃ育てられない?いや買っちゃったし、早く言ってよ、え、マジで?
どのホームページを見ても太陽不要とは書かれていない。そうだろう、冷静に考えれば小学校の頃に光合成とか勉強した気がする。
洗濯物は部屋干しするから日当たりを気にせず部屋を選んだ事を後悔していた。返品、出来ないだろうな。美羽はさっきのお店を思い出してため息をついた。ライラと同じなんてそもそも無理だったんだよな。数分前までの美羽のテンションはあっという間に散っていった。
さて問題はこの桜だ、もちろん捨てるとかは考えられない。
「ライラごめん」
そう言って美羽はさっきの写真を使ってフリマサイトに上げることにした。以前メイク用品を買った時に作ったアカウントが残っていた。
値段は千円にした。すでに二千円の赤字だ。どうやって送るのか梱包方法もわからない。きっとさっきのお店の人のような年代が買うのだろうと、安易に直接会って渡せる人専用に限定した。場所は上野でいい。ひとまずこれでアップした。
売れるのだろうか?いやそれまでに枯れてしまったらどうしよう。枯れているかどうかの判断がつかない美羽は一週間の期限を決めた。ダメなら実家にでも置いてこよう、母親の顔が浮かんだ。
『購入申し込みが来ました。反応して下さい』
ものの数分でスマホに通知が来た。え、早、娘を取られる親の心境とはこんな感じなのかと胸が騒ついた。購入希望は“さくらまにあ”というアカウント名だった。
『ありがとうございます、明日でも良かったらお渡しできますが如何でしょうか?』
美羽の連絡のすぐ後に返信が来た。
『明日の夕方なら上野いけます』
『では明日の午後四時、上野駅の浅草口を出た所のファーストフードのお店の前でどうですか?』
『わかりました、では明日』
意外とあっさり嫁ぎ先が決まってしまった。フリマサイト恐るべし。
翌日、一人で行くのが何となく不安になり数名の友達に連絡したけれど皆忙しいと断られた。変な人だったら危ないからスマホで録画しながら行ったほうがいいと言ってくれる子もいたけれど、そこまでは必要ないと返した。今思えばこの助言はとてつもなく重要だった。
翌日、帽子にマスクでは逆にこちらが怪しいかと思いマスクは外し、時間丁度に店の前に立って駅から流れ出る人並みを観察していた。
少し待っていると、前の道路に赤い車が停まりクラクションをプッと鳴らした。美羽が目を向けると助手席の窓が下がり、中から声をかけられた。
「桜の人ですか?」
ナンパかと思い視線を下げ無視した。淡い桜色のコートを着ていたからだろうか、なんともセンスのない声の掛け方だ。車が動く気配がなくまた何か言ってきた。
「すいません、“さくらまにあ”です」
ふっ、顔を上げる。あ、電車で来ると思い込んでいたけれど、そうか車で来たのか。美羽は車に一歩近づき中を覗きながら返事をした。
「すいません、てっきり駅から来るかと……、」
美羽は言葉が続かなかった。運転席にいるのはサングラスをしているけれど、間違えなくライラだった。
「え、ちょっと待って、え、ライラ、さん、ですか?」
「あ、はい」
無理無理無理無理、なんで目の前にライラがいる?私死ぬのか?もう死んだのか?走馬灯か?美羽は訳もわからず帽子をとって深々とお辞儀をして、すいませんすいませんと頭を下げた。
「ちょっと大丈夫ですか、何で謝るんですか」
「いやまさかライラさんがお相手だとは知らずにわざわざ上野まで呼びつけてしまい、本来ならこちらが出向くべき所ですので、すいません」
「まいったな、まさか僕を知っている人に会うとは思わなかったです」
美羽は手に持った桜をライラに捧げるように両の手でしっかり支えた。
「これです、どうぞ」
「ありがとうございます、そちらに行きますね」
そう言うとライラは運転席から降りてこちらに歩み寄ってきた。ライラが近づいてきた。世間的にはまだ有名になりかけているだけなので人が集まるような事はないけれど、それでもあのビジュアルは通行人の視線を集めた。
ライラが白いパーカーで赤い車の横に立つと、まるでドラマのワンシーンのようだった。
「あの、やはり車の中で話しませんか、視線が気になって」
「え、あ、はい、でもいいんですか?」
もちろんですと言ってライラは助手席のドアを開けた。美羽は夢心地で真っ赤な車に乗り込んだ。ライラが軽くドアを押すと音もなく閉まった。高級車なのだろうけれど全く知識がなくわからない。ライラが運転席に乗り込むと、ほんのりミントの香りがした。
「改めまして、こちらが桜になります」
美羽は桜を渡した。
「はいありがとうございます、ところでこの桜はどうして売ろうと?」
美羽はライラに影響されて買った事、日光が当たらない事、その他を一気に説明した。ライラを推している事も途中に何度も繰り返した。
「そうなんだ、嬉しいけど残念だったね」
ライラはサングラスを外して続けた。
「僕は盆栽を増やそうと思っていたんだ、そうしたら偶然あのサイトで見かけてね、普段は対面なんて行かないんだけど、きっとおじいちゃんかおばあちゃんだろうから平気かと思って、そしたらこんな綺麗な人で驚いた」
ライラから綺麗と言われて脳の血管が激しいビートを刻み出した。しかも心なしかライラの言葉が柔らかくなってきた。幸せだった。美羽は神様と盆栽屋のおばちゃんに感謝した。
ただ、憧れの芸能人と二人だけで同じ車の中というのはあまり居心地がよろしくない。
「では私はこれで、今回はお買い上げありがとうございました」
後ろ髪を引かれながら、まるでお店のような事を言い車から降りようとした時にそれは起こった。
ライラが私の右手を掴み、こう言ってきた。
「良かったら今からウチに来ない、ここから近いんだ」
「…………」
「僕のファンなんだよね、いいでしょ」
どういう展開?手を握られた最初の、ほんの最初だけドキッとしたけれど、密室でのそれは恐怖でしかなかった。止めてくれライラ、ライラは男だけど、男性だけどそんな雄の匂いがしないのが良かったのに、ライラも他の男と同じなのか。呼吸をする度に恐怖が増してくる。怖くて苦しくて悔しかった。それでも推しからの誘惑を本当に断っていいのか行くべきかが頭の中でループしていた。いいでしょって何だ?何がいいのか?いいのか?私はいきたいのか?しかし答えは変わらない、だめだ。
「いや、帰ります」
「いいのかい、こんなチャンスもう無いよ」
自分の事をチャンスとか言うんだ。美羽はすでにライラに対する感情が冷え切ったのを自覚した。凍りついていた。
「いつもこんな事してるんですか、幻滅です」
美羽はドアを開け車から飛び出し思いっきり強く閉めた。
開いたままの窓の中からライラの声が聞こえた。
「なんだよブス」
ブスで悪かったな、私より三つも年下のくせに。怒りが込み上げてくるけれど、同時に涙も溢れてきた。ドアの音で周りの人がこちらを注目していたが堪えられずに泣いてしまった。マスクをしておけばよかった。
周囲の視線を感じたライラは赤い車を一気に加速させ走り去った。
あれからフェノミナチャンネルは見ていない。だからライラの近況も知らないし知りたくもない。ただあのフリマサイトのアカウントは残していた。何故だろう、よく分からないけれど推しと繋がれた事が嬉しかったのだろうか?自分ではもうそんな気は更々ないと思っているのに。あんな思いをしたのに。
ただしフェノミナファンのグループは抜けていない。そこで仲が良くなった人もいるのでメッセージのやり取りだけはしていた。でもあの出来事はみんなには話していない、とても話せない。
そんな中、グループで盛り上がっているのは次のツアーの事だった。私はもちろん行かない。みんなのコメントをなんとなく流し読みしていると、あるコメントにふと目が留まった。
『ライラが育てている盆栽を抽選で一名にプレゼントするって言ってたよね、みんな申し込むでしょ』
『しかも直接手渡しでもらえるって神よね』
マジかあの男、まだ懲りてないのか。なんならその盆栽は私の盆栽だろう、友だちを守らなきゃ。美羽はスマホのボイスメモを開き履歴を見つめた。録画はしていない。でも録音はしていた。ポケットの中なのでクリアには聴こえないけれど、ライラの名前の確認やその後の事もしっかり残っていた。
どうしよう、公開して糾弾するか、どうやって公開しよう、でも自分だとは周りにはバレたくない。
週刊誌に売ると言っても、そこまで知名度はないから相手にされないかもしれない。
捨てアカウントでSNSに上げるか、でもファンに伝わらなかったら意味がない。
色々考えた結果、このファングループ内で公開すべきと思考が行き着いた。別のアカウントを作ってここに入り、そして公開しよう。そうすればここの皆んなは守れるかもしれないし私の身バレもしない。
新しくアカウントを作り名前はザクロとした。フェノミナ関連のアカウントをいくつかフォローしプロフィールには『フェノミナファンと繋がりたい』と書いた。そんなザクロを美羽は招待した。
『はじめまして、ザクロですよろしくお願いします』
『こちらこそよろしく、まるちゃんの紹介なのよね』
まるちゃんというのは私のハンドルネームだ。
『はい、実は皆さんに聞いてもらいたいものがあって』
『なになに』
『フェノミナ関連なら大歓迎ですよ』
ザクロ(私)は録音データをアップした。全体でも十分ほどの音声データなのでなんとか一気に上げることが出来た。
『え、なにこれ』『どゆこと』『ライラ担、知ってた?』『なにこれ嫌がらせ?』『ザクロさんこれはあなたの声?』『まるちゃん、このザクロってだれなの?怖いんだけど』『でも声はライラだよね』『ほぼアウトじゃないのこれ』『やばくね』
美羽の想像ではすぐに拒否反応が出てザクロは追い出されるかと思っていた。実際はそれとは少し違っていた。皆んな薄々気付いていたのかもしれない。知らなかったのは私だけだったのか。そしてこの音声はファンの間に伝播した。
現代の情報拡散スピードは光の速さで世界を巡る。売れかけアイドルの末路を見るまでそれほどの時間はかからなかった。
活動自粛、ライラの脱退、解散、引退、あれよあれよと話が進み、所属事務所は閉鎖した。
あれから一年、今ではフェノミナの名前を覚えている人もほとんどいなくなっていた。ファングループも自然と人が寄り付かなくなっていた。仲の良かった子とはたまに連絡するけれど一切ライラの話は出ない。美味しいランチや会社の愚痴など健全な女子トークになっていた。
そんな頃、フリマサイトに通知が来た。
『お前がザクロだよな』
さくらまにあからの連絡だった。あの音声と共に、ザクロと言う名前もフェノミナを潰した女としてネット上で暫く見かけていた。ザクロのアカウントは直ぐに削除していた。もう誰も覚えていない、一人を除いては。騒動の最中ではライラも連絡出来なかったのだろう。やっと世の中から忘れられ動き出したといったところか。無視しているともう一通着信した。
『どういうつもりだ、ふざけんな、許さない、殺す』
このアカウントを残していた理由、それはこれだった。下手に隠れれば向こうはどんな手段で私を探すかわからない、人生を台無しにされたと怒り心頭だろう。この連絡先を残しておけば間違えなくライラは釣れる。何故か自信があった。いっとき単推しだった経験がそう思わせるのかもしれない。
殺人予告の脅迫。このメールを警察と週刊誌に送って元ファンとしての最後のミッションは完結した。
ライラの家のベランダには水を与えられずに乾燥した桜が二鉢並んでいるのだろうか。可哀そうだが保護する術はない。二度もメディアやSNSでその名が知れ渡ったのだ、ライラも本望だろう。やはり後悔はしていない。
ファンを馬鹿にする人は許さない。そして私はブスじゃない。
完




