露見
「何だか妙な雰囲気ですね、ウィン様」
「そう? 貴族なんてみんなこんなもんだろう」
ウィンは玄関正面の広間を眺めた。
広間に、二〇歳前後の青年がくつろぐでもなくぼんやりと立っていた。彼も顔色が悪い。
「何だか妙な雰囲気だなあ」
「だからそう言ったじゃないですか」
そのとき、女性の悲鳴が聞こえた。
「悲鳴だね」「悲鳴ですね」
青年がウィンを制止しようとしたが、その前にウィンは走り去ってしまった。
声がした方に向かって廊下を走っていると、部屋から三〇歳くらいの女性がよろめきながら出てきた。直毛の長い黒髪に、青色の瞳の美女だ。やはり顔色が悪い。手を固く握り締めて、ぶるぶると震えている。
「どうかしましたか? 夫人」
「いえ別に……。あなたは?」
「監察使のセレイスと申します。この部屋で何か?」
「か、監察使!? 監察使殿がなぜここに」
「まあ、いいからいいから。ちょっと失礼」
ウィンは、ガルトレン夫人と思われる女性の脇を抜けて部屋に飛び込んだ。暗くてほとんど何も見えない。奥にも部屋あるらしい。扉から明かりが差し込んでいる。
奥の部屋をのぞくと、一人の男が床にうつぶせで倒れていた。
口から血を吐いている。
「ウィン様、これは……」
「死んでるね。気持ち悪いなぁ」
「ウィン様、不謹慎ですよ」
ウィンは、死体に触れた。
「心臓は止まってるね。息もしていない。やっぱり死んでる。気持ち悪いなぁ」
顔をしかめながら、死体を仰向けにした。体には特に出血は見られない。
「外傷もなさそう、だね。ん、このニオイは?」
ニオイは、死体の口元から漂っている。吐血か喀血かは分からないが、血を吐いていることも考え合わせると薬物によるものか。つまり、自然死ではない。
寝台の近くの棚には、得体の知れない液体が入った小瓶が数本並んでいる。高価なガラス製の小瓶をこんなに所有しているとは、裕福な貴族らしい。
どの小瓶も液体がいっぱいまで満ちており、飲んだ形跡はない。だが、死体の付近には薬品の瓶のようなものは見当たらなかった。
全ての液体のニオイをかいでみたが、死体の口元から発せられているニオイと同じものはなかった。
ここにある液体とは違うものを飲んだということだろう。




