招かれざる客人
「ふむ、すっかり日が暮れてしまった」
「道に迷ったからでしょう」
「困ったな。もうすぐ真っ暗になってしまう」
「あそこに明かりが見えますよ。人家ですよ」
「こりゃいい。一晩泊めてもらおう」
玄関の扉をたたくと、使用人が出てきた。彼は「取り込み中である」と言って扉を閉めようとする。
「私は帝国監察使です。日没になってしまい難儀しております。一晩泊めていただけませんか」
「て、帝国監察使!?……様でございますか。少々お待ちを」
主人にお伺いを立てるためだろう。使用人は屋敷の奥に走り去った。
「監察使の肩書を持ち出すなんていやらしい……」
「せっかくなんだから活用しないと」
そうこうしているうちに、立派な身なりをした男が先ほどの使用人と共にやって来た。この屋敷の主人だろう。髪と髭は赤茶色で、顎ががっしりとした無骨で貫禄のある容貌だ。
「帝国監察使が、なにゆえ当家に?」
「いや、貴殿に用はありません。ブレンナーレ伯に呼ばれたのですが、道に迷っているうちに日が暮れてしまったというわけです」
聞きようによってはかなり無礼な物言いである。
屋敷の主人らしき男は、まだいぶかしげにしている。
「ああ、申し遅れました。私は帝国監察使のヘルル・セレイス・ウィンと申します」
「ヘルル?」
男の目に侮蔑の色があからさまによぎった。「貴族の子」を意味する「ヴァル」号を持つ生まれながらの貴族は、「平民の子」を示す「ヘルル」を冠する成り上がり貴族を蔑視する。だが、監察使という肩書を思い出したのだろう。すっと表情を消してウィンに向き直った。
「私はヴァル・ヘイセイス・ガルトレン。ブレンナーレ伯に仕えている」
ガルトレンは、何かひどく逡巡しているような顔をした。改めて見ると、顔色が悪い。憔悴の色も見える。
「ヘイセイス卿、いかがなされた? 体調が優れないのですか?」
「い、いや。まあ……そういうことであれば、一晩と言わず、ご滞在ください」
ウィンが監察使と名乗った以上、ガルトレンにはウィンを招き入れる以外の選択肢はない。貴族は監察使の職務遂行のために便宜を図る義務を負う。
こうして、ウィンとアデンはガルトレンの屋敷に招き入れられた。




