息せぬ客人
「名もなき帝国の物語」シリーズの番外編です。
「ミステリー的な」体裁を取っていますが、ミステリーと名乗れる要件は満たしていません。
「父上、叫び声が聞こえませんでしたか?」
「叫び声?」
青年とその父は、耳を澄ませた。
――遠くで、わめき声のような声が聞こえた。
「……ポセワイゼス卿の声ではありますまいか」
「そのようだ。こうしてはおれぬ」
この屋敷の当主、ヴァル・ヘイセイス・ガルトレンとその長男ガルダレンは、客人が三日前から逗留している客室に向かって走った。
客室からうめき声が聞こえる。この部屋で間違いない。
客室の扉の内側にかんぬきが掛けられていて開かない。扉をたたいて呼び掛けたが返事がない。
「父上、お下がりを!」
ガルトレンが脇に避けると、ガルダレンが扉に体当たりした。
びくともしない。
二度三度と体をたたき付けると、木製のかんぬきがへし折れて扉が開いた。
客室は暗闇で、ほとんど何も見えない。奥の寝室へ通じる扉が開いており、ろうそくの明かりが漏れている。ポセワイゼスのうめき声はそちらから聞こえる。
「ガルダレン、寝室だ」
「はい、父上」
寝室に飛び込んだ二人は、血を吐いて床に倒れているポセワイゼスを発見した。彼は、既に事切れていた。
「父上……」
「間に合わなかったか」
二人はポセワイゼスの死体を呆然と眺めた。
そのとき、執事のゲルネセルムがおずおずと寝室に入ってきた。
「旦那様」
「今度は何だ!」
「お客人がお見えでございます」
「客だと!? 取り込み中だ。追い返せ」
「それが、帝国監察使であると名乗っていらっしゃいまして……」
「か、監察使だと!?」




