踏切の奇跡
お正月をテーマにした短編です。
短いので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
会社のカレンダーではとっくに年末年始の休みなのだが、クライアントの決済システムに不具合が生じてしまい、その不具合対応のため、本日も絶賛勤務中だ。
「せんぱーい、なんで、先輩と僕の二人が、この不具合対応に選ばれちゃったんっすかね?世の中、大晦日真っ最中っすよ」
と半分愚痴り気味に、一緒にこの不具合対応で勤務中の先輩に聞いた。
「あ?そんなの決まってんだろ。俺たち、独身で彼女もいねぇ、ぼっちだからだよ!」
と先輩はあっさりと答えた。
「っすよね、やっぱり。なんか不公平だよなぁ」
と更に愚痴を言ってしまう僕だった。
そんな愚痴を言いながらも、仕事は仕事。何とか、夕方までにはシステムの不具合を修正することができ、無事、年内の業務を終了した。
業務終了後、先輩に「飲みに行こうぜ!」と誘われ、僕たちは会社と道を挟んで反対側にある、行きつけの居酒屋に行った。
大晦日なので早く閉まる店が多い中、この店はカウントダウンイベントと称して、元旦の朝までお店を開けていた。
深刻なシステム障害を何とか短時間で修正できた達成感と、こんな日にぼっちで仕事をさせられているというやるせなさがあり、また、明日からは正月休みでもあったので、先輩と僕はリミッター解除モードで盛大に飲んだ。
あまりにも多く飲みすぎたため、途中から記憶がない。
元旦の朝、僕は二日酔いの頭痛と共に目を覚ました。
「うっ」
思わず声が出る。
「はぁ、調子に乗って飲みすぎた。でも、無事にアパートには帰れたんだ」
とつぶやく。
そして、ふと横を見ると、見慣れない風景が視界に入った。
隣には、知らない女が寝ている。
昨日の出来事を思い出そうとしばらく考えたが、どうしても思い出せない。
「だめだ。思い出せない」
僕は思い出すのをあきらめて、ベッドをそっと抜け出し、シャワーを浴びた。
シャワーの後、何か飲むものがないか探すため、冷蔵庫を開けた。
すると、冷蔵庫の中身が、いつもと違うことに違和感を感じた。
「あれ?こんなのいつ買ったっけ?」
とつぶやいたとき、女が起きた。
女は「朝食を準備するわね」と言って台所に行き、調理を始めた。
少しすると、二人分の朝食が準備され、テーブルに並べられた。
僕も女もダイニングの椅子に座り、食べ始めることとした。
僕はこの女が誰か聞こうと、
「ええっと、…」
と言いかけたところ、女が、
「あ、そうだ。新年、明けまして、おめでとうだね」
と言い、更に続けた。
「この後、初詣に行くでしょ?どこに行く?いつもの神社でいいよね?」
僕は、いつもの神社がどれかピンとこないまま、
「あ、うん」
と思わず返事をした。
女は笑顔でうなずき、
「じゃ、さっと食べて、出かける準備しよ!」
と言って、食事を続けた。
そして僕も、これ以上聞くのはやめて、食事を続けた。
食べながら、ふと、部屋の中を見回して、更なる違和感に気付く。
自分が一人で暮らしているいつもと同じ部屋なのに、この女のものと思われる荷物もそろっている。あたかも、この女とここで長く二人暮らしてきたかのように。
いろいろと違和感を抱えながらも、出かける準備をして、女と一緒に初詣に向かった。
『いつもの神社』がどこのことかさっぱり見当もつかないまま、ただ、女について歩いた。すると、アパートからそれほど離れていない場所に神社の入口があった。僕はこのとき、アパートからこんなに近いところに神社があることを初めて知った。
境内はちょっとした高台の上にあり、そこに行くためには、少し長くて急な階段を登る必要がある。
階段を上って境内に着くと、そこからは自分が住んでいる街が一望できた。なかなかいい眺めだ。
初詣の後、二人はしばらく近くの大きな公園を散歩した。
公園では、正月らしく、凧あげをしている親子が何組かいた。
「お正月の凧あげは、昔も今もかわらないね」
と女が言って、僕もうなずいた。
その後、二人は何となく駅前の商店街の方へ向かって歩いた。元旦のため、ほぼ全ての店は閉まっている。
そんな中でも、ハンバーガーショップは営業をしていた。
「ここでお昼にしよっか」
と女が言い、そこでお昼を食べることにした。
その後、二人はまたしばらく散歩をして、駅の近くのコンビニで買い物をし、僕のアパートに向かった。
途中、駅の横にある踏切を通った。
この踏切は、一度遮断機が下りると、電車が連続して何本も通過するため、なかなか通れないのだが、今回はタイミングが良かった。遮断機は上がっており、二人は待つことなく、踏切を通過することができた。
踏切を渡るときに女が言った。
「私ね、この踏切で待つの、結構好きだよ。踏切が開くと、何か良いことが起きる気がして、ドキドキするの」
それに対し、僕は、
「へぇ、そうなんだ。僕は、この無駄な時間をかえせぇー!って思うけど」
と少し笑って答えた。
女も笑って言った。
「もう、夢がないなぁ」
夕食は、コンビニで買った惣菜の組み合わせで簡単に済ませて、同じくコンビニで買った缶ビールを飲んだ。女も僕も2缶ずつ飲んだ。
今日初めて会ったはずなのに、一日一緒にいると、何だか長く一緒に暮らしてきた夫婦のような錯覚に陥る。このまま続けばいいのにと思ったりもした。
少し酔いが回ってきたところで、僕は、ついにこの質問をした。
「ねえ、ところで、一体君は誰なの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
女は少し驚いた表情で言った。
「まぁ、今日一日一緒に過ごしたのに?」
そして少し間をおいた後、笑顔で続けた。
「でも、明日になったら、きっとわかるわ」
「じゃあ、明日まで待つか」
と僕は言って、それ以上は聞かなかった。
僕はビールを2缶飲むと酔いが回って、いつのまにか眠ってしまった。
次の朝、ベッドの上で目が覚めた。
ふと横を見ると、あの女はいない。
部屋中を見回すが、やはりいない。
部屋は、いつも通りの一人暮らしの部屋だった。自分のものしかない。
冷蔵庫を開けてみたが、中にあるものは、見慣れたものだけだった。
スマホを見ると、日付は元旦だった。
「そっか、夢か。だよな。そんなふざけた話ないよな」
それにしてもリアルな夢だった。
少し落胆した。
僕はいつものようにシャワーを浴び、トーストとコーヒーで朝食を済ませた。
その後、スマホでしばらくニュースを読んでいたが、ふと、夢のことを確かめたくなり、出かける準備をした。
アパートを出て、夢の中で女と一緒に歩いた道をたどった。
少し歩くと、そこには夢で見た神社があった。
「これ、正夢だ」
とつぶやいた。
その後も引き続き、夢の中で歩いた道をたどって散歩した。
公園に行き、駅前の商店街に行き、ハンバーガーショップで昼食をとった。
その後、また散歩をして、コンビニに行った。
コンビニで、いくつか夕食用にお惣菜とビールを2缶選んでカゴに入れた。
レジに向かおうとして、またビールコーナーへ戻った。
そして、僕は、更に缶ビールを2缶つかんでカゴに入れ、レジで会計をした。
コンビニからアパートに帰る途中、駅の横の踏切にさしかかった。
わたる手前で、方向表示器に上り電車通過の矢印が点灯し、カンカンと音を立てながら、遮断機が下がった。
「あちゃー。タイミング悪かった」
僕は心の中で言った。
駅の方を見ると、駅には、上りの各駅停車が停まっている。
その電車が駅を出発して踏切を通過している途中に、今度は下り電車通過の矢印が点灯した。上りの各駅停車が通過して少しすると、今度は下りの電車が通過した。
下り電車が通過した後、方向表示器には未だ上り電車通過の矢印が点灯した状態で遮断機は下がったまま、カンカンと鳴り続けている。次は上りの急行電車だ。
やはり、この踏切は一度閉まると長い。
三本の電車が連続して通過した後、やっと踏切は鳴りやみ、遮断機がギーっと音を立てながら上がった。
ホッとした僕は踏切を渡ろうと踏切の向こうを見た。
そして、僕はハッとした。
「良かった。君も正夢だった」
僕は言った。
踏切の向こうに女が立っていた。
「うん、私も。ね、やっぱり、良いことが起きたでしょ」
そう女は言って笑った。
僕も笑った。
僕は踏切を渡り、女と手をつなぎ、そして、二人で僕のアパートへ帰った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




