俺の周りにある人生なんて無駄に過ごしてきた生き方と肯定されて生きてきた生き方なんだろう。端的な生き方で安心するよ。俺より酷い人生なんて歩んだことがないヤツらを見下せるのだから。
自分はあの小学校時代でどうやって駆け抜ければよかったのだろうか。どうやればあの苦痛から抜け出せたのだろうか。どうすれば俺が受けた本当のことを伝えられたのだろうか。ずっと遅刻も欠席もしたことがなかった俺はどうやったらヤツらに何も悟られない行動ができたのだろう。運動神経も頭の良さでも、技術も何もかもが勝てない、いや勝ったらいけなかったんだ。一度、たった一度だけクラスで運動神経第一位のヤツを競走して勝った事があった。それまでに走る練習をたった一人でトラックを走り続け、鍛えた。だが、勝てば何が待っているか。それは容易に想像ができる。責められるのだ。勝った、という事実はたった一回であっても例えまぐれであっても、表面的には汚点の思い出として頭に残る。変わらない事実からの逃避がしたい、そうやって考えどうやって事実をもみ消すか考える。最後にこういう考えに行き着く、『あの時は不調、または傷や怪我を負っていた』。子供であるヤツは考えただろう。『自分を負かしたアイツと喧嘩して自分が殴られたのなら殴り返してボコボコにしてやろう』、と。そうして放課後に俺は呼び出された。殴られたよ、呼び出された場所に行った途端に。勿論、何回も殴られた。俺も引っ掻いた。この行動をした時点で俺は罠にはまった。引っ掻いた事実は変わらない。周りで待機していた連中にサンドバックにさせられた。俺が帰れたのは最終下校時間を一時間過ぎた七時。途中でバットとラケットて、知らんがな。来ると思うわけねぇだろ。次の日の朝礼で吊し上げられた。名前を全員がいる前で言われ、ない事ばかりを言われた。ここで、俺への偏見が広がったってわけだ。
自教室に戻ると、誰もいなかった。案内が終わると丁度休み時間と時間が重なり全員学校をうろうろしているのだろう。ただ興味関心全くなしの校内を廻るのはまだ早いと感じた俺は教室に戻って本でも読もう、と考えたわけだ。ついでに自分のロッカーの確認をしてもいいか。前の教室に入る時の苦しさはなく、そのままご入場。誰もいないから、とわざと上履きで床を踵から落とし最後に爪先までをつけるようにして音を出して歩く。
うん、この音やっぱり好きだな。個人的にはハイヒールもよき。
自分の机と椅子を指先で少しなで「一年か、もしかしたら卒業までかもしれないがよろしく。」と独り言。次はロッカーに挨拶するか、と考えた時に一つのロッカーが音を立て動いた。ドアがガタガタしただけか、だがそんな欠陥がこの学校にあり得ていいのか?気になって近付いた。
その行動は失敗だったな。うん、今でもそう思う。
ガタガタ…ダダダダダダダダダダダダダダ…
連打すんなて、太鼓の達人かよ…
「何が音を立ててんだか…」
ガチャ…
目の前にあったのは白い、何というか柔らかいがまな板だった。
「グハァ…」
「う…うぅ…苦しかったぁ〜、いやぁ〜やっと快適な感じだねぇ。」
「ほいほい、ほけってふるしい、ふるしいから…」
「へ?えぇっと…うぅんと…誰?」
「ひや、ほひはへす、ほけっつっへんほ、はへれへんはほ…」
「へ?なんて言ってんの?聞こえない。」
あぁ〜、このアマ揉みしだいてやろうか。
「ちょっとぉ、今変な事考えたでしょ。揉みしだいてやろうかって、サイテー。」
このアマ、無臭だし。もっと臭いさせろ。コイツ重いし。どけって、邪魔だから。あと、揉むところなかったわ。マジでこういう誤解される場面見られるとまた社会的に死ぬから。
「何ィ!臭いないは女子にとって至高ォ!重いって言うなァ!揉むところないのは…悪かったな…」
なんか嫌気がさしたため、手でどけた。
「何すんだよォ!私がベッドにいたのにィ!」
「俺はベッドじゃねぇ。あと、お前女子だったんだ。気付かなかったわ。」
「っくぅ…コイツマジで。潰してしまおうか!」
「潰してもお前みたいなヤツに懐きもしないし、好感と信頼も生まれないだろうし、信仰も生まれない。実際、潰したら俺お前に何もできないだろ。いやする気もないけど。」
「貴様は許さん!絶対に!ぜぇったいィ!貴様が言う私は、昔告白ばかりされるものだったんだぞぉ。逆に今二人でいる事を誇り、いや自慢にしても良いぞ!」
「自慢とか、そんなんするだけで青あざ以上は保証されてるみたいなもんだろ。お前、昔だけだろ。モテてたの。あとはモテ期いらないし。」
「現在進行形だ!さっきのは言葉の綾だ!」
こんな意味のない言葉のキャッチボールをしていると廊下から足音がした。おいおい、死ぬぜぇ、俺ら死んじまうぞぉ!(社会的に)
「隠れろ、マジでマジで。」小声で…
「どうして?」普通の声で…
「いや、誰か来てんだろ…」小声で…
「それが?」普通の声で…
「あぁ、やっぱりこのアマ黙らせるのこれしかないか、一緒に隠れるぞ…」小声で…
「アマと言…」
咄嗟にこのアマの口を押さえた。すまん、俺もこれっきりだ。一生関わってくんな。
「さて、新入生も入った事だし、私も張り切りますかぁ。ってあれ?なぁにしてんだい?斉藤君。」
「へ?何でバレた?」
「そりゃバレるよ。ほら起きな。一人で軍隊の匍匐前進ごっこしてんじゃないよ。」
「分かりました…って一人?」
まぁいいか。
ほら立てこのアマ、と小さく言いながら手を出した。うん、と首を縦に一回振って俺の手をとった。
「何、一人で手なんか出してんの?幻覚?もしかして薬漬けだったりする?」
理解した。先生、このアマ実体のないヤツですわ。俗に言う霊ってヤツですわ。
ここで一つ俺の独り言を言わせてもらおう。俺の好きな漫画の名言で※『人は見えないから恐れるのだ 知らないから怖いのだ たとえそれが悪魔でも 知る事をためらうな』とある。俺はこの漫画を読んで、自分が何に恐れているのか考える機会があった。幽霊や妖怪、悪魔や都市伝説で出てくる名も知れぬモノ。このモノらを恐れる俺は、何故恐れているのか。自分を殺しにくるかもしれないから、実態を知らないから。何故分かったつもりでいるんだ、俺は。
これは人間社会においても似てると思う。そう、ニュースは自分の事にならなければ知ってるつもりでいる。じゃあそのニュースの被害者の気持ちが分かるのか?経験してもないのに共感できるのか?これを言われる事で人間は脳が不利だと判断する。だから、言い訳、責任逃れ、黙る、という行為をする。なら知識があれば、またはその経験をすれば、同じ状況にいれば、分かち合える。一緒に言い合える。ここで実は裏技に近いものがある。一番底辺を知っている事だ。底辺を知れば、実質的に嫌な事を全て知っている事になる。ただ、誰とも分かり合えないのだ。
結論を出すと、知らないのに分かったつもりでいること、これこそ現在の社会の史上最大の問題なのかもしれないと言う事だ。俺の経験上、あの小学校の時の先生たちのことだな。
「何でもないです、今時先生。」
「今時先生言うな、今時先生て。斉藤、いい度胸だな。私の親が付けた名前の由来を推察して当てたまではいいが、それを口に出す行動は不要だよな?な?次に言ってみろ、愛に満ちた部屋(個人面談室ってルビ)に一緒に行こうか?」
「すみません。遠慮しときます。」
愛に満ちた部屋って同人誌でありそうだな。俺、そういうの結構口うるさいよ?
「で、私あのイマドキ先生っていう人には見れないんだよね?ていう事は君以外私は見えないってわけだよね?」
「多分、そうかと。」小声で…
「私、貴様とイチャイチャしててもバレないってこと?」
「遠慮しとく。ぬ〜べ〜の雪女かよ。結婚はしねぇぞ。」小声で…
「貴様にそういう相手ってできんの?」
「気にすんな、あとうるせぇ。」小声で…
「貴様ァ!」
「HiHi」小声で…
キィィンコォォン
カァァンコォォン
キィィンコォォン
カァァンコォォン
いやチャイム短っ!ていうか次の時間割って何だよ。
「先生、次の時間って…」
「え?あぁ〜、なんかするんじゃない?」
センセイ?
いつも思う。霊って怖い姿、たまに可愛い姿、かっこいい姿とかあるけど、自分が見えてて、アッチ側の世界の方々も見えてる人を認識しているのなら、触れられるんじゃないかと。本当に同人誌的展開もあり得るんじゃないかと。良かったぁ、ヤリ◯ンがアッチ側の世界の方々を見える世界観がなくて。これは本当に嬉しい事である。おい、作るなよ。絶対に作るなよ。俺がその作品を見た時点で殴りに行くからな。