小学校卒業は小学七年(中学一年)の始業式、そこで高等学校が進学先になるだけである意味の義務教育再来(地獄か天国、どちらかの訪れ)とでも言うのだろう。
重量でもなく軽量でもない中量二脚パーツブースト無しで歩行するような足取りで向かうは恨めしい我が母校、「義務教育収監施設」である。正直、行きたくない。小一も小二〜小六までも理不尽に怒られた記憶しかねぇ。まぁそんなどこの学校にもありそうな最低基準を通った俺の義務教育ロードだ。なんか恥ずかしい。が、今日ぐらい胸張って登校するとしよう。歩けば、頭のおかしい同級生とイヤイヤ期真っ只中の変なヤツ、皆から好かれているが好かれる程じゃないムードメーカー。土曜だって言うのに相変わらず元気だな、コイツら。
で、もう校門。大々的に看板に卒業式とか書いやがる。この先保護者かの確認があります、も追加しとけ。勘違いして蜂の大群来ても知らんぞ。て感じで開きっぱなしの校門から入り、校舎の入り口目の前で一瞬、立ち止まった。
「今日で終わりなんだな、我が母校よ。走った廊下よ。サボるための陽キャの溜まり場(保健室ってルビ)よ。悪巧みのトイレよ。怪談話に出てくる階段よ。俺の居場所の屋上よ。一人隅っこにいる体育館裏と倉庫よ。プールいらんよ。俺の遊び場、畑よ。」
あぁ、全てが懐かしや〜。なんて、カッコつけただけだ。入り口を入ってすぐ白い看板が目に入った。『この橋渡るべからず』ではなく『卒業式出席の六年生は三階自教室で待機。開会式のファンファーレ役の一年生〜五年生は二階音楽室でリハーサル。閉会式の音楽担当の一年生〜五年生は一階準備室でリハーサル。以上。』とあった。ファンファーレなんてあるんだ。いや隠せよ。卒業生としては流れがあって嬉しい反面、サプライズみたいな感じにして欲しいんだが。しかも二役に分かれんのかよ、紛らわし。途中で入れ替わりするのか、終わったら即・解散!の感じなのかもしれないし。そして俺は、考えるのをやめた。
中央階段を上りながらはるか遠き純粋な時の自分を見つめた。あの時はここで十段跳び無理強いさせられて、悪い友達じゃないって思ってたからノリでやろうとした瞬間、突き飛ばされたっけか。しかもちゃんとこの小学校の清掃員めっちゃピッカピッカにするから滑りながらだったな。で、萎えた。先生に言ったらあのガキども『アイツに嫌な事されてー、それで、ヒクッ(相手を陥れるための嘘に塗れた小汚い泣き声)、怒って階段下りてたらー、アイツが跳びかかって来てー、ヒクッ(同様)、アイツが勝手に転んだんです…ニチャア…』だったか。まぁしょうがない、あの時の俺、よく頑張った。今では立派な人間不信だ!そうこうしてる内に三階到着っと。我が教室は右に行って四つ目だったな。クラスの量やけに多いし。生徒数も多いし。俺にとっては苦痛だった。だが、これでオサラバ!近くの公立(この小学校のまるで直接的に繋がってるかのような延長線上の中学校)じゃない!中高校等だからな!高校も成績さえあれば行けるし、実質の勝ち組だ!
ハイ、キチャッタヨー。俺の一年間の牢獄の目の前にー。まぁ正面扉からじゃなく、裏扉から静かーに入るのが俺の唯一の特権。視線が向けられるのが嫌で習得した固有奥義、『静かなる侵入者』で誰にも気付かれずに扉を開け、閉め、誰よりも表面積を少なくし、椅子を静かに引き、座り、荷物を置く。ヨシ!行ける!
ガラララララ…
話し声が廊下で響き渡り続けていたのに、この音で一気に静まる。そして音がした方向を揃って見る。
何だよ…(裏扉が)結構(音が)鳴るんじゃねぇか…。タダヨウソラノ〜ドコカトオク〜♪
「なんだ、サイ豚ユタカキョウかよ。つまんねぇ〜の。」
豚じゃねぇ。太ってないし、実際豚なんて痩せすぎぐらいだろ。本とか読まねぇのかよ。あと、眼科行けよ。脳まで狂ってんじゃねぇのかコイツ。
「うぅ〜わ。サイッテイの極みだ。」
勝手な偏見を生むな。サイッテイ、って言葉なんてツンデレ特有のだろ。ギャルゲに謝れ。そして極みまでじゃない。極みって言っていいのはあの缶コーヒーだけだ。お前は流れてくる噂を聞いて少しは疑え。耳鼻科行けよ。
「卒業式になってもあんな顔だもんね、やっぱみんなから好かれないのも納得〜。」
お前も眼科行けよ。俺、意外に普通だぜ。何ならカッコいいまで言われても文句ないよ。実際俺の血縁カッコいいまたは可愛いアンド美しいだぜ。遺伝が正しいものならば俺もきっとイケメンになるぜ。保護者会とか三者面談、授業参観で俺の父親と母親見た事ぐらいあるだろ。親にも聞かされないとか、どんだけ親と仲悪いんだよ。哀れ。
「うっわ、近寄んないでよ。気持ち悪い!」「サイテー」「マジでヤバ」「女子に近寄るとかクズすぎ」
近寄ってねぇ。俺の席がど真ん中のど真ん中なんだからしょうがねぇだろ。距離取ろうとしても端が席替えであたんねぇんだよ。教師間では問題児扱いだし。一番監視しやすい場所だって聞いたけど、そしたら一番前にしろよ。気持ち悪いて…俺そこまでだぞ。ただ問題児扱いってだけだから変な考え話した事ねぇし、第一最後に言ったお前、一番女子に近付いて誰よりも校内の女子とキスしてきただろ。お前が危険視されるべきだ。いっその事刺されてこいよ。お前が一番お似合いだぜ。まぁメール来て後ろからグサだろうけどな。
「帰れよ!俺たちの卒業式を汚すなよ!」「そうだ!」「そうだ!」「もう死んだら?あはは!」「そうだな!卒業式を記念として人生の卒業式ってか!」「それイイね〜!」
はいはい。聞き飽きた、それ。何回聞けばいいんだよ。反復法より反復しちゃったら反復横跳びとかわんねぇだろ。汚すのは俺じゃない。お前らが卒業式を汚してるの、気付くのいつだろうな。コイツらが世に放たれるのが一番の汚れ。まぁ一生気付けなぇな。
ヨシ、無事到着。相変わらず視線はこっち向いてるし。
「何、無視してんだよ!なんか言い返してみろよ!」
ボカッ!
殴られた。こんなすぐに来るとは、この俺でも気付かなかった。椅子まだ座れてねんだっつの。せめて座らせろ。
殴られ、一歩後ろに下がる。そしてもう一発。
ボカッ!
今度は足がもたず、というより足を引っ掛けられ、ついでに誰かに脛も蹴られた。そこは痛いんだっつの。しかも、俺的にもっと驚いたのが俺の椅子に光る金色の小さい針、よく見る画鋲ってヤツだな。それが無数に置いてあった。いや〜びっくりです。
ガラララララ…と音を立てて先生、登場。
開口一番に「また斉藤がなんかやったのか?」だった。卒業式だ。先生も忙しいのだろう。
「コイツが、俺の悪口言ったんすよ。」「あ、私も言われた〜」「俺も、俺も〜」
「斉藤さぁ、いい加減やめろよ。マジで。お前らもだからってすぐ殴んなよ〜。じゃあ、卒業式だからリハーサルやるぞ〜。斉藤、お前は途中参加な。」
はぁ、また途中参加かよ。学芸会はパシリアンドサンドバック役。運動会は準備から後片付けまで全部俺。なんかまともにやった事ねぇな。
「斉藤、早く座れ。はじめらんねぇ。」「そうだよ!早く座れよ!」
マジでコイツら調子いいな。
立ち上がり、自分の席まで戻る。椅子を引き画鋲を全て摘み、空のケースに入れた。
「斉藤、また画鋲取ったのかよ。後で話聞くから座れ。」
まぁこうなるわな。
ー
卒業式、証書だけ受け取りそれ以外は説教に費やされた。証書を受け取った時にたまたま見えた母親が俺を心配そうに見ていた。まぁ無いはずの問題行動を勝手に報告されて、俺は本当の事言ってないで全部解決してる感じだもんな。もう言う事もないだろうし、いいか。
退場し、最後にアルバムがその場で渡された。俺はコイツらに顔面に投げられたけど。
アルバムを見たら偶然、俺が二年の時の先生が見えた。懐かしい、この先生俺が受けてる事全部言ったら次の日異動になったんだっけ。すれ違い様に『ごめんなさい。あなたの事言えなかった…本当にごめんなさい…絶対、あなたが中学生になったら…私、あなたの教師になって、助けられたらいいな…』だったか。俺の進学先に先生いるかもわかんねぇし。無理な話だな。
ー
その後コイツらはずっと笑っていたか、あるいは俺への愚痴をこぼしていたかは不明だが卒業式は俺が問題児で終了。家へ帰り母親が笑顔で迎えた。
「豊橋、おかえりなさい。」
「あ、うん。ただいま。先生から話は聞いてる?」
「ううん、知らないよ。というか知る必要ないし、さっさとあの教師も生徒も学校も潰れてしまえばいいわ。」
「母?愚痴はいいから。俺、勉強しないとだし。本も読みたいし。あと、これ。アルバムだってさ。」
「あ、そう。豊橋の二年の先生との写真以外は不要だと思うんだけど。」
なんか母が怒ってる。実際、話はしてないから、ただの愚痴だと推察。それか、寝てる間か風呂から上がった時に傷を見たか。
「じゃ。」
そのまま、二階にある自分の部屋に向かった。横目で見たら母親が魔改造したシュレッダーに卒業アルバムをかけていた、俺の二年の写真だけ引き抜いてたし。どんだけ俺が表面的に問題を作ってきたか知ってるからこそ、その記憶と共に無くしたかったのか…それとも…ありえないな。気にする事じゃないからいいや。
ー
時はとび、四月。次の我が母校となるこの高等学校の入学式。何が迎えようと俺を知る者はいない。新たなるスタートである。嬉し。案内に沿って順路を通りデカい体育館に到着。前もって渡されている小さい紙に書かれた席を見つけ、失礼します、と言いながら席に座る。横にいるのは男と女。この配置的に番号順か。
「おはようございます。斉藤くん。」
可愛い声が確かに俺を呼んだ。女子特有の声に俺は思わず声がした方向を見た。あれ、サイトウって苗字の人めっちゃいるし、俺じゃないかもしれない。実際知り合いなんていない。席合ってるかで聞いた可能性だってある。だけど、だけどもし本当に私的な事であったのなら…。
「あ、えぇっと…どちらさんで?」
「あぁ〜、ごめん、ごめん。やっぱ知らないかぁ…じゃあ、葵って言う苗字に聞き覚えない?」
「あるとすれば…俺の小学二年の時の先生がアオイ…だったかな。」
「それが葵椿って言う名前。私のお母さん。君の話聞いてたからちょっと気になって。で、ここを受けたらたまたま君の名前を見かけて、もしかしたらって思ったの。」
「あ、そうだったんだ。じゃあ改めて、斉藤豊橋です。よろしく。」
ここはステイだ、ステイ。俺の中の狂犬よ、まだステイだ。俺自身のお手噛んでていいから我慢だ。オーケイ?ワン!よーしよしよし。
「私は葵楓。よろしくね。ち・な・み・に」
「はい。」
「この学校、私のお母さん、いるよ。」
あの先生が…いる?いやいや情報量多すぎ。あの先生の娘、しかも可愛いに可愛い。すぐに俺、告白しちゃうんじゃないかぐらいの可愛さと今の所の性格の良さ。声も良き。ヤバい、ドストレートゾーンだ。
これから 入学式を 始めます
これからぁ 入学式をぉ 始めまぁすぅ
これからぁぁ 入学式をぉぉ 始めまぁぁすぅぅ
なんだこの反響の量。多すぎない。
て感じで最初の情報量の多さと運命の出会いを果たしながら始まったのだ。展開がはヤァい。何これー。まじ、ラブコメぇ。
まだ誰も知らない。そう、入学式の最中葵楓と俺、豊橋がヒソヒソ声で互いの自己紹介アンド世間話的な談笑をしたことを。
どちらの親も見てる中で。
なんだ、最高か。もう結婚しませんか。俺の気が今のままで保たれたのなら、平和だろうが。振られてもいい、この想いをいつか…。
って何言ってんだ…会ったばっかりやろ。俺、調子乗るな。これからだ、これから。