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エピローグ 私達が銃を握る理由

 商品である少年少女を解放した紗来奈と乃愛は、お姫様と呼んでいた目的の少女を乗せて都内を走った。停めた場所は高級住宅街にある小さな公園だった。少女が不安そうに振り向くと乃愛が「大丈夫。最後までちゃんと見てるから」と言って車を走らせた。間を置かず、両親と思える男女が少女の名を呼びながら向かっていった。愛する両親だと知った少女も向かって熱い抱擁を交わす。見届けた乃愛は車を走らせた。少女が振り向いたその先には、既に車の影は跡形もなかった。

「お腹空いたぁ!」

 車内で乃愛が叫ぶ。いつものことだ。煙草を吸っていた紗来奈は無視しようとしたが、助けて貰ったこともあって今回は無視できなかった。

「ノアの好きなもの食べに行こうよ。奢るから」

「へぇ。珍しいぃ。ケチんぼなサキナなのにさぁ」

「今日はノアのおかげで助かったからさ。好きなとこでいいよ」

「じゃあ、お言葉に甘えようかなぁ」

 アクセルを踏み倒して都内を駆けるジャガーが向かったのは、世界的に有名なジャンクフードなハンバーガーチェーン店だった。駐車場に車を停めた時、紗来奈は表情をしかめていた。

「マジでここでいいの?」

「なんでぇ? ノアは好きだよぉ。チキンナゲット」

「でもワンコインの店だしさぁ……」

「そうは言うけどさぁ、もう真夜中だよぉ。こんな時間でやってる飲食店なんて居酒屋とかこれぐらいだよぉ。美味しいでしょ?」

 乃愛の意見に逆らえず、代表的ハンバーガーチェーン店で注文する二人。深夜だろうが空腹だった二人は色々と注文し、それを持って二階に上がって部屋の隅に座った。人が少ない店内は静かだ。紗来奈はダブルチーズバーガーのセットでポテトとコーラ、乃愛はエビフィレオのセットでポテトと黒烏龍茶を注文。チキンナゲットやサラダ、シェイクなども頼んだ。人目も気にせず二人は食べ始めた。

「お隣よろしいですか?」

 聞いたことがある声で顔を上げた二人の視線には、柔和な笑顔をしていたエミリアが立っていた。両手でトレーを持ち、ハンバーガーやドリンクを乗せていた。

「エミリアさんおつかれぇ」

「どうしてここを?」

「天の思し召しですかね。嘘です。二人の位置を探っていたところ、ここで止まっていたので。そしたらお腹空いちゃったんですよ」

 隣に座ったエミリアもハンバーガーにかじりついた。

「美味しいです。たまにはいいですね」

「同感でぇす」

「うん。そう思う」

「いいですねぇ。病みつきになりそうです」

「…………あの、エミリアさん」

「なんでしょう」

「詰めないんですか。回収したお姫様以外の商品を殺さなかったこと」

 紗来奈の問い。本来であれば回収目標であるお姫様以外は殺す予定だった。それを二人の私見で行わず、全員を助けた。その子達のことを考えずにこの街まで来させてしまった。

「お二人でその子達をどうにかできますか? 親御さんへ帰すばかりではない。事情があって家庭に帰れない子もいる。邪魔だと言われて売られた子もいる。そんな子供達を、お二人でどうにかできますか?」

 紗来奈と乃愛は答えられなかった。この世界で多少の人脈はあるが、多くの人を斡旋できる者は知らなかった。

 エミリアは小さく溜め息を漏らし、ハンバーガーを食べながら変わらぬ口調で続けた。

「本当なら説教ものです。ですがお二人の働きぶりを見て、私もそれに答えなければいけませんね」

「それって」

「できるだけ私で斡旋しましょう。ああ、もう。面倒くさいですね」

「本当ですか、エミリアさん!?」

「はい。嫌々ですが仕方ありませんね。お二人には荷が重過ぎますから私が預かります。その代わり、二人の仕事量は増えますよ?」

「もちろん!」

「ありがとうございます」

「貴方達だからこうしているのですよ。特別扱いです」

 仕事をしていた時の紗来奈と乃愛は人の皮を被ったなにかのようだった。だが、この時だけは、年相応の女の子だった。それは一時だけだろう。それでも、その瞬間を忘れない二人は戻ることができるのだ。この街で生きていく殺し屋に。返事をした二人は正しくそれだった。

 エミリアには既にその感覚がない。当の昔に捨ててしまって忘れてしまった。だからこそ、二人を愛して使役するのだ。彼女達を死なせない為に。

 それ故に、甘やかしてもいいだろう。エミリアはそう思う。

 眠らない街で、僅かな平穏を噛み締められるように。




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